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第15話 番外編4

 そうこうしているうちに馬車は停まり、宿に着いたようだった。  朝と同じようにセオドアにエスコートされ馬車を降りる。  目の前には、大きな門。その門を潜ると広々とした庭園になってた。陽は落ちているが、魔道具のランタンがいくつも灯され、幻想的だった。その庭園の中央にまっすぐ敷かれた石畳がレンガ造りの大きな屋敷へと導いている。  どうやらここが今日の宿らしい。  なんとも豪華な建物だ。豪華な外観だったが、建物の中に入るとそこは洗練され落ち着いた空間だった。  入り口からフロントカウンターまで伸びる赤い絨毯。落ち着いた色味の壁には光を押さえた金で模様が描かれている。  高級感はあるが決して派手ではなく落ち着いた大人の空間。そんな印象だった。  案内された部屋は最上階。  扉を開けると、そこにはソファーとテーブルが置かれた部屋があり、その奥に寝室とバスルームがあるそうだ。  中に入ると柔らかな絨毯に足が沈む。素足で歩くと気持ちよさそうだ。   「気に入った?」 「ええ、こんなに素晴らしい部屋をありがとうございます」  案内係が辞し、二人で室内を見てまわる。  奥の扉を開けると、案内された通り寝室であった。  天蓋付きのベッドは白い薄布がかけられ、大きなベッドは男二人が横になっても十分な広さだ。  ここで床を共にするのか……。  一緒に寝るということはそういうこと……? セオドアは僕と……そういうことをしたいと思っているのだろうか。  二人で床に入る想像をし、オルビスは居たたまれない気持ちになった。  あ……。  そこでオルビスはあることを思い出した。  困ったな……。  オルビスが一人思案していると、突然セオドアの顔が目の前に近づき、驚いたオルビスの肩が跳ねた。 「オルビス? どうかした?」 「いいえ! すみません、ちょっと疲れたみたいです」 「今日はたくさん連れ回してしまったからな。ここは湯船もある。湯を張ってゆっくりするといい」  セオドアがオルビスの髪の毛に手を差し込み、頭を撫でる。擽ったくて気持ちいセオドアの手。オルビスはこの手が好きだった。  一度は遠慮したものの、セオドアに促され先に湯につからせてもらうことにした。  足を伸ばせる湯船は贅沢だ。そもそも平民以下の家には湯船などない。  湯を沸かすためには火を熾す魔石が必要だが、毎日湯船に湯を張っていればあっという間に消費してしまう。貴族とて自身や家族に魔力持ちがいなければ、週に一回入ることができればいい方だ。  もちろん王城にあるオルビスの部屋にも湯船は付いている。しかし、もったいなく感じてしまい、さっとシャワーで済ませていたのだ。  全身を湯につけると優しい熱が身体を包み込み、じんわりと身体を温める。  きもちいい。  片手で湯を救い、反対の肩に湯をかける。  ふと湯の中に沈む自身の腹が目に入った。湯の光を反射するかのようにそこはキラリと光を放つ。  龍神と化してから、一通り雨を降らせた後、人型に戻ることができたオルビスだったが、その腹には手のひら大の青く光る鱗が残っていた。 「お前はもう人間ではない」そう言われているようで、それを見る度に言い知れぬ不安に襲われる。

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