712 / 716
173 ※微
俺はベッドに依然座っているが、今は膝を立て、さらにはその開かれた脚のあいだにユンファさんを座らせて――彼は紅いチャイナドレスの下半分の布の下、両脚の脛 を八の字にするよう、立てた膝の横同士を着けて座っている――、ぎゅうと後ろから彼を抱きしめている。
「……、…、…」
なおユンファさんは今、そのうつむき加減な美しい横顔に嬌羞の表情をうかべて伏し目、そして、その痩せたシャープな頬をじわりと紅潮させている。
……それは――好きな人である俺に後ろから抱きしめられて密着している、という幸福な緊張感のともなうはにかみもあれど、ほとんどは――俺のスラックスの閉ざされたファスナーの檻 に囚 われている、顕著な男の欲望の感触が、彼のお尻と腰の裏の境い目らへんに押しつけられているため、である。
しかし今はそれもやむを得ないこと――それはさておき。
「…ユンファさんは本当にお綺麗だ…」と俺はうっとりとしながら、彼のほの紅 い頬にそうささやいた。
しかし、すると眉尻を下げてふるふると幅せまく顔を横に振るユンファさんは、長いまつ毛をもう少し伏せ、か細い声でこう返す。
「……い、いえ、その…ぼ、僕、…ごめんなさい、綺麗じゃ…ありません…――だからあ、あの、あまり…あの…見ないで…、見ないで、ください、僕の、顔は……」
「嫌だ。」ところが俺は即座に断った。
「俺はユンファさんのお顔を心から美しいと思っています。――折角アイマスクも外して、やっと全 けきその綺麗なお顔をこの目で見られるというのに…――何故そんな、見ないだなどと勿体 無いことをしなければならないのでしょう。…いいや嫌だ。断固、嫌。」
「……、…」
その俺の固辞にユンファさんは困った顔をした。
そして「でも…」と小声で言いながら、少し笑う。
「……、あの……ぼ、僕、…馬鹿だから、」
しかしそう言いながら、ユンファさんはじわりとその伏し目を潤ませ、泣き笑いとなる。
「馬鹿だから、ほんとにチョロいから、…ごめんなさい、僕、…だって僕嬉しいんです、正直、貴方に綺麗だと言っていただけると、…だから、…っだから僕、…馬鹿だから、真に受けてしまいます、だから…――だから…、あまり、…あまりもう、…言わないで、…」
ほろ、とユンファさんの伏せられた美しい紫の瞳から、ひと雫の涙がこぼれ落ちた。――いいや全くあのケグリの憎きこと、その涙さえも恐ろしいほどお美しいというのに…――俺は彼の頬にちゅ、と口付けながら、その人の震えているふくよかな下まぶたを、人差し指の腹でそっとなでる。
しかし…――。
「ごめんなさい…。だけれど嫌です…。」
と俺はものやわらかな微笑を帯びた声ながら、彼のその拒絶の要求を謝絶する。
「どうも信用されていないようですけれど、まさか俺が美辞 麗句 を以 って貴方を弄 するような男だとでも…? そもそも俺の言う〝綺麗だ〟などの言葉は、間違っても甘言 やお世辞の類ではなく…――もとより溢美 と思われても困りますし…、はたまた、この蜜月の目合いを盛り立てるための艶言というだけと思われても、些 かの誤謬 があるように思われます。――それは何故か…? 俺はあくまでもお美しいユンファさんをただ〝美しい〟と、そのように〝形容〟しているに過ぎないからです…。」
俺は「したがって…」と、…だが、その先を言う前にもう一度ユンファさんの頬に口づけてから……、また、彼の頬にこう甘やかな低声で語りかける。
「貴方は真に受けてよいのです…。…俺は俺の真実を、抒情 的に口にしているだけなのですから…ね…――しかし、あえて言えばそう…、どうぞ、真に受けられて。――嘘ではなく…あたかもその言葉こそが俺の真実、すなわち真正 なる本音なのですから、何を恐れることもなく是非…貴方には額面通りにお受け取りいただければ、俺としてもその方 が快 いのです。」
