92 / 244

第10話 放課後に差す闇

「で、お話の内容は?」  体育倉庫へ入った刀子朱利(かたなご しゅり)は、とび箱の上にひょいと腰かけ、入り口付近に立つ真田龍子(さなだ りょうこ)に、会話の趣旨をたずねた。 「その……今朝、音楽室で、あんなことして……どういうことなのかなって……」 「どういうこと? 言ったじゃん、佐伯(さえき)くんが好きなんだよ、わたし? だからわたしのものにする、それだけだよ?」  まったく悪びれない態度に、真田龍子はカチンときた。 「ふざけないで! 悠亮(ゆうすけ)は、わたしと……わたしの、大切な人なんだから……!」  ほえた彼女であったが、刀子朱利はいたって冷静だ。  少し()を置いてから、スッと口を開く。 「真田さん、あなたいま、かなり無理したでしょ?」 「……っ!」  図星だった。  真田龍子はいま、感情に任せて言葉を吐いている。  容易にそれは悟ることができた。  刀子朱利はへらへらしながらしゃべりを続ける。 「あなたと佐伯くんが相思相愛、そんなことくらい、見てればわかるよ?」 「じゃあ、なんで……」 「好きだからね」 「え……」 「わたしは人のものを奪うのが好き。人が大事にしているものをかっさらって、たっぷり遊んで、そのあとは捨てる。それが大好きなんだ。だからわたしは彼が欲しい。真田さんがそんなに大切だっていう佐伯くんを、自分のものにしたいんだよ。それだけだね」  異常だ。  真田龍子は率直にそう思った。  そしてだんだん腹が立ってきた。 「刀子さん、あなた、いいかげんに……」 「あーあ、逆上しちゃって。そんなに愛してるの? あんな『毒虫野郎』のこと?」 「……」  頭が真っ白になった。  毒虫野郎……  毒虫……  ちょっと待って、どうして彼女が『それ』を……  刀子朱利は、いよいよ気味の悪い笑みを浮かべた。 「あは、なんで知ってるのって顔だね。そう、なんでも知ってるよ、あなたたちのことはね(・・・・・・・・・・)」  背筋が寒くなってくる。  なに、これ……  なにか、おそろしいことが、起こってるんじゃ…… 「佐伯悠亮(さえき ゆうすけ)、本名はウツロ。似嵐鏡月(にがらし きょうげつ)の双子の息子の弟。兄の名はアクタ。父と兄は故人。ついこの間まで、自分を毒虫のように醜い存在だと呪っていたのに、短期間でずいぶん成長したみたいじゃん? そこには真田さん、あなたとの『愛』が大きなキーポイントとなった。どう、当たってるでしょう?」  刀子朱利は得意げな顔で『情報』をそらんじた。  真田龍子の体が震えてきている。 「うふふ、どうしたの真田さん? 顔が青くなってきてるよ? もちろん、あなたのことも言えるんだよ? なんでもね。弟の虎太郎(こたろう)くんに何をしたか(・・・・・)とかさ……」  もはや声を出すことすらままならない。  どうして?  どうしてこの女が知っている?  どうして、どうして……  すでに彼女の思考はこんがらがっていた。 「あはは! その顔、たまんない! すっかりおびえちゃって。おしっことか漏らしそうになってきた? まあ、これからもっと恥ずかしい目にあうんだけどね……」 「――っ!?」  真田龍子は自分の体が岩のように固まったのを感じた。  5~6人の男子生徒たちが、背後からよってたかって、彼女を羽交締(はがいじ)めにしたのだ。  口もふさがれ、身動きどころか、声を出すこともかなわない。 「さあ、その女、メチャクチャにしちゃって」  刀子朱利の顔面が下品にゆがんだ―― (『第11話 体育倉庫の危機』へ続く』)

ともだちにシェアしよう!