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幼い頃、生まれ育った村の近くに広がる深い森に過って入ってしまった。 人の心をつけ入る悪い魔法使いが住み、魔法で惑わせたり、使役する魔獣に食い殺されるという噂が立ち、大人でさえも近寄らない場所だった。 そんな危ない森に過って入ってしまった上に迷ってしまい、気づけば暗闇が迫っていた。 人を嘲って頭上を飛び回る黒い鳥の嗤い声、責め立てる木々のざわめく音、その音に混じってどこからか獣の低く唸る鳴き声が聞こえたような気がした。 どんなに辺りを見回しても、どこかへ続いている道が見当たらず、どんどん闇に呑まれていく恐怖を覚えた幼いミコはついに泣き出してしまった。 木々の間から誰かとも分からないものが、こちらの様子を窺う気配を気にしている余裕もなく、泣きながらさまよっていた。 『どうしたの、迷子?』 ハスキーな女性ともやや高い男性の声が頭上から降ってきた。 目の前に突如として現れたかに思えたその声の人物に、大げさなぐらいに肩を上げ、驚いた拍子に泣き止み、しかし、歪めたままの顔を上げた。 暗がりから切り取った影が動いているのかと思った。 そうと思えるぐらい頭から足先まですっぽりと覆った黒いローブらしき人物がいた。 深く被ったフードから覗く、唯一人らしいと窺わせる口元が安心させるように優しく緩ませた。

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