俺のこの説明を儚げな泣き顔で聞いていたユンファさんは、は、…は、とかすかにもしゃくり上げながら、しかしふっと破顔した。
「…はは、…どうして貴方の言葉って…こんなに、安心出来るんでしょうか…――何だか不思議な…魔法のような説得力があるんです…。…すごくロマンチックで、どこまでも優しくて…それなのに、理路整然としていて……」
「…ふふふ…、お褒めいただきありがとう…」と俺が唇を、ユンファさんの耳の間近に寄せてささやくと、彼は「……ッ♡」――ビクッと肩をはねさせ、その肩を縮こませながらうなだれる。
「……おやおや、何とお可愛らしいのか…、俺の声は、やはり快美 でしょうか……?」
「……、…ぁ、あの…はい…、貴方の、声……」
そうユンファさんは言いつつ――また俺の囁き声だけで自分の下腹部に生じた快感に困惑しながら――、遠慮がちにふ…と俺から顔をそむけ、斜め下で顎を引く。
「…やっぱり貴方の声も…不思議…、頭がぼうっとして、変になりそうになる…、それに、――な、何故でしょう僕、はは、…貴方に囁かれると、…その…し、子宮が……」
そして恥ずかしそうに、可憐にその伏せた長いまつ毛を震わせながら、彼はそっと自分の下腹部に片手をそえる。
「どうしても子宮が…震えてしまうんです…、まるで貴方の声が、ここに直接伝わってくるように……」
「…そうですか…、とすると、俺の声は…」――と言う俺の唇は、ながらあえて逃げるように距離をとった彼の耳に再び近づき、今度は耳の穴の上に押しつけた状態で、こう低音の吐息っぽい声でささやく。
ユンファさんの下腹部にある手の甲ごと、もみしだくように撫でながら。
「ユンファさんの子宮 を弄 る…」
「…く…ッ♡」ビクッとしたユンファさんのその体を後ろから抱きすくめる。
「いいえ…貴方の魂をも甘美に震わせる、特別な魔法を帯びているのでしょうね…――さながら〝運命のつがい〟…貴方の運命の男の声のように…――もしくはそう…ふっふふふ…、この俺こそが、貴方の〝運命のつがい〟なのかも…しれませんが…、ね……」
「……〜〜〜ッふ、♡♡ …ゥぁ……ッ♡」
すると俺の「ね」にいよいよ甘く声帯を弾ませたとともに、ビクンッとまたユンファさんの腰が跳ねる。それは子宮にほとばしった快感のせいで。――ところが、すると彼は慌てて片手で口をふさぐのである。
そして申し訳なさそうな憂 いをその伏せられた艶美なまつ毛に宿し、こうぼそぼそと謝ってくる。
「ごめ、なさ…声…、僕…変な声、ごめんなさい…」
「…いいえ…? とても可愛い声だ…。恐ろしいほど艶 めかしく、思わず愛欲を唆 られて…、男として堪 らなくなります……」
と俺は依然ユンファさんのふちの赤らんだ耳に、たっぷりと男の低い欲情の吐息を含ませてささやきながら、まずは彼の口もとにある手を下げ……それからわざとぐ り 、と――また彼の胴を抱きすくめて――自分の雄々しい金剛 を、彼の腰の裏に押しつける。
「は、」すると息を呑 んだユンファさんは、斜め下へ伏せたその儚げな美貌に、目を瞠 った恥ずかしそうな驚きの表情をうかべる。
「失礼。恥ずかしい……?」
「……、ぃ、いえ…恥ず、…恥ずかしくは…ただ、」
俺のその硬さが示す意味を察したゆえの困惑と緊張に苛 まれながら、みるみるとその顔をうす赤くしてゆくユンファさんは、しかし、そうは言うもののやはりはにかんでにこっと笑い、
「その…あの…、どう…どうして、…というか…、こんなに…ぁ…あの…硬く…」
「この巌 こそは要するに、ここに募 った俺の貴方への愛の顕現 に相違 ありません…――しかし付け加えるとすればそう…ユンファさんのこの類 稀 な艶麗 さ故 のことですよ…、んっふふ……」
と俺が少々からかうように鼻腔で笑うと、彼はその紅いぽってりとした唇を閉ざしてしまった。
