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世界。
ここは世界だ。
世界――何もない暗闇の中に月があり、星があり、「神の目」がある。
足りないと思うだろうか?
いいや、しかしこれだけで十分なのだ。
他のものは今から俺たち二人が創造するからである。――恋とは己れの神を見つけるための本能、愛とはその神と創造をするための本能――俺は見つけた。
ユンファさんも少し遅れて見つけた。
やっと見つけた――そして今から、創造する。
……俺は今ベッドの上にあぐらをかいて座っている。
そして左腕に預けられたユンファさんの背中をしっかりと支え――また、左のあぐらをかいた脚でも彼の腰の裏をささえ――、俺の青白く曜 く目をじっと見上げてくる、その恍惚とした美しい紫の瞳と見つめあっている。
「ああ…この瞳の中に、愛しい貴方を閉じ込めてしまいたい…、永遠に…ね……」
月の光を受けたアクアマリンは、その月華 を内に取り込み光り煌 く――透明な月明かりがふんだんに射しこむ海底にゆっくりと堕ちてゆきながら、多彩な光をチカチカと放つタンザナイト……。
海底をまで覗かれ、薄明の極地をまで見透かしながら、見つめ合っている……ただし、彼の紅いシルクを纏う、かたく平らな下腹部をゆっくりと撫でまわしながら…――。
「……は…、……っ♡ …っん、♡」
じゅわり…両頬に薄桃をにじませるユンファさんの両目が悩ましげに細まり、その人の眉もそっとひそめられる――ぴく、と腰が跳ね――俺の見ている、切れ長のまぶたのふちに密生する長いまつ毛が伏せられた。…俺は彼の顎をつまんでくっと上げる。
「駄目駄目駄目…、ほら、ちゃんと俺の目を見て…――俺は先ほど言いましたでしょうユンファ……」
俺が先ほどユンファさんに何と言ったか?
……俺の瞳の奥底にひそむ――深海の魂を見初 めてくれたユンファさんに、彼を組みしいた体勢のまま、
〝「ユンファさん、ありがとう…、俺を見付けてくれて、本当にありがとう…――すなわち貴方は今、俺の瞳をしか見えていない…、そうでしょう…? ――あぁ…これ以上の欣 びが、一体この世のどこにあるでしょうか……」〟
と言った俺の両頬は、その内側に燃えさかる喜悦を溢 れさせていた。
〝「さあ、もう見失わないで…――この世に蔓延 る暗黒の中、貴方のよすがたるは俺のこの瞳のみなのですから…――どうぞ見つめていてください…。その美しい瞳に、この俺だけを映していてください…――これよりは…まばたきのその一瞬の間だけが、俺が貴方を独 りぼっちにしてしまう時間です……」〟
……すなわち俺は先ほどユンファさんに――目を逸らさず、俺の目を見つめていて――と言ったわけである。
「そうです…そう…」と俺は、再び俺の目を切ない眼差しで見上げたユンファさんに、両目をほそめる。
……そしてご褒美に、彼のうすく開かれた赤いふくよかな唇を一度食み…、唇をかすかに触れあわせたまま、間近にあるうっとりととろめいた美男子の両目と見つめあう。
「んっふふ、だけれど…――俺の瞳の中に貴方を閉じ込めたその時…、俺もまた、貴方の瞳の中に閉じ込められてしまうのですね……」
「……、…」
こうして…紫の貴石の内包物となった青白い光、それは深海から見上げる水面 、そのさざなみの煌 めき…――しかし空から見下ろせば、なるほどその海の水面は薄明の色に染まっている……。
「しかしそれがよいのです…、それだからよい…。閉じ込め、閉じ込められたい…――閉じ込め、閉じ込められるのです…――お互いの瞳の中に……」
