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142 ※ ※モブユン
「――はぁ…、はぁ……」
今しがた本当に絶頂を遂げたユンファさんは息を切らしながらも、依然としてベッドに片頬をあずけた四つんばいの格好のままである。――その人の火照 った横顔は、絶頂の余韻に陶然 としたなまめかしい表情を浮かべている。
そして彼のそのあわい薄桃にそめられた高い綺麗な鼻頭 の先には、もちろんケグリと電話がつながったままの彼のスマートフォンが置かれている。
ちなみにそのスマートフォンの縦長の画面に映し出されているもの、それというのは言うまでもなくケグリとの通話画面だ。
縦向きの長方形の画面いっぱいに黒にちかいグレー一色の背景、それの中央よりやや上に配置された直径三センチほどの円 いアイコン――なおその円形に切り取られている画像はやけにシックな色合いの、おそらくはケグリの店の店内で撮影されたウィスキーの瓶の写真――と、その円いアイコンの真上には白いゴシック体で『ケグリご主人様』とケグリのユーザーネーム(おそらくユンファさんがケグリにそう登録させられているのだろう)、そしてそのアイコンの真下にある通話時間は今もなお『15:56』『15:57』『15:58』…と一秒ごと着実に増えてゆく。
それからもちろんその通話時間の下には赤いフックボタン(通話を切るためのボタン)やミュートボタン、スピーカーボタンなど通話設定を操作する円いボタンが規則正しく並んでいる。――ちなみにスマホ画面の光度が低いこと、またその画面のほとんどを背景の黒灰色 が占めていることからも、彼のそのスマホからの光で俺の顔が照らし出されてしまうというようなことはなさそうである。
さて――ちょうど通話時間が『16:00』となったそのとき、
「……は…、…ゆ、ユンファをイかせていただき、…はぁ…、ありがとう、ございました…ご主人様……」
といまだ息を切らしているユンファさんが、そう言いながらおもむろに両腕を立てなおしてうなだれる。いやうなだれたというよりか、彼はそうして下にあるスマホ画面を見下ろしているのであろう。
――ちなみに俺は今はまた一旦上体を起こして、彼のその細い腰をやさしく両手で掴んではいるが、腰を動かすことはしていない。
それは俺が、少なくとも今この状況ではまだ腰を動かすべきではない、と考えているためだ。
……そもそも俺たちがこのセックスを行っている目的、それというのはもちろんこのスイートルームでユンファさんがケグリの命令をきちんと遂行している――ケグリの命令どおり彼が客(俺)に無理やり犯されている、ひいては今現在が「ケグリの望みどおりの展開」になっている――ということを、ケグリに示すためである。
そして更にいうと、この度のセックスで果たされるべきその目的の本質というのは、結局は「ケグリの機嫌を損ねないため」なのだ。が、…そうして機嫌を損ねないよりももっとよいのは、これによってケグリを平常よりいくらか良い気分にさせておくことである。
というのも、俺が観てきたあらゆる動画からも察するに、そもそもケグリはユンファさんが何かしら失敗をしたか否かにはもはやかかわりなく、己れの虫の居所が悪ければそれだけで憂さ晴らしに彼を虐待しているようだった。
しかしそれを逆にとらえると、ここでケグリの機嫌を良くしておけば、あるいはノダガワの家にもどったユンファさんが、よりケグリからの理不尽なお仕置きを受けにくくなるかもしれないわけだ。
――したがって当初の目的にもう一つつけ加え、この通話をもってケグリの機嫌気褄 を取ること、その第二の目的も果たせればなお望ましい。
