30 / 139
30.
普段と変わらない冷たい言い方に、青筋を立て、口の端をピクピクとさせながらも怒る寸前の笑った顔を張り付かせたベンゲルがいた。
同じ貴族であっても、上下関係があるようだ。
ああいうのを見ていると、平民と呼ばれている立場の方が気楽だなと思えてくる。
「呼び忘れている人はいませんよね? それでは皆さん、席に着いて」
皆が席に着いたのを教壇の所で確認した先生は、「さて」と口を開いた。
「今日は傷薬を作っていきます。学園内にある植物園で、これから書いていく材料を採ってきてください」
先生はそう言いながら、黒板に書き出していった。
そして、材料の名前と説明を書いたその隣に描いた絵をチョークで宙に円を描くように動かした。
「まずシシバ。細長い葉っぱが特徴の薬草ですね。茎の両側に交互に生えているものです。これに似たシシリバという葉がありますが、こちらは媚薬の材料ですので、決して間違えないように──⋯⋯」
「⋯⋯ねぇ、ミコ。媚薬の材料だって。こっそり採ろうよ」
「採ってどうするの?」
「もちろん、もっとえっちな気分になるためだよ」
「そこまでそういう気分になる意味はないんじゃ⋯⋯」
それ以前に媚薬の材料を採っても、それを作るための呪文を知らないため、全くもって意味がないのだ。
それとも自分で作らずとも、誰かに作ってもらうのだろうか。
「自分で作れるの?」
「ううん? 魔法調合部の人に作ってもらおうかなって」
「ああ、やっぱり──⋯⋯」
「お前ら、こんな時でも猥談かよ」
リエヴルの反対側に座っていたベンゲルが、あほくさと言いたげに割って入ってきた。
「まぁた、ベンゲル"様"が口出してきたよ」
「嫌でも耳に入ってくんだよ。息するようにそんな話をする奴が悪い」
「とても仲がいいミコと何話していようが自由じゃん」
「今は授業中なのにか?」
「⋯⋯べ、別にいいじゃん! いちいち──⋯⋯」
「──⋯⋯お前ら、黙っていられないのか」
ともだちにシェアしよう!