と俺は陶然 と語りながら、チャイナドレスの下半部の布の下で立てられたその長細い脚、その合わさった両膝側面のさかい目を優しく手でわり開き…そのまま、なめらかなほのあたたかい内ももをするすると撫でさげてゆきながら……、
「貴方の瞳の奥の奥、一番奥…、貴方の魂の内側に…どうぞこの俺を囚 えてください、ユンファ…――その神殿こそが俺の世界だ…、俺の世界の全て、俺の全てだ…、つまり貴方の魂の内側こそ…当為 この俺が永住するべき場所だ…――そうしてこれよりは、二人きりの世界で生きてゆきましょう…、ね……」
「…っだ、…だ、め、…」
ユンファさんが泣き出しそうな目をしながら――しかし苦しげにまぶたを細めても、俺の目はきちんと見つめたまま――慌ててはしっと俺の手首をつかむ。
も ち ろ ん 彼は「二人きりの世界への永住」を嫌がったわけではない。俺の手が彼の勃起した陰茎をやさしく掴んだので、それを危ぶんだのである。
「どうして…?」――俺は甘いおだやかな声で尋ねながら、今や顕然 としたその妖艶 なやや細身の形を、浮かされそうな熱を、上質な和菓子のようなしっとりとなめらかな感触を、自分の手のひらで味わうように、ゆっくり…と…ゆっくり…上下させる。と、ユンファさんは腰をビクッとさせながら、いよいよ苦しそうに顔を歪める。
「ぁ、…ぁ、♡ あっあの、僕、…そこ…そこで、気持ちよくなっては…駄目…なんです……」
「それは、どうして…?」
俺が再度問うと、彼は悲しそうにその美貌を曇らせ…そして、ひと際小さな吐息でひどく言いにくそうに、
「僕がめ…メス、奴隷、…だからです……」と答えるのである。
……いいや、そんなまさか! 大嫌いな言葉だ!
俺は怯えているユンファさんの両目を、慈しみの心をこめて眺めおろしながら、いいえ、とゆるやかに、丁寧に首を振る。
「…何を仰言います…、ユンファさんは紛 う方なき男性でしょう…。そしてそもそも、おちんちんで気持ちよくなる権利がない…――そんな人、この世にはいないのです……」
とそして俺は、ユンファさんの勃起をゆるくしごきながら、え、と驚いた彼の小刻みに横ゆれしている紫の瞳に、自分の青白い光を近寄せ――その瞳を占める「自分」の割合をもう少し大きくする。
「貴方のお体はあくまでも貴方のものだ…。すなわち誰かではなく、貴方が…、貴方が、それの善 し悪 しを判断してよい…――と言いますか…、どだい貴方しか、その判断の権利は有していないのです……」
「…でも…」
それでもやはりユンファさんは、下衆男どもにすり込まれた罪悪感から怯えながら、「でも…、でも…」と…――しかし、といってその言葉は、甘い吐息で形づくられているのである。
……彼は本当は、反面嬉しいのだ。
『ここで気持ちよくなったら駄目…駄目…、ご主人様にそのことがバレてしまったら、僕…――それはわかっているのに…――彼、ちっとも僕のことを、性奴隷として扱わない…。一人の人…一人の尊厳ある男性として、扱ってくださる…――まさか僕のそこまで…無用の長物だと日ごろ蔑 まれ、射精はおろか快感を得ることさえ禁止されて…、そもそも、僕を抱いてくださるにおいては、別に必要でもないのに…そんなところにまで、こんなに優しく触れてくださるなんて……、駄目…でも…でも駄目…、朝が来たら僕は、』
俺は今にも泣き出しそうな目をしたユンファさんに、この両目で微笑みかける。
「いいえ…、しかし、確かにその判断の権利こそは貴方しか有していないにせよ…――少しばかり訂正します…――ユンファさんのこのお体は、俺と、貴方…、二人だけのもの…。…たとえ朝が来ても、貴方の体は…ユンファさんは、俺のものです…――そのことをどうか、お忘れなきよう…、……」
そして俺はそう言ってのち、またユンファさんの半開きの唇を食んだ。――もちろん右手の緩徐 な「愛育」は絶え間なく。