そしてそのことはすでにユンファさんも理解しており――というよりかは、むしろその人が先にこの今の絶妙な流れを作り出してくれたことによって、俺もその第二の目的に思い当たったのである――、彼は現時点でもそれの達成に向けた言動を取ってくれている。
その上で……およそ今は俺の存在が空 気 であるほうが都合がよさそうなのである。――というのも、今やケグリはすっかり愛するユンファさんと二人の時間を楽しみはじめているわけだが、それというのもケグリが俺の存在を忘れているからこそ、妬 んでいるアルファ男の俺という存在が今ケグリの頭の中に無いからこそ、この男は今は嫉妬もせず機嫌が良さそうなのだ。
さて――下にあるスマートフォンへ向けてうなだれているユンファさんは、なまめかしい哀れっぽい声でこうケグリに阿諛 する。
「ユンファのおまんこ…し、子宮、…とっても、気持ち良かったです……」
するとケグリはねちゃねちゃと耳障りな音のさなかに、興奮した男の陰湿な声でこう言う。
『…はぁ、はぁ、…今すぐお前のヤガキまんこにザーメンぶちまけてやりたいよユンファ、…』
「……ん゛…ッ!」
俺はにわかにこみ上げてくる吐き気にうめいた。
というのも、……醜く興奮した調子をつつみ隠しもせずそう言ったケグリだが、今はなんとその男の気持ち悪い声よりももっと気持ち悪い音、ねちゃねちゃねちゃとその猥雑 な音のほうが大きく聞こえてくるのである――おそらくはユンファさんに自分の自慰の音を聞かせてやろうと、ケグリはあえてスマートフォンを慰めている自分の勃起に近寄せている――。
『あぁ早くユンファの排卵日前の欲しがりまんこに種付けしてやりたい、お前も私のザーメン子宮に欲しいだろう、私の子種で孕みたいだろうユンファ、なあ、…』
「……ぐ…ッき……! ……っ!」
俺は自分の口もとを片手でおさえ、そうしていよいよまたこの口から飛び出かけた暴言を抑えこむ。するとユンファさんは俺のその暴言の気配に咄嗟あわてて「はっはい、…」と声をやや張り上げ、
「…ゆ、ユンファもご主人様のザーメン、いっぱいおまんこのなかに欲しいです…! いっぱいユンファのメス子宮にザーメンぶっかけて、ユンファに種付けしてください、…ユンファのこと、どうかご主人様の優秀な子種で孕ませてください、……」
『……はぁユンファ、…す゛ーーっ…今日穿 いてたお前のパンティからいやらしい匂いがするぞ、…んん…お前の甘いマン汁の味もする…ぐふふ、お前…今日も一日中まんこぐちょぐちょに濡らしながら仕事してたんだな…』
「……、……っ?」
は゛……っ?
この変態ジジイ早くしょっぴかれろ、…俺は自分の手のひらの下で力んだ唇をぶるぶる震わせながら――…吐きそうだ…――、口もとをおさえたまま一旦顔を仰向かせる。
もはやセクハラの程度ですらない、これもまた間違いなく性加害の一種である。――あまりにもユンファさんが可哀想だ…。俺たちが何をしたというのです神よ…、なぜ俺とユンファさんはこんなブサイク初老男の変態オナニー中継なんざ聞かねばならないの、もはや拷問なのだけれど……。
しかし顔を仰向かせた俺はすぐにこんな虫唾 の走るようなことを言われ、されているユンファさんのことが心配になり、ふっと彼のことを見下ろした。彼はぞくぞく…と悪寒に背をわななかせつつも、俺と共に志 す成功のためこう殊勝 にケグリにおもねる。
「……ん…はい、ご、ごめんなさい…。今日も一日中、ご主人様のおちんぽ様のことばかり考えてムラムラしていたもので……」
するとケグリは、やたら上ずった猫なで声でこう応えるのである。
