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第5話
短い廊下を抜けてリビングスペースを横切り、コネクティングルームのドアをノックする。向こう側の施錠がはずれ、わずかに開いた隙間から髪の長い美男子が顔を見せた。
立ち襟にチャイナボタンのついたブルーグレイのシャツ。横浜の中華街を拠点にしている情報屋の星花(シンファ)は、岡村に目配せをしたあとで佐和紀にも会釈をした。
星花の脇にいつも控えている双子が現れ、サッとこちら側へ滑り込んでくる。
そして、星花の後ろから周平が顔を出した。
撫であげた髪と黒いふちの眼鏡。そして、ネクタイを外したシャツの襟元に見える、逞しい首筋。
ただ立っているだけで匂い立つような男振りに、佐和紀の内心は穏やかでない。
星花と一揃えにすると、絵に描いたような美形のコンビに見えるからだ。
ボタンをふたつはずしたシャツさえ性的に思え、こちらも岡村のシャツをはだけさせておけばよかったと思う。
「奈良行きの遊び相手だ」
周平が口を開いた。コネクティングルームの境界線上に立っていた星花が、声に押されたように佐和紀たちの部屋へ踏み込んでくる。
「ご迷惑でなければ」
佐和紀に向かって微笑んだ顔は、やはり美しく、性的に色っぽい。
だからこそ、佐和紀はピンときた。星花が可否を問うのは奈良行きで佐和紀の遊び相手になることではない。関西にいる間、岡村の『夜の遊び相手』を務めることに対してだ。
「ひとりにしないでください」
岡村に腕を掴まれ、引き止められる。佐和紀は驚いた。
「貞操の危機だ。ブランクを考えてください。この三人は相手にできない」
「……女は抱いてるだろ」
横澤が愛人契約を結んでいるのは男のサーシャだけで、女はワンナイトラブのつまみ食いだ。岡村にだって性欲はある。
「玄人の女と、こいつらを一緒にしないでください」
「俺ね……、いまから周平とセックスするんだよね……」
視線をはずして、ぼそぼそと口にする。星花を呼び寄せ、うつむいて拗ねている岡村の手を預けた。そのまま離れるには、あまりに落ち込んでいるから、首筋に手のひらを押し当てて顔を覗き込む。
横澤を演じていれば、周平に負けないほどの伊達男になるのに、こんなささいなことで気落ちする。男ほど扱いづらいものはないと、同じ男なのに思ってしまう。
そして、そこがかわいいところでもある。
表情を確かめるだけで佐和紀は離れ、星花に岡村を任せた。コネクティングルームのドアに近づくと、周平に誘い込まれる。
「あんまり妬かせるな、佐和紀。俺は、慣れてない……」
そっと背中を抱かれ、鍵をかけたドアの内側でくちびるが重なった。肉感のある周平のくちびるを吸った佐和紀は目を細める。
「おまえがいけないんだ。星花と並んで立つから」
頬を撫で、うなじをたどって鎖骨を探す。開いたシャツのボタンをもうひとつはずして指で引くと、青く鮮やかな入れ墨の地紋が見えた。ぞくっと腰が震えてしまう。
「妬いたなら成功だ……。佐和紀……」
両手で頬を包まれ、顔を上げさせられる。腰が触れ合い、佐和紀よりもずっと硬く育ったものが布越しにごりっと動いた。
「……押しつけるな」
「興奮するだろう?」
いやらしい形は見なくてもわかる。散々、泣かされてきた。上の口も下の口も、指も、太ももの内側でさえ、周平の逞しさを知っている。
「ここ、で……」
イヤという間もなく、ブルージーンズのボタンをはずされる。
絨毯に膝をついた周平は顔を上げたまま、戸惑う佐和紀を眺め続けた。ゆっくりとファスナーを下ろす。ルーズなジーンズがするりと落ちて、膝あたりに溜まった。
閉じたドアの向こうを想像したのは一瞬のことだ。周平の息づかいが太ももをかすめて過ぎれば、もうなにも考えられない。
肌をたどった指がボクサーパンツの裾に入り込み、佐和紀の腰は期待感を抑えきれずに揺れる。
「あっ……」
触れるよりも先に押し当たった布越しのキスが卑猥で、声が漏れた。びくっと脈を打ち、股間が大きくなる。
「見ても、いいか……?」
わざわざ聞いてくるのが意地悪だ。恥ずかしがるとわかっていて、真剣な目をする。
くちびるを噛んだ佐和紀は手のひらでそこを隠した。久しぶりなのに、まだシャワーも浴びていない。
「ダメ……だ……」
出した声は、思うよりも弱々しくかすれて、隠しようのない欲情が透けてしまう。ダメなことは、なにひとつない。
離れていても、離れているからこそ、この瞬間が待ち遠しかった。
周平の舌が、股間を隠す手の付け根に這い、中指をたどって下りる。同時に、両手が太ももの外側を撫であげ、後ろへ回っていく。大きな手のひらは熱く、佐和紀はのけぞるようにノドを晒した。
周平の舌が爪の先で止まり、股間を押さえた指と下着の間にねじ込まれる。わずかに上げた指先が、口に含まれた。まるで、それが性器だと言わんばかりに吸いつかれる。
「んっ……」
擬似的なフェラチオのいやらしさに、佐和紀の声が漏れた。人差し指と中指を吸われ、その間を舌でなぞられる。その下にある本物の性器は脈を打って膨らみ、佐和紀は身を屈めた。
「あっ、や……」
大きな手のひらに包まれた尻が、柔らかく揉みしだかれる。指が肉に食い込み、佐和紀の息がいっそう乱れていく。すると、周平はさらに水音高く指をしゃぶった。
佐和紀は頭の奥まで、卑猥さに痺れる。腰が震え、肌が粟立つ。
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