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第16話 番外編5 R18

 床で触れ合うということはこれを見られてしまう。  これを見たセオドアはどう思うだろうか。人間に鱗があるなど気持ちが悪いと思うのではないだろうか。いや、セオドアのことだ。決して態度には出さないだろう。  しかし、この腹を見て僕を今までのように好いていてくれるだろうか。  セオドアはそんなことで嫌うような人ではない。そう思うが、心のどこかでそれを疑う何者かがオルビスを不安にさせる。 「はあ……」  このままでいても仕方がない。  オルビスは深く溜息を吐き、勢いよく立ち上がった。  寝室に行くとセオドアはベッドサイドのソファーに腰を下ろし、ワインを飲んでいた。 「やあ、湯加減はどうだった?」 「ええ、とても気持ちが良かったです。お先に失礼しました」 「いや、気にしなくていい。では私も行ってくるよ」 「っ……!」  すれ違いざまに重なった唇。  一瞬だったが、それは仄かなワインの香りを残した。  オルビスは瞠目し、バスルームに消えるセオドアの背中を見送る。  何とも自然だ。きっと慣れているのかもしれない。  たしか王族は夜伽の授業もあるんだよなあ……。  そんなことをぼんやりと考える。  大きな窓から見える月は満月だった。 「……ス、……オルビス」  軽く体を揺さぶられる感覚に意識が浮上する。  どうやら考え事をしているうちにソファーで眠ってしまっていたようだ。 「すみません、寝てました?」 「ああ、疲れているのいるのだろう。……でも、すまない」 「わあっ!」  謝罪と共に抱き上げられたオルビスは、突然の浮遊感に落ちるまいとセオドアの首にしがみついた。  優しく下ろされたのはベッドの上だった。 「オルビス、今夜は君に触れてもいいかい?」  綺麗な顔が近づき、セオドアが目を伏せた。  温かく柔らかいセオドアの唇がオルビスの唇に重ねられる。 「……まだいいって言ってないんですけど」  唇が離れた隙にオルビスが言うが、羞恥で赤くなった顔で口を尖らせても説得力に欠けるだろう。わかってはいるが言わずにはいられなかった。   「嫌だった? てっきりオルビスもそのつもりだろうと思ったんだけど」 「……嫌ではないですけど。僕初めてなので」 「そうか。では不快だと思ったら遠慮なく言うんだぞ」  そう言って再び重なった唇は、先程よりも深くオルビスを求める。  セオドアの舌がオルビスの唇を割り、歯列をなぞった。 「口を開けて」  優しく囁かれ、オルビスはおずおずと固く結んだ唇を緩める。 「んっ……」  熱く湿ったセオドアの舌が侵入し、オルビスの口内を探る。  逃げてしまう舌を追いかけ、上あごを刺激された。縦横無尽に動くセオドアの舌に、オルビスはただただ翻弄されてしまう。 「ふ、ぁっ……」 「ふふ、オルビス可愛い。私のオルビス……」  セオドアの瞳は熱を孕み、情欲を訴える。  濃厚な口づけに翻弄されたオルビスは、セオドアの手がシャツの下に侵入したことに気づくのが遅れた。  シャツの下に触れるセオドアの手は熱い。  鍛錬で鍛えた手は、指も長く美しいのに所々ゴツゴツとしている。男性的な掌がオルビスの腰を撫で、ゆくりと味わうようにその手が腹部へと移動する。 「あっ……! まって!」  その時、オルビスは自分の腹に残る龍神の名残を思い出し、慌ててセオドアの腕を掴んだ。 「どうした?」 「いえ……、その……」  セオドアは戸惑う様子のオルビスに微笑みかける。 「怖い?」 「いいえ! そうではなくて……」  言わなければ先に進めない。  万が一、不快に思われたとしても結局いつかは知られてしまう。隠し立てても無駄な足搔きだ。  オルビスは、勢いよく自身のシャツを捲り上げた。

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