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120 ※微
それにしてもユンファさんは、今どれほど辛いことだろう――元より誠実も生真面目なほどの青年だったユンファさんが、今や自分の支配欲を満たすそのためだけに彼を「公衆便所」と揶揄 してくるような残虐な男らの性の捌 け口 となっている。
今の時代にはめずらしいほど健全で善良な価値観をもって生きてきた名門大学の賢い大学院生、将来有望と誰しもに見られてきたその青年が、明くる日突然その将来性を握りつぶされ、性奴隷とされ――。
むしろ潔癖といえるほど決して人と徒 らな交際をしてこなかったような純潔極まる美青年が、明くる日突然――もはや義 務 として誰彼ともなく体を暴かれなければならず、あきらかな強姦にさえ抵抗を許されず、それどころか却ってそのような扱い、乱雑で乱暴で粗末なその扱いこそがお前なんかにはもっとも相応しいとさえ罵られ、その誤った底辺の自己価値をくりかえしくりかえし刷り込まれて――。
本来ならば、実に心より信頼した相手一人にのみ明け渡そうと決めていた神聖な場所を土足で踏み荒らされ、挙げ句その神殿を「公衆便所」とまで小便をかけられながら嘲笑 われている。
しかし、ユンファさんが今自分が背負っていると勘違いをしているその罪――それは彼の罪ではない。
ユンファさんは無辜である。
それはあたかもケグリの罪である。
そして神はそのことを知っている。
神の目は――全てを見通す目であるからだ。
貴方の罪ではない。
貴方が穢れているのではない。
そもそもその穢れ、自分の白い肌に次々と塗られて塗りたくられて、もう皮膚に染みついてしまったから永遠に取れることはないと貴方が嘆いている、その穢れ――それも、そもそも貴方の穢れではない。
それを塗りたくった輩 の穢れである。いや、その輩は溝川 の泥を貴方の白皙に塗りたくる幻を貴方に見せることによって、貴方の価値を極限まで貶 めようとしているのだ。貴方と共に暮らしたいからである。貴方とともに暮らすためである。
何としてでも貴方の価値を下げなければ、貴方はとてもその溝川に住まうに不釣り合いだからである。
誰もが鼻をつまんで通りすぎるような溝川に住まう蛙 は、見上げた夜空に煌々 と輝く美しい蒼白い月に恋をした。
……けれども月はどうしたって汚せない。鏡花水月 ――どうしたって蛙如きじゃ月は手に入れられない――どうも一見は汚れたように見えるその月は、その実、濁り悪臭を放つその溝川の水面に映っているだけなのである。
――貴方は決して、汚くなどない。
むしろ貴方は以前と何も変わらず清らかなまま、何一つとして穢れてなどいない、貴方は今もなお尊く綺麗なままだ。貴方は人々の永遠の羨望の的、貴方は蒼い月だ。
貴方は綺麗だ――俺はその人の体に触れることをもってそうユンファさんに示し、伝えたい。
と――俺はそう考えたのである。
「――兎に角、まずは綺麗にしましょう。…今の貴 方 を 苦 し め て い る も の は全部、この俺が丁寧に掻き出して…清めてあげる。」
俺がユンファさんの体をやさしく押し倒しながらそう言うと、彼は「いえ…」と弱々しい茫然とした顔を小さく横に振りながらふと目を伏せ、こうか細い震え声で言う。
「…ぁ、あの…貴方がもし僕の…汚くて臭い肉便器まんこを使ってくださるなら、自分で綺麗にいたしますので……」
とユンファさんの片手がそろそろと下へ伸びてゆくが、俺はその手を優しくつかんで止める。
「…そうではありません。…俺は貴方の体を使 う だなんて、そんなとんでもない真似は元よりするつもりもありませんが…そもそも俺は今、貴方を抱こうとしているわけではない。――ただ俺は…貴方の膣内にある精液を、掻き出そうとしているだけなのです。」
「……? それは…何故……?」
ユンファさんはつと俺の目をうつろな黒紫の瞳で見上げ、か細い声でなぜと俺に問う。じゃあなんのためにと疑問なのだ。俺は真剣な低い声でその質問に答える。
「貴方が苦しんでいるからです。…貴方がその精液に、苦しめられているからです。…それだけです。」
「……、…」
はたとユンファさんが少し驚いて言葉を失う。
――『僕の…ため…だけに…?』鈍くなった暗い紫の瞳に、彼にとっては「有り得ないこと」への驚きがやどる。
「で、ですが…あの、わざわざ汚い僕の…」
「いいえ、決して汚くなどありませんよ。」
