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第3話 枯れ果てる
彼が来るようになってから二ヶ月が経った。
外は一向に雨の降る様子はない。
ギラギラとした太陽が照りつけ、乾いた空気に喉が渇く。
彼の話によると、街中の畑は干上がり、作物はほぼ全滅。城や軍に備蓄していた僅かばかりの穀物や野菜を国中に配給し凌いでいるという。しかしそれも限界が近いようだった。
「王城の中庭も酷いものだ。美しかった庭園は茶色く枯れ果てているんだ。悲しくなってくるよ……悲しんでなんかいる場合じゃないんだけどね」
セオドアの辛辣な表情にオルビスの心臓がツキリと痛んだ。
初めて会った時の笑顔は消え、その深刻さを物語っていた。
重苦しい空気が漂う中、オルビスは口を開く。
「あの……私も中庭を拝見してもよろしいでしょうか」
「ん? いいけど、本当に何も無くなってしまっているよ?」
「はい。恥ずかしながら私はほとんど外に出たことがありません。今がどのような状況か自分の目で確かめたいのです」
王城の中庭は、王族や認められた者しか入ることはできない。
城下町まで様子を見に赴いてもよかったが、何分一人で出歩いたことがあまり無い。
数か月に一度、足りなくなった絵具や画用紙、日用品を買いに出るだけだった。しかも、それらを手に入れたらすぐに帰宅し、散歩や観光などをしたことはなかった。
干ばつで治安も悪くなっているというし、そこに一人で乗り込む自信はなかった。
「わかった。今から行くかい?」
「ええ、お願いします」
案内された中庭は聞いた通り、見るも無残な状態だった。
バラのアーチだったであろう場所は茶色く乾いた蔓が巻き付いている。
地面はひび割れ、庭木も葉を落とし枯れているようだった。
一角では庭師が枯れ葉を集めたり、伐採したりと忙しなく働いていたが、その表情は暗い。
これほどだとは思わなかった。
想像以上の状態に言葉が出ない。
王城内でもこの有様だ。民間の畑や暮らしはもっと酷いものなのだろう。
オルビスは、何とかしなければ本当に国が全滅してしまうという予感に絶望した。
その日はそこで別れ、それぞれの部屋へ戻ることにした。
オルビスは、明日のパンを切らしていたことを思い出し、途中で厨房に立ち寄った。
その後パンを受け取ったオルビスは小走りで図書館へ戻り、何かに憑かれるように資料を漁った。
記憶のかけらを集めながら書架の間を抜ける。
……ここだ。ここの一番奥。
館内の最奥にある書架。そこは禁忌とされる魔術書が収められている場所だった。
そこに並ぶ書籍を流すように見る。
濃い青色の背表紙。オルビスは古く分厚いそれを丁寧に手に取った。
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