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第13話 番外編2
馬車は問題なく進み、少し開けた場所に停まった。
連れて来られたのは平民街のようだ。
「平民街に来たことはある?」
「いいえ、そもそも殆ど外出の経験が無くて……」
「そうか。じゃあ、案内しようか」
セオドアが先に馬車を降りると手を差し出してきた。
なんとスマートなエスコートだ。
……なんだか女性になったみたいで恥ずかしい。
「オルビスは男性だけどさ。今日はエスコートさせてほしいな」
オルビスは心を読まれたのかと驚くが、ここはセオドアを尊重してされるがままにしておいた。
平民街は大通り沿いに露店や店舗が軒を連ねている。
通りに入った途端、威勢のいい掛け声が飛び交う。
「そこのお兄さん! いい魚が入ってるよ」
「かっこいいお兄さんね! 美味しいパンが焼き立てよ」
「おやつに果物はどうだい? 今朝採れたてだよ!」
オルビスは溢れる活気に驚いた。見るもの全てが珍しく、方々からかけられる声にキョロキョロと目移りしてしまう。
それに対し、セオドアは穏やかにそれぞれの店主と対話をしていた。住民に溶け込み、口調も砕け、ちょっと裕福な平民か下級貴族といった雰囲気を作っている。セオドアを王太子だと気づく者もいないようだ。
「ああ、本当に新鮮な魚だね。僕は旅の途中に立ち寄ったんだけど、最近は豊漁なのかな?」
「ああ、半年前は河も干上がってしまって店を畳もうかとも思ったんだがね、龍神様が雨を降らせてくださったんで助かったよ」
「へえ。それはよかった。何か困ってることは?」
「いやいや、もう雨が降って程よくお天道様が出てくれりゃあ文句はないさ。……ああ、でも日照りが長かったんで、道が乾いて陥没してる場所も多くてね。荷馬車が時々嵌っちまうのは困ってるなぁ」
「それは大変だ。店主が怪我をしたらこの美味しい魚が食べられなくなってしまう」
二人は気さくに言葉を交わす。
なるほど。セオドアはこうやって街の情報を収集しているのか。きっと、王城に帰ったら道の改修工事を手配するつもりなのだろう。
民のことを真剣に考えているセオドアに改めて感服する。やはりこの国を率いていくべき人なのだ。
その後もセオドアは、パン屋、八百屋、日用品店など一軒一軒回っていく。
「私の行きたいところばかり連れまわしてしまったね。オルビスは何か欲しいものとか見たいものはないの?」
「うーん、特には。あ、でも絵具が見たいです」
「そうか、では文具店に行こう。たしか絵具の種類も多かったはずだよ」
再びセオドアに手を引かれ、オルビスの心臓は小さく音を立てる。
どこからどう見ても手を繋いで歩いているように見えるだろう。
何だか恥ずかしい。けれどセオドアの手は温かく、オルビスの方から振りほどく気持ちにはなれかった。
案内された文具店は、確かに画材が豊富だった。
オルビスが品定めをしている間、セオドアはちょっと用事だと出ていく。
きっとまた街の調査にでも行ったのだろう。
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