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第7話 オルビスの異変

 浮き上がった身体は苦痛に藻掻きながら、勢いよく天井に向かって突進する。  その衝撃は激しく、バキバキと天井が崩れる音が一帯に響き渡った。 「……え? ……これは……」  オルビスは視界に入った光景に目を瞠った。  状況が飲み込めず混乱していたが、確かに自分が空を飛んでいることはわかる。  ……死んだのか?  だが、息は苦しく胸は熱く燃えるようでドクドクと激しく音を立てている。  戸惑いつつ地上に目を向けると、大きな湖が見えた。殆どが干上がり、僅かばかりの水が空を映していた。  え?  あれは何だ?  龍……?  小さな湖面にはあの本の挿絵で見た龍神の姿が映し出されていたのだ。  それから自分の動きを自在に操れるようになるまで三日がかかった。  その間、動悸は治まらず燃えるような熱は全身に広がった。  オルビスは自然に身を任せ、苦しみながらも上空から様々な場所を目にし干ばつの激しさを改めて知ることとなった。  心身の状態が回復しオルビスは自ずと自身のやるべきことを悟った。  神のお告げなどというわかりやすいものがあればよいのだが、何とも説明に苦慮する。脳内にやるべきこと、方法が湧き出てくる。そんな感じだった。  オルビスは、操ることができるようになった身体を王都に向ける。  心からの叫びを吐き出し、咆哮したあと一気に加速する。  変わらず干上がっている王都を下に見ながら、一心に王城を目指した。  早く……  もっと早く……!  やがて見えてきた王城の神殿の屋根は崩壊し、衝撃の激しさを物語っていた。  その横に聳える王城。  三階のバルコニー。  そこに彼の姿があった。 「セオドア……」  オルビスは全身を震わせ、咆哮した。  その叫びはどこまでも広がっていく。  響きが落ち着いた頃。  何かが背中を濡らした。  雨だ。  空は青く晴れ渡っているのに、雨が降り出したのだ。  キラキラと舞い落ちる雫は、太陽の光を受け、まるで宝石のように輝いていた。  そのあまりの幻想的な光景に「神の流鱗だ」と誰かが言った。  その雨は次第に勢いを増し、叩きつけるように大地に降り注ぐ。  突然の雨音に、民や王族、国中の人々が次から次へと建物から駆け出し、激しい雨が身体を打ち付けることも気にせずに抱き合って喜び合った。  ただ一人。外に飛び出すことなくバルコニーから空を見上げる青年。  遠くからでもわかる。その青く澄んだ瞳と視線が確かに混じりあった。 「オルビス……」  その小さな呟きは龍となったオルビスの耳に確かに届いた。  オルビスは大きく旋回し王城の裏手に回ると、人の姿に戻り、誰もいなくなった王城を走った。

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