『全くこの淫乱が…、そうならそうと言えば、いつでも私のおちんぽを好きなところに咥えさせてやったというのに、お前はいつまで経っても恥ずかしがり屋なんだからなぁ…――ほら、聞こえるかねユンファ…? …………』
ぐちぐちぐちぐち、――。
「…………」
「……、…」
あぁ何という苦行か、――自分の薄汚ねぇ粗チン…いや、勃起のぐちぐちとした卑猥 な音を俺たち、…いや、ユンファさんにわざわざ聞かせてくるケグリに、彼は困惑気味に「はい…」と答える。
「聞 、…こえます……」
するとケグリは満足そうに、何かねっとりと粘ついた甘い声でこう続ける。
『何の音かわかるか…?』
「……、…」
その質問にユンファさんが黙り込む。
今俺には体勢的に彼の表情が見られないのだが、おそらくは彼にも「何の音か」というのこそ明白であろうとも、単純に強い嫌悪のあまりそれと返答しがたいのだと思われる。
『何だ…わからないのかユンファ…? お前の大好きなものの音だぞ…?』
しかしこうまで言われてしまっては、知らぬ存ぜぬも通用しなくなってしまったユンファさんは、やはり困惑気味にも「あぁ…」と今ピンときたかのように応対する。
「…こ、興奮しちゃいます…。ご主人様、もしかして…僕の大好きなおちんぽ様を、扱 かれて……?」
するとケグリがとたんに甘ったるい声で『はぁそうだよユンファ君、…』と、なぜか「ケグリおじさんモード」になる。
『全く君はいつまでも初心 で可愛いなぁ、…正解だ、今私はね、君のマン汁まみれのパンティでおちんぽを扱いているんだよ、今からユンファのパンティを私のザーメンだらけにしてあげるからね、…』
「……っう゛、嬉しいな、ケグリおじさん…。僕のパンティで、ぉ…オナニー、してくれるだなんて……」
と若干えずきながらも言うユンファさんの声はやはり嫌悪まじりの困惑、しかしその嫌悪対象こそは絶対権威的なご主人様であるケグリであるのにもまして、今はなおその男のご機嫌取りをもって成功をおさめようという折である以上、彼は嫌悪しながらも「嬉しい」というほかはなかった。
……のだが、しかし男 と し て 今自身のことしか見えていないケグリには、彼のその嫌悪混じりの困惑が愛らしい羞恥ゆえと聞こえたようである。
『はぁ、そうだよユンファ、私のユンファ、そんなに恥ずかしがることはないじゃないか、…私のオナニーを見るのお前も好きだろう、なあ? 私のオナニーを見るといつも淫乱まんこ発情させて、我慢出来ずにおまんこくちゅくちゅいじっているじゃないか、…』
「……、…」
殺すぞ。
……俺は凄まじい殺意さえ覚えたが、一方のユンファさんは小さな声でこう応える。
「……ん…うん…、僕ケグリおじさんのおちんちん、大好きだから…。お、おじさんの色っぽいオナニーを見ると興奮して、僕のおまんこいっぱい濡れちゃってね、我慢出来なくなっちゃうんだ…――だから…このくちゅくちゅっておちんぽ扱いている音を聞いて僕、今も興奮しちゃっているよ……」
その「興奮しちゃう」などというセリフとは裏腹に、どうもユンファさんはむしろ嫌悪感からすっかり気分が下がっているようでしかない――この様子ではおそらくだが、ケグリの自慰を見せつけられたなり彼が自分の膣をいじりはじめるというのも(建前上は「我慢できないから」ではあるようだが)、結局はご機嫌うかがいかケグリに強いられているか、といったところなのだろう――が、その一方でケグリはふーふーとどんどん鼻息を荒くしてゆく。
『…ぐふ、…ふー、…今アルファのちんぽ挿れられているユンファのおまんこは誰のものだったかね、…』