しかし、長い黒いまつ毛の下でふるふると震えているその潤んだ紫の瞳は、『どうしよう…』と幸福げな困惑をあらわにしている。――『嬉しい…、彼…つまり僕に、…多分…僕に、こんなにも興奮してくれたということだ…。…正直、すごく…泣きそうになるくらい、嬉しい……。つくづく僕は今まで、誰かの勃起をこんなふうに嬉しいだとか、ましてや泣きそうになるほど幸せだとか、そう感じたことはなかった…、…ただ……』
「……、…、…」
紅いシルクの平坦な下腹部、そこに置かれたままのユンファさんの白い端麗 な男の手…その指先が優しく、なまめかしくそこをひっかく。――『僕の、なか…きゅんきゅん、して…、子宮も…焦らされているように疼 いてしまう…、彼のこの感触だけなのに、それだけで…ひくひくして、…どんどん濡れて…溢 れ、ちゃう…、……あ、だめ…、嘘だろ、…こぷって…、そんないやらしいことを考えていたら、本当に……』
……ちょっと、それは可愛 すぎる……。
「…クク…、どうか…しました……?」
と俺は素知らぬ態度でユンファさんの耳に問いながら、しかし、彼のまっしろな腰骨を覗かせているスリットのそこから、するりと手を忍びこませ…直 にその硬い平らな下腹部をやさしくすり…すりと撫でる。と、くっと腹筋が跳ねながらへこみ、「いえ、あの、」とユンファさんは恥ずかしそうに誤魔化 そうとするが――俺がシルクの胸板もするり…するりと片方、撫でまわしはじめると……、
「…ッふ、〜〜ッ♡♡」
にわかな官能の愁眉 、その絶句、ビクッ…ビクッとはずむ柳腰、紅いシルクの下、悩ましげにより内またとなるその長細い脚――さらに俺はシルクをツンと押し上げるその乳頭の先を、カリカリと爪先でいく度もかすめるよう引っかきながら…――彼の下腹部はやはりそのまま、なで…なでとゆっくりなで回す。
「ンんっ…♡」するとユンファさんはきわめて小さな声をもらしたなり、またとっさに片手で口をふさぎながら、くっと顎を上げる。
「駄目…」――しかし俺はユンファさんの耳に、切な慕情 をはらませた男の声でささやく。
「俺に聞かせて…、ユンファさんの、色っぽい声…、我慢しないで、たくさん…――愛する人の物狂おしい声を、俺はどうしても聴きたいのです…」
「……は…、いえ…でも、僕の…声は……」
するとまた斜め下へうつむいたユンファさんは、その美しい伏し目を憂わしく翳らせ、手のひらの下でややこもる気後れした小声で、申し訳なさそうにこう恥じ入る。
「人を、不快にする声なんです…、変な声…――よく言われるんです、絶対に声を出すなと…、萎 えるから…、犯すものも犯せなくなるから、と…――あの…僕、…貴方にご不快な思いはさせたくありません…。というか…何度も言うようですが、…どんな形でも、出来ればその…最後まで、していただきたいから……」
ちなみにユンファさんは――それもまた本心から言っていることだが――、くわえて好きな人の俺にはなるべく幻滅されたくない、要は嫌われたくないとのいじらしい想いからも、そのように声を殺そうと考えているのである。
ところが一方の俺は、
「ならば是非。声を聴かせて。」
そう、晴れ晴れとした明朗 な声で言うのであった。
「……え……?」とユンファさんは伏し目のまま、俺のその発言を不思議がる。ので、俺はこのように調子朗 らかなまま説明する。
「こと性的快感という文脈での官能、刺激されることを以って快感や興奮を得るその感覚器官の内には、言うまでもなく聴覚もまた含まれていますから。――尤も、いずれにせよ俺は間違いなく、貴方との念願のこの目合いを貫徹するには違いありませんが…――しかし、どうせならば俺の官能の全てを、貴方の持ち得る限りの全てで満たして……、そう…俺のこの両耳をも、快い貴方の魅惑的な美声で擽 り、愉しませてくださいませんか。」
「……、…」
すると、ふとユンファさんは確かめるように俺の顔を、俺の目を不安げな弱々しいまなざしで見やった。…しかしその口もとに当てていた手を、迷いまよいも恐る恐ると下げてゆきながら。
そして彼は自信なさげにこう言う。
