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35.
フリグスに無理やりされても、気持ちいいと思うのとは違う、何も考えられなくなるぐらいにふわふわとするような感覚。
それは先程、泣くぐらいに襲っていた痒さがなくなり、ただ柔らかいものに包まれて心地よい感覚のようでもあり、うたた寝をし、段々と眠りの世界へと誘われるような午後の微睡みにも似た感覚。
リエヴルが何故、あんなにも悦んでいたのか分かるような気がする。
こんな気持ち良くしてくれるのなら、この植物のされるがままになりたい。
このまま植物の一部になってしまうが、それでいい。
もう、それでもいい。
「──烈火の如く燃えたぎろ、そして業火に焼かれよ」
まるで教科書の文を読み上げているような口調だった。
しかし、ミコの耳には聞き慣れた苛立ちが混ざっているような呪文を唱えた瞬間、炎が線を描くように触手に向かって放たれた。
ごうっと音を立てた炎は触手に纏わりつき、一気に燃え広がった。
炎に気を取られて、緩んだ。
が、同時にミコが宙に落とされることとなった。
微睡みから急に起こされたミコは、突然のことに対処できる魔法が思いつかなく、ぎゅっと目を閉じるしか方法がなかった。
この高さなら、大怪我はするかもしれないけど、大丈夫──⋯⋯。
「風よ、優しく包みこめ」
先程唱えた時とは打って変わって、感情の読み取れない声色で唱える声が聞こえた。
すると、ふわっとミコの髪を優しく撫でるような風が吹いたかと思うと、それがクッションのようにミコのことを包み込んだ。
急降下に感じたものが、ゆっくりと降下していき、やがて地面に着いた。
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