俺はユンファさんのその暗い瞳をながめながら、微笑して上下のまぶたを細めた。
「…例え貴方が何十人の男に抱かれていようとも……また、貴方の膣内に何十人の精液があろうとも…ね――決して貴方の体は、汚くなどありません。…むしろ綺麗です。貴方はとても綺麗です。…ですから俺は、貴方の体に触れることにも何ら躊躇 いがありません。……」
俺は言い終えてから目を伏せた。そしてまず、ユンファさんの膣内にあるバイブの尻部分の板についたボタンでそれの電源を切る。
しかしユンファさんは俺の手を拒むようにバイブの尻をまた掴むと、ぬぽぬぽとそれを動かしはじめる。
「んっ…♡ あぁ…♡ あっ…♡ きもちいい…♡ あん♡ あ…っ♡ きもちいい…♡ おまんこきもちいい…♡」
細められた切れ長の目で俺の目を見あげながら、ユンファさんは腰をくねらせ、またそれで淫靡 なふりの自慰をはじめた。――俺はその人の艶姿にく、と小首をかしげ、じっと彼のその色っぽい虚ろな黒紫の瞳をながめる。
――『嫌われなきゃ、嫌われなきゃ、嫌われなきゃ、…犯されなきゃ、怒らせなきゃ、強姦されなきゃ、……僕が彼に惚れてしまわないように……』
「…ああっ♡ …あぁ…きもちぃ、♡」
「それはよかった…。ふふ…それにしても、貴方の声は凄く色っぽくて…凄く可愛い声ですね…? 何て綺麗な声だろう…ついドキドキしてきてしまいました…――つい興奮してしまう……」
「……、…」
はた、とユンファさんが固まる。
バイブをつかむ手を止め、ふるふる震えている肉厚な桃色の唇を少しひらいて、彼は悲しげな顔で驚いている。――今もユンファさんは俺を不愉快にさせようと、わざと大げさに「変な声」を出していたからである。
「……え…? …え……? ぁ、あの、かわい…」
「ええ、とても可愛い声でしたよ。とても可愛らしくて綺麗で…色っぽい声でした。」
「……嘘…、…」
とユンファさんがつぶやく。
彼はうつろな泣き出しそうな表情を浮かべ、その深い紫いろの瞳を揺らして俺の目を見上げてくる。――『ぼくのこえ…かわいい…? へんなこえ…かわいい……嘘、嘘、嘘、嘘! そんなはずない、あり得ない、あり得ない、あり得ない…』――彼の眉尻は下がり、「うそ…うそ…」と彼はその悲しい顔をふるふる小さく横に振る。
「うそ……うそだ…そんな、…こと、…ありえ…」
ユンファさんは混乱している。
彼はそれだけ自分の艶めかしい声を「気持ち悪い変な声」だと全否定されてきたのである。
「嘘ではありません。俺は好きですよ、貴方の可愛い声。…凄く色っぽくて…上品で、綺麗で…もっと聞かせてほしいな。」
と俺は彼にこの水色の瞳で微笑みかけた。
するとユンファさんは泣きそうな顔のまま、震えている切れ長の目を瞠 り、信じられないとふるふるそのショックを受けた顔を横に振りつづける。
「…うそ…そんな…うそ…、うそ、うそ…」
「本当だよ。嘘じゃない。」
俺は微笑をふくませた柔らかい声で「真実」を告げる。ユンファさんの切れ長の美しいまなじりから、はら…と綺麗な涙が彼のこめかみのほうへこぼれ落ちる。
「…うそ…うそ、うそだ…うそだよ…そんなわけない、あり…ありえない……じょうだん、ですよね…? ぼくの、声…気持ち悪い…変な、声……」
「ううん。」と俺は仮面の下で微笑をしたまま首を横にふり、繰り返し繰り返し「真実」を彼に告げる。
「嘘でもないし、冗談でもありません。…誰がそんなこと…そ ん な 嘘 を言ったの…? 貴方の声は気持ち悪くなんかないし、変な声でもありません。…貴方の声はとても綺麗で色っぽくて、幾らでも聞きたいと思うほど…俺が興奮してしまうほどに、とても可愛い声だよ。」
「……、…、…」
ユンファさんはふる…ふると顔を横にふるが言葉を失っている。彼のカタカタ震えているその肉厚な桃色の唇は指一本ほど開いたまま、何かもの言いたげに浅い開閉をくりかえしているが、彼はいま自分が何を言うべきか――俺の言葉に何とレスポンスするのが最適か――も、また自分が何を言いたいのかもわからないでいる。彼の小刻みにゆれているアメジストいろの瞳のなかには思考がない。
これ以上の深追いはかえってユンファさんを追いつめてしまうことだろう。と、俺はユンファさんが穿いている、ショッキングピンクのショーツのビラビラとしたフリル――腰紐――をつまんだ。これらもユンファさんを苦しめている「ケグリの罪」であるので、まずはこれらから脱がせなければならない。
「……ぁ…っ!」