ケグリのこの貪婪 な支配欲、独占欲を満たそうという目論見のセリフに、ユンファさんが頬をおおうほど長い黒い横髪を片側だけ耳にかけながら――その所作こそはあきらかに冷静沈着と悠然 としているが――全く狡猾 というか巧妙、絶妙というべきか、その声ばかりは切なくすすり泣くように、
「…っだ、誰にどこをご利用いただいていたとしても、ユンファの体の全ては隅々 までケグリ様のものです、…ユンファのおまんこもケツまんこも、口まんこも…全部、ユンファの全部はケグリ様のもの、ユンファはケグリ様の所有物です…――っでもユンファ……」
と哀れっぽい静かに泣いているような声で言うユンファさんが、
「やっぱり排卵日前の今h…」
と言いながら、自らぐっと俺の恥骨にそのお尻を押しつけてきたその瞬間――。
「…ぁ…――っ?♡」
とビクンッ…腰を跳ねさせ、
「……、…、…」
……ユンファさんはおそるおそると俺の恥骨と自分のお尻とのあいだにやや距離をもたせる。
そして深くうなだれた彼は、俺の目にも見えているその片方の耳をかあっと赤らめながら、今度はまた別の困惑――それこそおそらくは本当に羞恥心ゆえの困惑――に気を取られて硬直している。…申し訳ない。
『何だユンファ?』
「……ぁ…、…、…、…――っ」
しかしユンファさんはケグリに自分の絶句をいぶかられると、意を決したように――とはいえやはり控えめに――、ギッギッギッとベッドスプリングを軋ませながら、そのお尻を俺の恥骨に一定のテンポで押しつけてくる。
「ぁ、…あっ…♡ あっ…♡ あっ…♡ や、やっぱり恥ずかしくて言えません、…ごめんなさい、…」
こうしてユンファさんは先ほどの絶句のフォローをするが、それにケグリが『何だ、言いなさい。命令だぞ』と得意げな男の笑みを含ませた声でいう。
するとユンファさんが腰を前後に動かしながらも、こう切実な調子で声を張り上げる。
「……うぅ…っ♡ はいケグリ様、…恥ずかしい、けど、…ゆ、ユンファ…――っユンファ本当は、やっぱりケグリ様のおちんぽだけが欲しいんです…っ!」
しかしそののち、彼はまたすすり泣いているような湿り声をつくってこう続ける。
「ユンファ…ユンファやっぱり今は、…大好きなケグリ様のおちんぽじゃないと満足出来ません…、…出掛けにあんなに中出ししていただいたのに、ユンファまだ足りないの、♡ もっと欲しい、もっともっとケグリ様のおちんぽとザーメンがおまんこのなかに欲しいの、♡ ――だから、だからどうか、帰ったらこの変態メス奴隷に、ケグリ様のおっきなおちんぽをたくさんお恵みください、…お願いしますケグリ様…っユンファの淫乱ヤガキまんこに、ケグリ様の生のおちんぽ様を挿れて、ユンファのメス子宮にケグリ様の子種汁いっぱいぶっかけて、…ケグリ様の精子でユンファを妊娠させてください……っ!」
「……、…」
なるほど。と俺は思いながら、ここはユンファさんの判断にまかせ、彼の腰を掴みよせながら腰を動かす。――それもここは容赦なく、あたかも無理やり犯しているかのように、ギッ! ギッ! ギッ! とベッドが激しく悲鳴をあげるほど彼のお尻に恥骨を打ちつける。するとこれによってユンファさんはまた本気で快感を得てしまっているのだろう、
「…ふぁ…っ?♡ …ぁ…っ♡ ぅ、♡ …ぁぅ、♡」
俺の恥骨がそのお尻を打つたびにびく、びく、と腰を跳ねさせているが、…おそらく彼はケグリがそろそろ射精することを察している。
そしておよそケグリが気分よく射精さえすればこの通話というのも良い雰囲気のまま終わるだろう、という予測をもって、彼はあえてケグリの射精をうながすような――彼を愛するサディスト男の射精をより快くするような――マゾヒスティックな健気なセリフを口にし、さらにはギシギシとベッドを軋ませることによって、擬似的にケグリと自分がセックスしているかのような雰囲気を演出しはじめたのである。
