45 / 244

第44話 絶技

叔父様(おじさま)、こんなのはどう?」  星川雅(ほしかわ みやび)背後(はいご)跳躍(ちょうやく)すると、桜の木の枝をステップ台にさらに高く()んだ。 「むう、これは――」  一面(いちめん)()える桜の木々(きぎ)中継(ちゅうけい)として、似嵐鏡月(にがらし きょうげつ)の周りを縦横無尽(じゅうおうむじん)()(まわ)る。  かく(らん)しているのだ。  次第(しだい)にそれは加速され、目にも()まらない速さとなる。  足の裏が木を打つ音と、大気を切り裂く音が()りまじり、その破裂音(はれつおん)幻惑(げんわく)拍車(はくしゃ)をかける。 「八角八艘跳(はっかくはっそうと)びか。お前の年齢(とし)でもう、体得(たいとく)しているとはな」  源義経(みなもとのよしつね)が海に()かぶ(ふね)の上を()(まわ)ったとされる八艘跳(はっそうと)び。  それに古流武術(こりゅうぶじゅつ)三角跳(さんかくと)びを多角版(たかくばん)に改良したものを組み合わせた、似嵐流(にがらしりゅう)絶技(ぜつぎ)である。 「うふふ、叔父様。どこから(おそ)ってあげようかなあ?」  挑発(ちょうはつ)により、さらに相手を(あせ)らせる。  すべては作戦の内だった。 「ふん、調子に乗りおって。どこからでもかかってこい、雅」 「いないいない、ばあっ!」 「そこだ――!」  しかし、それは桜の木の枝――  技を()()している最中(さいちゅう)にへし折れたものを手にしておき、ダミーとして攻撃(こうげき)させたのだ。  黒彼岸(くろひがん)を振り上げた、その真後(まうし)ろ――  完全な死角(しかく)となったそこに、星川雅はいた。 「とった――」 「むうん!」 「ぎゃっ!?」  似嵐鏡月は体をさらに回転させ、背後にいる彼女の左の脇腹(わきばら)を、黒彼岸で穿(うが)った。 「ぐっ――」  だが、当て身としては浅かった。  浅いとはいっても、常人(じょうじん)なら背骨にひびくらいは入るほどの打撃(だげき)だ。  右手で打ち身を押さえながら、星川雅はなんとか間合(まあ)いを取って着地した。 「お前の考えなどお見とおしだ。八角八艘跳びは確かに絶技だが、見切られればすなわちサンドバッグも同然(どうぜん)。母に習わなかったか? (おろ)(もの)めが」 「いたた、くそっ……油断(ゆだん)しちゃった」 「いまの一撃(いちげき)急所(きゅうしょ)(はず)したが、あとからじわじわと()いてくるぞ。どうするかね、雅? 土下座でもすれば、いまなら許してやらんでもないぞ」 「ああ、サイアク。マジ、チョーうぜえ。屈辱(くつじょく)すぎて、頭が変になりそう……」 「くくっ、わしは最高の気分だがな。姉貴を(なぶ)っているようで気持ちがよいわ。どうする? 降参(こうさん)するか、雅?」 「テメエにひれ()すくらいなら叔父様、便所のウジムシとでもキスしたほうがマシだよ」 「ほう、ならばどうするかね?」 「こうするんだよ――!」  脇腹を押さえていた右手の阿呼(あこ)を顔の前、左手の吽多(うんた)を頭の後ろへとかざす。  ()わせ(かがみ)の原理で、少女の顔面(がんめん)大刀(だいとう)に映し出された―― (『第45話 決着(けっちゃく)』へ続く)

ともだちにシェアしよう!