しかしハッとしたユンファさんがビクンッと怯え、俺のその手に手をかさねてくる。…脱がさないでといいたいのだ。彼は俺を幻滅させるためのこの変態チックな下着類を身につけたまま、俺に手ひどく犯されなければならないのである。
「お望み通り…やっぱり貴方を乱暴に犯してあげる。だけれど、挿入に邪魔だから下着は脱がせるよ」
と俺は真っ赤な嘘を言った。
こうとでも言わなければ、ユンファさんがパニックに陥りかねないと判断したためである。――現に俺がこう言うと、「はい…」といった彼はなかば悲しみや恐怖や怯えにその紫の瞳を曇らせつつも、もうなかばでは安堵している。
ここはあえて優しさを見せないほうがよい。
ちょっと手荒に俺がずるっとそれを脱がせてゆくと、彼は腰を浮かせてそれを手伝い、のみならずショーツを下げてゆく俺の手にあわせて自ら膝を曲げ、その細長い両脚からそのショーツを抜きとりやすいようにしてくれる。
すると彼のその協力もあって、けばけばしいショッキングピンクのショーツは割とすぐに彼の体から離された。――俺は翌朝に用事があることもあって幸い替えの下着を持ってきているので、とりあえずこのあとは俺の下着を貸そう。…と、いうことで…ぽいっとそれを後ろ手に捨てる。
さらに俺は「腰を上げて」と低い声で言いながら、ユンファさんの顔に仮面の顔を近づけた。とはいえ、顔に関しては自然とそうなっただけである。
というのも、彼の腰の裏に片手を差し込み――ガーターベルトのホックを外しているからである。…幸いホック型でブラジャーとそう大差ないつくりであったので、ぷつんとそれはすぐに外れた。
……ただ、自分の手に集中している俺が、なかば無心の目でユンファさんの目をながめ下ろしていると、
「……、…、…」
彼は耐えかねてふと目を伏せ、じわ…と濡れたようなあわい薄桃色をその白い頬ににじませる。
「…ふふ…可愛い…、……」
そうはにかんで胸の鼓動をトクトクと速められると、ついついこのまま抱いてしまおうかな…なんて気にもなってくるけれど――今はそんな悠長なことを言っている場合ではないからね。…ユンファさんのパニックは覚悟の上で、俺は成すべきことを成さねばならない。
俺はホックの外されたガーターベルトを、彼の履いている編みタイツごとするする取り払ってゆく。
ガーターベルトやタイツにおいてもユンファさんは協力をしてくれた。…彼の内ももに書かれた忌々しい「ケグリからのメッセージ」に関しては今はどうしようもないが、このあと入浴をすればそれも薄れるか、うまくすれば消えることだろう。
「…さて…じゃあこれも抜きますね…?」
と俺はバイブの尻部分をつまみ、ゆっくりとそれをユンファさんの膣内からぬぬぬ…と引き抜いてゆく。なお俺があえて「抜いてもよいか?」という質問の形式を取らなかったのは、それによってユンファさんが性奴隷としての返答をすることがわかっていたためである。これ以上彼の「自分は性奴隷だ」という自己認識を深めてしまっては、余計に彼を追いつめてしまう。
……ぬぬぬ…と俺がそれを抜き取ってゆくと、
「……ん…っふ、♡」
こてんと横を向いたユンファさんは切なく切れ長の目をほそめながら、その愁眉を悩ましくひそめる。
ほどなくしてぬぽんっとバイブが抜ける。
「……ッ♡」
ビクッと彼の腰が跳ねる。本来であれば「あっ」と声をだしたところだったかもわからないが――むしろ俺はなかばそれを期待していたが――ユンファさんは口もとを片手でおさえて声を殺し、ぎゅっと眉間に苦悶の皺を刻んだだけであった。
……これによっても、やはりユンファさんは先ほど、俺に嫌われるためにあえて過剰なほど声を出していたとわかる。
俺はそのバイブを一旦ベッドのうえに放りなげた。
……こうしてユンファさんが今身に着けているものは、金の南京錠のついた赤い太い首輪のみとなった。
もちろん俺には初恋の愛する美男子の肉体、もっといえばその人の性器をこの目で見たいという願いのような欲求があった。
とはいえ俺は、もうすでにユンファさんの性器の色形を諳 んじてはいる。
それというのはあらゆる方法で俺が得た動画、彼がケグリに性奴隷調教を受けている動画だとか、あるいは『AWAit』等で客の相手をしている彼の動画だとかの視聴によって、俺はもうすでに幾度となく彼の性器を目にしているからである。
……酷ければユンファさんはケグリが撮影するカメラへむけて、「これがユンファの変態まんこです、お見苦しいとは思いますがどうか見てください」などと言わされながら性器を広げさせられていたくらいなのだから、俺の目に録 画 機 能 がある以前に、俺がその人の性器の麗しい色形を記憶しないわけもなかった。
