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持っていた杖に力がこもる。 と、その手に重ねる手があった。 薄ら滲んだ目を向けると、その手の主は的の方に目を向けたまま言った。 「背筋を伸ばせ。それから、腕を目一杯伸ばしてみろ」 「えっ、え?」 「言われた通りのことをしてみろ」 「は、はいっ!」 丸まっていた背中を伸ばし、腕を限界まで伸ばした。 「杖を的に向けろ。あそこに当たるイメージをしながら呪文を唱えてみろ」 的が自分が唱えた火の球が当たるイメージ。 目を閉じ、さっきの魔法が的に当たる想像を巡らせる。 が、現実ではその前に落ちてしまったものばかりを見たせいで、的には当たらないだろうという先入観ばかりに囚われていて、その成功したイメージが浮かばない。 「おい、腕が曲がっているぞ」 言われてはっとして目を開けると、フリグスの手によって直されている時だった。 「イメージが浮かばないのか」 「だって、失敗ばかり見てきたから⋯⋯」 「だったら、あれを見てみろ」 顎をくいっと軽く上げる。 フリグスが見ている先は、少し離れている場所で唱えている最中の補習仲間であるリエヴルとベンゲルペアだ。 リエヴルの杖の先から赤く燃える炎が集約し、球となったそれがやや勢いよく一直線に放たれた。 ごうっと音を立てたのも一瞬で、火球が薙ぎ払われた後、周りの草を焼き払い、そして的という的が跡形もなく消え去った後だった。 「ミスター・アネルヴ、合格!」 「わぁー! やったぁ! 見た見た!? ボク、すごいでしょ!」 「授業の時に発揮して欲しいものだな。オレの手間をかけさせんなよ」 「すごいものを見させたんだから、ありがたく思ってよね」 「ハァ? あの程度ならオレだってできるぜ。なんなら、もっとすげぇの出せるし」 「そんなに言うならやってみな」 「やってやろうか? 今後の参考のためにな」

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