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「ありがとう、ございます⋯⋯」 「動けるのか」 「えっ?」 「動けるのかと聞いている」 「え、あ⋯動けないです⋯⋯」 「だろうな。いつもより多めに射精()したからな。なじむのに時間がかかる。そのままここに一晩いろ」 「えっ、でも⋯⋯」 寝室はここにしかないはずだ。そこまでお世話になるわけにはいかない。 「食欲はあるのか」 「⋯⋯へ?」 「食欲は」 「あんまり⋯⋯ないかも」 「⋯⋯分かった。水だけもらってくる。大人しくしてろ」 踵を返したフリグスはさっさと部屋を出て行ってしまった。 再び静寂が降りていく部屋の中、ミコはきょとんとした。 礼はないのかと言われ、言った直後、動けないのか、食欲はないのかと脈絡のない話をしてきた。 自分勝手に一方的なところはいつものことではあったが、それにしても予想のつかない急に話を変えてくるものだから、ただでさえ寝起きのミコの頭では理解するのに時間がかかる。 けれども、こうとも考えられる。 訊いてきたものから察するに、一応ミコのことを気にかけているのだろうと思われる。 あのフリグスが? いつも補習の時は事は済んだのだからさっさとやって来いとぶん投げたり、蹴ったりして、ぞんざいな扱いをする彼がそんな気遣いできる人間とは思わなかった。 さすがにやりすぎたと思っているのか。 どういう風の吹き回しなんだろうと、首を傾げていたミコだったが、ぽっと心の火が着いた。 この気持ちは、フリグスのを口で奉仕した際に彼のことを見た時と似たような気持ちだった。 あの時はミコの拙い仕方で喜んでくれているようで嬉しいと思った。 今はフリグスらしくない彼なりの優しさに気づいて嬉しく感じている。 心がむず痒い。

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