しかし、たとえばAVの中の俳優の性器を目にするのと、実際のセックスで相手の性器を目にするのとではまるで感じ方が違ってくるように――画面越しに見るその人の性器と、実際にその人の性器を目の前にして見るのとでは、あきらかに俺が感じられる印象や感覚というのは全く違うといって差し支えない。
……とはいえ…――今がユンファさんの性器を見てよいタイミングだとは、俺はとてもそうは考えられない。
「……、…、…」
ユンファさんの顔色がみるみる青ざめてゆく。
彼のその伏せられた切れ長のまぶたの下、明らかに怯えきった強ばった黒紫の瞳がくらくら揺れている。カチカチカチとその人の奥歯が小さく鳴っている。
ユンファさんはいよいよ俺が――まだ彼は自覚していないが、自分が淡い恋心を抱いている俺が――汚い自分の膣を見よう触れようというこの段階まできたなり、ひどい恥辱と不安と恐怖を覚えているのである。
「…大丈夫ですよ、怯えないで…――綺麗だよ…貴方はとても綺麗です…。貴方の体は、とっても綺麗です……」
と俺はユンファさんの震えている頬を撫でたが、…彼は目を泳がせながら俺を見上げると、また引き攣った笑顔を浮かべた。
「…ザーメンだらけの僕のきたないまんこ舐めてください…、ザーメンだらけの僕のきたないまんこ舐めてください…、ザーメンだらけの僕のきたないまんこ舐めてください……」
「……、…」
Lunatic――今のユンファさんはもう正気ではない。これはケグリに言わされていることである。
「…まあ、俺は別に舐めても構いませんけれど…――本当はお嫌なんでしょう…? ですから、今回は触るだけに……」
しかし――俺は間違えてしまった。
ユンファさんは険しい顔をして「やめて…っ!」と泣き叫ぶと、ぎゅっと目をつむり、恐怖に顔をしかめる。
「っやめて…っやめてください、汚いんです、汚いから…っやめてください、やめてください、舐めないでください、お願い、汚い、汚いから…っ汚い、汚い、汚い…!」
「……、…」
今のユンファさんには俺の言葉も上手く伝わっていないのだ。俺はいまの彼にとっては曖昧な言い方で「舐めない」ということを言ってしまった。しかし俺は、今の彼には「舐めない」というのをそのまま明言すべきだったのである。
「大丈夫。舐めません。俺は貴方が嫌なことは絶対にしないよ。」
しかし俺のこの言葉はもう彼に届かない。
ガタガタと震えているユンファさんは頭をのろく掻きむしりながら、伏せられている怯えた切れ長のまぶたの下で、ぐらぐらとその黒い瞳を揺らしている。
「汚いまんこでごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、…汚い、汚い、汚い、汚い、汚い、…臭い、臭い、臭い、臭い、臭い、臭い、…」
「…そんなことはない。汚くない。臭くない。汚くない…貴方の体は、決して汚くない。臭くない。――落ち着いて…大丈夫だから、大丈夫……俺の目を見て」
俺はユンファさんの手首をつかみ、軽く揺すりながらそう切々と言うものの――彼は両手で自分の黒髪を掴み、見ひらいた焦点のあわない目をいずこかに凝らしながら、こうぶつぶつとくり返す。
「っごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、貴方様のものです、貴方様のもので、ぁ、ぼくはあなたさまのものです、…僕のまんこはご主人さまのものです、ユンファのまんこもけつまんこもぜんぶケグリ様のものです、ごめんなさい、ユンファの体は全部ケグリ様のものです、ごめんなさい、ごめんなさい、お好きなように弄んでください、…チョロくてごめんなさい、ばかなヤガキでごめんなさい、惚れません、惚れません、ほれません、だからゆるしてください、ごめんなさい、ぼくは貴方様のものです、…ユンファは…ユンファはご主人さまのものです、ユンファはご主人様がいないと生きてゆけません、一生どれいでいさせてください、一生ばかでぶさいくなユンファを飼ってください、…」
「……、…」
記憶が……仕方がない――俺は息を吸い込み、
「……ユンファ、俺の目を見て…――っ!」
と、そう狼が吠 えるような低い大声を出した。
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