「あの…はい…。…えっと…それはつまり、…あの、確かに人によっては、〝声出せよ、萎える〟とおっしゃる方も…、それこそ逆に、声を出すようにと僕に命令される方もいらっしゃいますし…――それに普段〝変な声を出すな〟とよく言っているご主人様も、その時の気分によってはやはり、〝善 がり声を出せ、みっともなく喘げ〟…と…――つまりその…、貴方がおっしゃりたいのも、そういうこと…ですよね……?」
「いいえ全く違います。」
と俺は少しムッとしながら即答した。
……いや、実際には遠からずなところもなくはない解釈ではあるが、それにしてもケグリどもと同じにされるのは癪 である。いくら俺の愛する美男子の言うこととはいえ。
「俺が言いたいのは、すなわち愛するユンファさんの艶めかしい声もまた、俺の男の探求心を快く擽る…と…」
「……、…」
ところがきょとんとするのだ。ユンファさんは、いまいち要領を得ない、と。
「わかりました。もう有 り体 に申しましょう。――しかし、するとおよそ身も蓋 もない言い回しになるだろうことばかりは、どうかご了承くださいね。」
だから俺はいさぎよく装飾を諦めた。
言葉とはいくら美しく飾り立てようとも、伝わらなければ形骸 化してしまうもの――すると存在意義さえ疑われる。…要は、言葉はなんとなし表向き綺麗っぽかろうが本意が伝わらなければ意味がない。
ということで……俺はまっすぐ真剣にユンファさんの目を見つめ、ハキハキとこう言った。
「つまり俺は、愛するユンファさんの喘ぎ声に鼻血を噴 き出しそうになるほど大興奮する感性を持っているのです。これはともすると蛇足 かもしれませんが、根っからのゲイだから。――すると貴方ほどの絶美たる青年が感じられた時にあげる〝あ…♡〟という可愛らしすぎる声は、直下俺のものを勃起させる、というわけです。…いいえもとより、貴方という極上の美人が羞 じらいながら声を抑えているしおらしいお姿もまた一興、それには全く違いないものの、…俺も男です。聴きたいのです。今宵愛する貴方の色っぽい声を浴びるように聴かずしては、俺は昇ろうとする太陽を踏みつけてでもこの夜を終わらせるわけには参りません。…何故って満たされるからです。満たされたいのですよ。貴方の善がるその声には愛ばかりか優越感所有欲その他諸々 些か身勝手な欲望の数々まで、俺の欲するもの全てが充溢 されるのです。…そう下 半 身 の も の と 共 に …、だからどう………っしても聴きたいのです。――貴方でexciteしたい。erection…そう、勃起したい。愛しい貴方の全てで、俺は勃起したい。俺のものは貴方の全てに勃起するためにあるのです。――俺はユンファでのみ勃起がしたい。」
「……、…、…」
今度は口を開けてみるみる真っ赤になってゆくユンファさんに、ずいっと顔を――熱心なあまり目をかっぴらいた顔を――迫らせた俺は(彼はビクッと怯えたが)、さらに熱を入れてこのように口疾 に哀訴する。
「ですからお願いですからユンファさんの喘ぎ声を聴かせてくださいこれで聴かせてくださらないと仰言るなら俺はもうこれから何を希望に楽しみに生きてゆけばよいのやらさえわからなくなりますからどうか、どうかお願いします、後生ですからユンファさんこの俺めに愛しい美しい大好きな貴方の可愛いえっちな喘ぎ声をたっぷりと聴かせてくださいっ喘いで啼 いて俺に聴 か せ て お 願 い だ か ら゛……っ!」
「……、…は、…あの…あ、あの……」
こくこくこくと若干怖がりながらもうなずく、…さすがのユンファさんにももう俺の「真意」は伝わったらしい。――ああよかった……。
しかし念のため。
「……さて…さあ聴かせてくださいますね。ユンファの…どえっちな可愛い声。」
「……は……? ぁは、…は、はい……」
するとユンファさんはそう、呆気に取られながらもこくん、とうなずいてくれた。
ああよかった!
ともだちにシェアしよう!