それだから俺も、あえて射精間近の男の激しさで腰を振りはじめたのだ。
要するにこれというのもまたケグリをおだてるためのユンファさんの、あるいは俺たちの企みあっての演技なのだが、――バカケグリはまんまとそれに乗せられ、クククと機嫌よさげに喉を鳴らしてはこう言う。
『…まあったく…ユンファ、お前の体は公衆便器だろうが、そんな我儘 言うんじゃない、…今夜はいい子でたっぷりと他人棒に犯されてきなさい、…そうしたらお前の大好きな私のおちんぽでたっぷり可愛がってやるから、…』
「……ぁ…っ♡ …は、はいご主人様、…かしこまりました、…ぁ…ありがとう、っございます、…」
とユンファさんは悲しげな声ながらも従順にケグリのそれを受け入れる。――なお彼はこれによって、本当は他の誰かに抱かれるのは嫌だが、しかし愛するケグリに嫌われたくない、見捨てられたくはないからと従っている、憐れなほど健気な「ケグリのメス」をまた演じているのである。…つまりケグリはそうした、自分にだけはどこまでも従 順 な 女 が好みのタイプなのであろう(なるほど気色悪い)。
『大体お前なんぞをわざわざ犯してくださっているお客様の前で、結局は私のおちんぽでなきゃ満足出来ないだなんて失礼なことを言うもんじゃないぞユンファ、全く、…私に恥をかかせるんじゃない、…そのおちんぽも私のおちんぽだと思って、私の性奴隷として失礼のないよう、しっかりと全身全霊でご奉仕してきなさい。――私の命令だぞユンファ、いいな…?』
とスマホのスピーカーからノイズまじりに聞こえてくるケグリの声には、ふっくらとした満足感の余裕とその満足感にふくらんだ男の悦びの余裕が含まれている。――どうやら今やっと(このギシギシという音で)俺の存在を思い出したらしいケグリだが、ユンファさんのこの「憐れなほど一途なケグリのメス」演技が奏功し、かえってケグリはその(俺に対する)優越感からより機嫌が良くなっているようである。バーカ。
「あっあっ…♡ っはい、はいごめんなさい、…かしこまり、…ました、ご主人様…♡ …っでも……」
ユンファさんはそううっとりとした声で言いながら、俺の両手がつかんでいる腰をなまめかしくくねらせ、おもむろにまたその頭をベッドに下げると、そこに片頬を着ける。この行為で案外本当に快感を得てしまっている彼は、もしかするとだんだん力が抜けてきてしまったのかもしれない。
……スマホの隣にある彼の横顔は恍惚とゆるんで火照っている。
俺がギッギッとユンファさんの膣を突けばそのたび彼は「ぁ…♡ ぁ…♡」と、あまりにもしとやかながらなまめかしい嬌声をあげる――が、そのように本当に訪れる快感のさなかにも彼は、このセックスにおいて遂げるべき本懐を忘れてはおらず、
「ぁ…♡ 貴方様の、ご命令とあらば…ユンファ、今夜もいい子でいっぱい他人棒に犯されますから……――だからどうか…」
と快感から偽りではない甘い嬌声でケグリにささやく。
「…ぁぁ…♡ ゆ、ユンファが帰ったら…どうか…――ご褒美に…ユンファといっぱいえっちしてください、ケグリさま……♡」
「……っ」
……俺は目をつむりながら上体を前にたおし、ユンファさんの上半身をぎゅっと抱きしめながら、ひたすらにユンファさんの豊満なお尻に恥骨をぶつける――「僕といっぱいえっちして…♡」とは俺だってユンファさんに言われたいのに、そう…さすがに俺は嫉妬したのである――。するとそのギッギッギッギッとベッドスプリングが軋む音に合わせ、彼は上ずった甘ったるい声であえぐ。
