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「アラタス君っ、急に顔を赤くしてどうしたの? 体調が悪くなったのかな!?」 「いえ! いえいえ! 大丈夫です! 最近、暑くなってきたから、そのせいかもです!」 「そうなの? でも、どちらにせよ気をつけてね」 「は、はひ⋯⋯」 優しく労わるような言葉に溶けそうになった。 「じゃあ、ついでにアラタス君に読んでもらいたいから、先生の続きを読んでもらえるかな」 「えっ」 夢から一気に覚めた。 まさかそんな流れになるとは。 しかし、先生に見惚れていて、どこまで読んだのかさっぱり分からない。 どこだろうと探したってわかりっこないのに、必死になって探していた。 「アラタス君、どこだか分からなくなっちゃったのかな」 「⋯⋯はい、ごめんなさい⋯⋯」 「ふふ、いいよ。ここから。『僕の心は炎のように熱く揺らめいています』から」 指し示した指が細くて綺麗だなと見惚れそうになるのを慌てて我に返ったミコは、立って音読した。 「はい、そこまで。いいよ、ありがとうね」 「はい」 にこりと微笑まれて、その顔にどきどきしながら着席した。 変な発言をした時から同級生の痛い視線を感じていたが、体調を心配してくれたり、張り裂けそうな胸の高鳴りを無理やり抑え込みつつ読んだことにより得られた先生の素晴らしい表情といい、最初はどうあれ、指名してもらえて良かったとさえ思える。 鼻歌を歌いたい気分であったミコは心の中で小躍りしていた。 ──そのはずだったのだけど。 一日の勉強から解放された喜びからか、一日の中で賑わい、それぞれの放課後を過ごしている生徒の合間を無言で歩いていた。 いつも通り、リエヴルとルイス先生良かったね、指名されちゃったよ、間近でいい顔が見られたよ、と寮に帰るまでの間、その話で盛り上がろうとしていたのに、まさかの人物によってそのことはなかったことになったのだ。

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