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その口元が素敵だなと思った。 たとえ顔が見えずとも大丈夫だとどこからか来るのか、そんな自信を持ってしまったものだから、両親の「悪い魔法使いに話しかけられても無視しなさい」という忠告はミコの頭からぽろっと抜け落ちていた。 『暗かったから怖かったんだね。でももう大丈夫。今は暗くて危ないから、一晩泊まっていきなさい。朝になったら帰ろうか』 その言葉のままに、黒いローブの人が住んでいるという家に招かれた。 初めて来る場所に勝手が分からないのもあって、緊張した面持ちでちょこんと椅子に座っていると、目の前に食事が置かれた。 漂う匂いにそそられるようにお腹が鳴った。 『ははっ、お腹が空いていたんだ』 反対側に座ったその人に軽く笑われ、恥ずかしくて赤くなった顔を隠すように用意された食事をかきこんだ。 その様子に微笑ましげな口元をしているらしかったか、何かの会話をしたような気がしたが、夢中になって食べていたのもあってあまり憶えていなかった。 そうしているうちにお腹いっぱいになって、背もたれに寄りかかって、自分の家のように寛いでいた。 『お腹いっぱいになった?』 『うん⋯⋯』 生返事になっていた。 というのも、急に眠気に襲われたからだ。 微睡みの中、ローブの人が次に何か言っていたような気がするが、気づけば眠りについていた。 次に起きた時は、仰向けに寝かされていた。 ベッドに寝かせてくれたのかなと思った。 しかし、背中に伝わる固くてひんやりと冷たい石の感触、次に不気味に青白く光る光でその考えは消え去った。 その正体は何なのかと起き上がろうとした。ところが、起き上がるどころか、指一本もぴくりとも動かせなかった。

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