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114.

あの日のことはあまり覚えていない。 ペアの代わりに魔力供給をしてあげるとルイス先生の手を取った瞬間から、記憶が曖昧だ。 遠くから自分の名を呼ばれたようにも、愛のような囁き、待ち焦がれていたように嬉しげで、少し悲しそうな声音で言っていたような。あと、唇に何かが触れたような。 けど、そんな曖昧で不安定な最中、これだけははっきり覚えている。 呼び慣れてない、聞き慣れてない名前を呼び、まだ起き抜けてない自分のことを抱きしめてきた相手。 まだはっきりと目が覚めてないから夢の中の出来事かと思った。 だけれど、強く抱きしめられたあの温もりが確かに現実だったのだと思わされた。 次に意識がはっきりしたのは、寮のベッドで起きた時だった。 長く寝ていたせいのような気だるさを覚えつつ、ゆっくりと目を開けた先に、びっくりをし、そしてすぐに涙を浮かべた友人が抱きついた。 目を開けてすぐの出来事に、何が起きたのかと混乱するミコの気持ちを汲み取ってか、リエヴルは「あれから三日間ずっと寝ていたんだよ! だからもう嬉しくて!」ともう離したくないといわんばかりにぎゅうぎゅうに抱きしめた。 この温もりはよく知っている。けど、あの時とは違う。 泣きじゃくる友人を苦笑混じりに宥めていると、「大げさな」と言う声が上がった。 驚いて、声がした方へ向くと、リエヴルの隣に怪訝そうな顔をするベンゲルと目が合った。 のは一瞬で、ハッとしたような顔をしたかと思えば、彼の方から顔を逸らされてしまった。 「⋯⋯これで、一安心か」と小さく口を動かして。 「なぁに? ベンゲル、ペア代えの時にミコのこと大好きになっちゃったの〜? とんだ勘違いをしてぇ〜」 「な、な⋯⋯っ! 何を言って⋯⋯!」 「動揺しているってことは、そうなの〜? 寝取る展開もしてもいいけど?」 「お前はまた変なことを言いやがって⋯⋯!」 腹が立ったベンゲルが懐から杖を取り出した。

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