……唇を離しただけの距離で見つけた、そのうっとりとした夢見がちな切れ長の目――ちらちらと、俺への狂おしい愛が煌 めいている紫の瞳――、俺はその瞳を青白い光でねぶり、ねっとりと愛撫をしながら…、
「では…さあ言ってご覧なさいユンファ…、〝おちんちん、気持ちいい〟……」
すると夢見がちなぽーっとした顔をしているユンファさんは、たしかに得ている快感から喘ぎ喘ぎ…、
「……おちん、ちん…きもち…いい……」
と素直にくり返しながら、ほとんど無意識に俺の片頬へ真っ白な手のひらをそえてくる。
「きもち…いい…です…、貴方に触れてもらえるの、気持ちいい……」
そして俺の瞳に、俺に夢中になっているあまり、もう少し顔を寄せてきた彼のとろめいた紫の瞳は、『どうにか…なりそうだ…』と俺だけを強く欲して言うのだ。
――『頭がぼうっとして…おかしく、なってきている……、溶けてしまいそう…――…溶けて、しまいたい…――彼の手で…僕の何もかもを、溶かしてほしい…、……そしてそのまま…貴方のせいで、消えてしまいたい……』
「いい子だね…」――上ずりそうなのを抑えこみ、努めて低めた俺の声は震えている。俺の頬が悦 びにぞくぞくと毛羽立つ。
ご褒美をあげないと…――彼のなめらかなやわい亀頭を親指の腹でゆっくりとなで回す。にゅる…にゅると…、尿道口からあふれてそこをしとどに濡らしている、その粘 ついたカウパー液を塗りこむように。
「ッは、♡♡」するとユンファさんの腰がビク、と軽く反れ、俺の手首を掴んだままの手にはぐっと力が、そしてその人の眉目にはあでやかな苦悶がにじむ。
『だめ…』声のない怯えゆえの拒否――鋭い快感に思い出された罪悪感――への反応は、しかし俺はこうささやきながら、顔を小さく横にふるのみにとどめる。
「何て可愛い顔でしょう…、ふふ、ククク……」
ユンファさんは先っぽもお好き…か――しかし、俺はここで彼の勃起した陰茎をあまさず、一度だけ手のひらで包みこむように撫でまわし…――それから、小ぶりな陰嚢 からつけ根のあたり、鼠径 部 を、極めてやさしくまったりと撫でてあげる。
するとおよそゾクゾクとした、まるで霧雨 が当たるような快感を彼に与えられているはずであるが――しかし、これはあくまでも前座である。
「……は…、……」
と、さなかユンファさんは恍惚とした――しかし恋する者の弱々しい表情――をうかべ、泣き縋るような目つきで俺の目を見つめ上げてくる。
俺はニヤリとしながら「ん…?」と甘ったるく、どうしてそんなに可愛い顔で俺を見るの…いいえわかっている、貴方は俺が欲しいんでしょう…と、彼を少しからかった。――すると潤んだ紫の瞳に嬌羞 の震えをあらわして、だがそれでも俺の目をじっと見つめてくるユンファさんが、…愛おしくて愛おしくてたまらない。
「ふふ…ユンファさん…、俺のこと、好きですか…?」
「……、…」
彼は俺の目をその透きとおった紫の瞳で見つめたまま、切ない顔をこく、とわずかに縦に動かす。
「愛している…? きちんと…」俺はユンファさんの顎をつかんで仰向 かせる。
「この美しい唇で、言って…――俺のこと、愛している……?」
「……は…、……」
するとそうあえかな吐息をこぼしたユンファさんは、危うげな陶酔の表情をうかべ――およそ俺の瞳の中に広がる海へ身を投げだす、そのようなある種危険な快楽を帯びた――やや上ずったささやき声で…、
「愛して、います…、貴方を……、貴方、だけを……」
「……ふっふふふ…――ありがとう…、俺も勿論…」
俺は「貴方だけを愛しています…」と言いざま、ユンファさんの勃起した陰茎に手をもどした。それをつかんでくちゅくちゅと甚 だ責めたてる俺の手つきには、興奮のまま、すなわち本能のままの荒々しさがある。
