fujossyは18歳以上の方を対象とした、無料のBL作品投稿サイトです。
私は18歳以上です
桜の朽木に虫の這うこと 第41話 這い寄る気配 | 彩堂さくらの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
桜の朽木に虫の這うこと
第41話 這い寄る気配
作者:
彩堂さくら
ビューワー設定
123 / 244
第41話 這い寄る気配
浅倉喜代蔵
(
あさくら きよぞう
)
の仕掛けた罠・
火牛計
(
かぎゅうけい
)
に
苛
(
さいな
)
まれながらも、ウツロは別の情報である
万城目日和
(
まきめ ひより
)
のことについて打ち明けた。 「万城目日和の気配が?」 「ああ、俺の下駄箱から感じた殺気と、まったく同じものだったよ」 コーヒーを飲む手を止めた
星川雅
(
ほしかわ みやび
)
に、ウツロは事実を伝えた。 「万城目日和、またかよ。いったいどんなやつで、どこにひそんでるんだか……」
南柾樹
(
みなみ まさき
)
も片付けの手を止めて考え込んでいる。 「なんていうか」
真田龍子
(
さなだ りょうこ
)
にはふと思い立つことがあった。 「どんどん近づいてきてる気がしない? 万城目日和が」 彼女はさりげなくそう言ったが、果たしてそれは的を射ていることだった。 一同は背筋が寒くなって、また深く考えはじめた。 「龍子の言うとおりだわ……ひょっとしたら、わたしたちが思うよりもずっと近くにいるのかもしれない。たとえば学校の関係者とか、あるいは……」 「考えたくはねえが、俺らがよく知っている誰かって可能性もあるよな」 「うん、俺もその可能性について考えていたんだ。俺たちの身近にいる誰かが、もしかしたら万城目日和なのかもしれない」 星川雅、南柾樹、そしてウツロの考えていることは一致していた。 万城目日和は意外なほど自分たちの近くにいるのではないか。 それが彼らを不安に駆らせた。 「誰かに化けてるってこと?」 「もちろんその可能性もあると思う。でもたとえば、万城目日和がはじめからその人物として、俺たちに近づいていたということも否定できない」 「それ、って……」 「父さんの言ったことが本当なら、万城目日和も暗殺のいろはは心得ているはず。その中に、最初からこの世に存在しない人物となって、標的に近づくというやり方があるんだ。対象に好意的に接して、完全に
懐柔
(
かいじゅう
)
したところでとどめを刺すというやり方がね」 「なんて、こと……それじゃあ……」 真田龍子の疑問に、ウツロはおそるべき見解を示した。 万城目日和はウツロたちへ近づくため、架空の人物を
装
(
よそお
)
っている可能性がある。 そもそもの話、万城目日和の本当のプロファイル自体、誰も知るよしがない。 真田龍子の脳裏に
一抹
(
いちまつ
)
の不安がよぎった。 「龍子、考えたくない気持ちはよくわかる。でもウツロの指摘することは、決して否定できない。いつもなにげなく接している誰かが、実は万城目日和なのかもしれない。絶対に油断はできないよ?」 「そんな……」 ひょっとしたら自分のよく知っている誰かが、自分を狙っているのかもしれない。 星川雅の
言及
(
げんきゅう
)
は、真田龍子をますます不安にさせた。 「やれやれだな、そんなことを心配するのはよ。ウツロ、それを踏まえてこれからは、絶対に警戒を
怠
(
おこた
)
っちゃならねえ、そうだな?」 「ああ、柾樹の言うとおりだ。今後、外に出るときはペアを作って、絶対にひとりきりでは行動しないようにしたほうがいい。それでいいかな、みんな?」 南柾樹の指摘を受け、ウツロは合理的な提案を示した。 「適格な判断だね、さすがはわれらのリーダーくんだよ?」 「からかわないでくれ、雅」 「あら、これでもほめてるんだよ? さっそくリーダーシップを発揮してるじゃん?」 「うーん、リーダーか……本当にいいのかな……」 ほくそ笑む星川雅に、ウツロは照れくさくなった。 「大将がうじうじしてるのはなしだぜ、ウツロ? どーんとかまえてりゃあいいんだよ」 「いよっ、リーダー! ひゅーひゅー!」 「龍子まで、もう……」 南柾樹と真田龍子にもからかわれ、ウツロはますます気恥ずかしくなった。 やがて片付けも終わり、一同は食堂から退出した。 星川雅だけは考えをまとめたいからと、ひとりその場へ残った。 * しばらく時間が
経
(
た
)
ってから、何者かが食堂のドアを開いた。
武田暗学
(
たけだ あんがく
)
だ。 「お邪魔するよ」 「……」 彼はくたびれた着流しをひらひらさせながら、星川雅とはテーブルの差し向かいに腰かけた。 「ウツロくん、
鹿角元帥
(
ろっかくげんすい
)
の
火牛計
(
かぎゅうけい
)
にはまっちゃったみたいだね。雅ちゃんも気づいてたんでしょ?」 出し抜けにそう語り出した。 「さすがは
龍影会
(
りゅうえいかい
)
の
前
(
ぜん
)
・
式部卿
(
しきぶきょう
)
ですね、武田暗学先生?」 無精ひげの
口角
(
こうかく
)
がかすかに上がった―― (『第42話
星川雅
(
ほしかわ みやび
)
と
武田暗学
(
たけだ あんがく
)
』へ続く)
前へ
123 / 244
次へ
ともだちにシェアしよう!
ツイート
彩堂さくら
ログイン
しおり一覧