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ぼくも合格できたのだから、ご褒美が欲しいのだけど。もちろん、リエヴルが求めているもの以外でと心の中で思った。 「合格できたんだから、オレは帰るぞ」 「さっさと帰れー!」 「補習終わったぞ」 「あ、ぼく達も帰ろうか」 「⋯⋯オレに謝罪するんじゃなかったのか」 「あ、そうだった」 「そうだった、だと? ⋯⋯用がないから、オレも帰らせてもらう」 「あ⋯⋯っ! 待って、待って!」 今にも立ち去りそうなフリグスを逃したくないと思ったからの行動だったと思う。 他人事のように思ったのは、驚いたような顔をするという彼にしては珍しい顔を見せた時、なんでと疑問に思い、その次にミコが彼に抱きついていたことに気づいたからだ。 抱きついたままのリエヴルもきっと驚いていたと思う。 「な⋯⋯」 「あ、ごめん、ぼく、そういうわけじゃ──」 「わー! ミコ、大胆っ!!」 きゃー! と黄色い声を上げてはしゃぐリエヴルに、「ちが⋯⋯っ! とっさに⋯⋯!」と弁明を測ろうとしていた時、「⋯⋯で、なんでもいいが、さっさと用件を言え」と凄まれた。 今はリエヴルよりもこっちを優先しないと。 「あ、えっと、マント! マントのことで謝りたいことがあって!」 「マント? 見て分からないか? 今羽織っているだろ」 「それじゃなくて、あの時貸してくれたマントのことなんだけど、フリグスは返さなくていいって言ったけど、やっぱり返さなきゃって思って、洗おうとしたんだ。だけど、鳥のフンが付いちゃって⋯⋯その謝罪です。元々はフリグスの物なのに、汚しちゃってごめんなさいっ!」 話は聞いてくれるだろうと思い、フリグスから離れたミコは、深々と頭を下げた。 その際、リエヴルも状況を察してか離れてくれた。 しかし、すぐには返ってこないことに、やはり怒らせる一因となってしまったかと思い、小さく震えながら、それでもフリグスの言葉を待った。 「⋯⋯そのことの謝罪か。別にいらないと言ったのだから、汚れようが何しようが、勝手にすればいい」 長く感じられた沈黙の後、フリグスはどうでもいいと言いたげにため息を吐いた。

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