「あっ…!♡ んっ…♡ んっ…♡ …けっケグリさま、…ユンファがんばります、♡ だから帰ったらご褒美にいっぱいえっちして、♡ 帰ったらユンファ、ケグリさまにいっぱいいっぱいご奉仕したいの、♡ …だっだからいっぱい、…ユンファのこと、…いっぱいいっぱい抱いて……っ!♡♡」
『…はぁ、はぁ…わかったわかった、…何だ全く、そうやって電話でまで私のちんぽに媚びるのかユンファは、…』
とケグリは呆れたふりで、しかしやはりなかばは嬉しそうに言うと、『あぁ…』と気色悪い声で喘ぐ。
『今にユンファを初めて抱いたときのことを思い出すと一入 だなぁ…。あんなに私を睨んで“あんたのちんぽなんか気持ち良くない、痛いだけ”だと言っていたお前が、今や私のちんぽやザーメン無しじゃ生きてゆかれない淫乱肉便器になったんだもんなぁ……――なあ覚えてるかユンファ…? 私がお前の処女をもらってやったあの夜のことを……』
「……、……っ」
俺は思わず動きを止めてしまった。
凄まじい怒りに、ギリと噛みしめた俺の奥歯が音を立てる。――どうせ強姦めいた形でユンファさんの初体験を汚したくせに、何を、なぜそうあたかもロマンチックな記憶を思い起こすかのように語れるんだ、…絶対殺してやるからなケグリ、…
そして案の定ユンファさんは、
「…は、はい…、忘れ、られません…。だって…記念すべき……、……」
とか細い声で何とか答えようとしたが、しかしあまりの辛さにか演技でさえそれ以上のことは言えず、ぐっと息を止める。…彼の体が俺の腕の中でぶるぶる震えている。ふと見れば、彼はまた例の凍り付いた微笑をその横顔に浮かべていた。――ユンファさんはそのときのことを、もはやトラウマといえるほどまでに辛い経験として記憶しているのだろう。
現にユンファさんの心臓はその記憶のフラッシュバックに痛ましいほど動悸し、彼の息は「は…は…」と浅く短くなっている。脂汗もかき始めている。俺はユンファさんの片手を上から包み込み、音を立てずに彼の耳の裏に口づけた。
……もう無理だ。これ以上は彼、パニックになってしまうかもしれない。――しかし興奮したケグリはねっとりと卑しい優越感、支配欲、独占欲にまみれた声でこう続ける。
『…そうだよなぁ、君の処女をもらってやったのは私だからな…。私がユンファ君を女 に してやったんだ…。そりゃあユンファ君のまんこは私のおちんぽの形になってるもんなぁ、そりゃあ他人棒が気持ちいいわけないな、なあ…っ? ほらユンファ、“ケグリおじさんが僕の処女をもらってくれてほんとに嬉しい、ユンファを女にしてくれてありがとうケグリおじさん”って言ってごらん…?』
「……ん、…うん……」
とユンファさんは自分の心の苛烈な痛みをこらえ、無理やりに笑った震え声で、その男にこうおもねる。
「……うん、ケグリおじさん…、ケグリ、おじさんが、ゆ、ユンファの、……?」
しかし俺がそれを最後まで言わせなかった。俺はさなか彼の耳に極めて控えた小声で「大丈夫、あとは僕 に 任せてください」とあ る 意 味 特 殊 な イ ン ト ネ ー シ ョ ン をもってささやいたのである。
『何だほら、早く言っ……』
「なんや…さっきから聞いていればあんた、ほんまいけずやなぁユンファさん…?」
と俺はしっかりとケグリにも聞こえるように、ユンファさんの耳もとで囁いた。
「……ッ♡ ……ぇ、…え……?」
するとぴくっと肩をすくめたユンファさんが、かーっとその美しい顔を真っ赤にしながら俺を振り返り見、丸くなった目をしばたたかせて驚いている。
――俺が唐突に京都弁、…否、「京 こ と ば 」を使いはじめたせいである。
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