「っゥく、♡ ッ…!♡♡ 〜〜〜ッ♡♡♡」
するとユンファさんはぎゅっと恐ろしそうに目をつむって顎を引くと、こてんと俺の胸板に頭をあずけてくる。――そしてそこであえかな慄えた吐息で、こう慌てて俺を制止しようとする。
「ぃ…イッちゃいます、だめ…、だめ…僕イッちゃう、こ、このままじゃ…――だ、だめ……っ」
「……ん…? ふふふふ…、……」
としかしそれを受け入れない俺は、もとより片手ではしごき立てる動きを止めないまま――もう片手でユンファさんの二の腕を掴んでその上体を抱きよせ、さらに彼の強ばった上まぶたに軽いキスをしてから、そのまぶたにこうささやく。
「ならばイきましょうねユンファ…、このまま俺の手によって気持ちよく射精するのです…――貴方が射精することは、決して悪いことではありません…。寧ろ、善いことに違いないのですから……」
「っで、でも、…駄目、僕、…」
しかしユンファさんは泣いているような震えた声で、こうつぶやくように言った。
「……お仕置、き、……」
「……、…」
俺はひたと手を止めた。
……そして悔しいが、そっと彼の陰茎を手放す。
俺が今宵ユンファさんに味わい尽くしてほしいのは、身も心も、その魂をまでとろかすような甘い快楽、甘い恋の蜜、甘い真実の愛、甘い至上の幸福である。
――そしてその「至極の甘美」に、俺はたったの一滴も恐怖のエグみ、もっといえば、もう「ケグリ」をなど混入させたくはない。
「……はぁ……」
いまだ目をつむっているユンファさんは俺の胸にもたれたまま、安堵 したらしいため息をついた。――絶頂の瀬戸際におかれていてなお、である。…そのすさまじい焦燥 感にも勝 る安堵とは、およそ健全ではない。
健全ではないが…――現段階では、俺は「お仕置きなどされませんよ」と断定的に言うことはできない。なぜならその「可能性」は、夜明けとともに蘇 る定めにあるからである…――俺は両手でユンファさんを横から抱きしめ、彼の額に口づける。
「大丈夫…、怖がらなくともよいのです…。いいえ、怖がらせてしまってすみません……」
「……、…」
え…と目を開け、おぼろげな、しかし驚いたような上目遣いで俺を見やったユンファさんは、その頬ににじんだうす桃色の赤味をじわ…と濃くする。
「ふふ…可愛い…、いえ、〝いやよいやよも好きのうち〟という場合でもない限り、愛するユンファさんがお嫌なことは、俺は絶対にいたしません。――また、もし知らず知らずの内にそのようなことしてしまったとしても、貴方が本気で嫌がるようであれば、俺はこうしてすぐにでも必ずそれを止 めます。――そう、お約束します。」
「……、……」
ユンファさんは胸をドキドキと高鳴らせながら、うっとりと俺の瞳に魅入っている。その小刻みに揺れている紫の瞳が『信じられない…』とほほ笑みながら言うのだ。――『こんなに…こんなに優しくされている自分が、今ここにいることが…、夢のようで、にわかには…とてもじゃないが、信じられない……』
俺はユンファさんのそのうっとりとした眼を愛おしく見つめながら、しっとりとした笑みをふくませた声でこうつづける。
「ですから貴方も、どうぞ俺に約束して…――嫌なことは嫌だ…と、言ってください…。正直に…決して恐れず、俺に気を遣わずに……ね…? わかりましたか…」
「……、…」
ユンファさんはとろんとしたまぶたを、ゆっくりと下ろし…閉ざして…また薄く開け、俺の目を見た。こく…と浅くうなずきながら。
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