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第1章:出会い編 第5話

 煌々とした真っ赤な光の渦に包まれ、その余韻でまだ目が開けられなかった圭の身に、次に感じたのは弾力のある布団の感触だった。 「わぁっ」  ボスンと音をさせ、背中に掛布団の肌触りがする。  光の洪水によって、まだ目がストロボのようにチカチカしていた。ゆっくりと薄く瞳を開き、何度も瞬きを繰り返す。 「え、え? ……えぇっ!?」  視界に入った光景に今度はギョッと目を剥いた。天蓋のような布が見える。さっきまでいたドギツイ照明ではない。間接照明のようにうっすらと、暖色系の穏やかな明かりが部屋の中に満ちていた。  肌に触る心地良い布団をサラリと撫でた。滑らかで柔らかい。自分の部屋のベッドの安物寝具とは雲泥の差を感じさせられる。腕を縛られて寝かされていた部屋では質の悪い素材だったから、こんなに上等な布もあるのかとふり幅の大きさに驚くばかりだった。  左側へと顔を向けてみた。ドレープレースの先に見えるのは、これも映画などでしか見たことのないような調度品だった。白と金を基調にした壁紙と、それにマッチする家具。どう見ても一般的な家庭にあるような物ではない。一体いくらするのだと言わんばかりの高級品の数々。  一瞬前まで血の匂い渦巻く悪趣味なステージにいたというのに。今、自分がいる場所はそんな血生臭さなど一切ない。  むしろ、美丈夫の纏っていた清涼な香りに満ちていた。 (え、何で? 俺、さっきまで全然違う場所にいたのに)  驚きと戸惑いに頭が付いていけなかった。  おそるおそる上半身を起こしてみる。部屋の中の見える場所が広がり、貴賓室だと分かる光景に唖然としていた。 「汚液がついたか」  声の方へと目線を向けた。美丈夫がマントを外し、右肩の下辺りに手を添えていた。 「あっ……ごめ、なさ……」  圭の顔色がサッと変わる。その場所には大いに覚えがあった。彼に担ぎ上げられ、歩かれた時に擦られた性器の触れていた場所。勃ち上がった屹立の先から零れてしまっていた粘液であろうことは明白だった。  謝罪の声を聞いたであろう美丈夫が圭の方へと視線を向ける。何事もないような涼しい顔をしていたものの、途端に目を細めてニィと口角を上げる。 「良い。替えなどいくらでもある」  どう見ても上等なその服の代わりがあることにも驚いた。  しかし、ここまで高価そうな物に囲まれた部屋にいる人物なのだから、そのくらい当たり前なのだろうと自分の中で結論づける。  先走りのついた軍服のジャケットを脱ぎながら美丈夫が天蓋付きのベッドへと乗り上げた。迫るように近づかれ、僅かに後ずさる。しかし、そんなこと許さぬとばかりに手首を取られ、ベッドへと倒された。  見下ろされる格好になり、その近さにも胸が跳ねる。  この世の者とは思えない美しい顔が傍にある。完璧すぎる美貌というものは心臓に悪い。 「……神様……?」  思わず零れ落ちた言葉に、覆い被さっていた男性が一瞬、流麗な瞳を瞠る。そして次の瞬間、プハッと吹き出した。 「神……俺が、神か。ハハハッ、随分とおかしなことを言う」  男性は心底おかしそうに笑っている。そこまで変なことを言ったとは思っていなかったが、あまりにも笑われるので段々恥ずかしくなってきた。そうと思わせる程に目の前の男性は完璧な美貌を携えているというのに。 「久々にこんなに笑ったものだ。神か……フフッ、俺にそんなことを思う奴など国のどこにもいないだろうよ。神のように強い、と言うのなら思う者もいるだろうが」  手首を取られて布団へと縫い付けられている手はそのままに、もう片方の手が再び圭の頬に添えられた。撫でられるだけで、やはり体温が上昇するかのように高揚する。 「それに、神というなら、こんなことしないだろう。そんなものには欲などないだろうからな」 「ひんっ!」  悪い大人の笑みを浮かべたかと思ったら、その流麗な顔が圭の左胸へと寄せられる。軟体動物のように蠢くものが尖りをくすぐった。思わず声が漏れる。  温かくぬめるものは、胸の飾りに絡みつくようにグルリと舐める。そして前歯で軽く挟まれた。その場所から強烈な刺激が走り抜ける。 「はっ……――っく……ぅ」  痛いような気持ち良いような不思議な感覚。そんな場所を刺激したことがなかったから、これが正常な反応なのかも分からない。  男である圭にとって、乳首などというものはただの意味のない装飾品くらいにしか考えていなかった。女性なら性の象徴ともとれるが、男にとっては何の意味も持たない。だから男物の水着では隠すべき対象にならないし、暑ければ親しい友人などの前では上半身の服を脱ぐことだってある。別に見せたところでそこまで恥ずかしい場所ではなかった。  しかし、これからはその認識を少し改めなければならないかもしれない。こんな刺激的な場所だったなんて思ってもいなかったのだから。 「うはっ! ……ぁっ、ひぁっ」  挟まれた乳首はそのままに、細められた舌が先端を上下に擦ってくる。これには堪らず、自由な方の手で彼の頭を掴もうとしたが、察したように先手を打たれた相手の手によって頭上で一纏めにされてしまった。  ペロペロと犬みたいに尖りを愛撫され、内腿を擦り合わせる。刺激は全身へと波及し、特に屹立している場所へと血液を運んでいくようだった。自分の陰茎がフルに勃ち上がっていることが容易に想像できる。腹に零れた熱いぬめりの感触。相当に先走りを零しているのだろう。 「あ……っン……は、ぁっ」  AVに出てくる女性の喘ぎ声みたいな言葉が口から零れてしまう。止めたくても自由にできる手がなく、防ぎようすらなかった。  乳首を軽く挟んでいる前歯同士を小さく左右へ往復され、それだけの刺激でも達してしまわんばかりに体が昂っている。熱い息を吐きながら甘美な責めに耐えていた。  すると、もう片方の乳首にも指先が触れる。ダメだと拒絶の言葉を口にしようとした唇から派手な喘ぎ声が迸る。 「あああっ!」  親指と人差し指の腹で先端を擦られて、思わず涙が出てきた。  気持ちが良すぎると人間の涙腺は馬鹿になってしまうのかもしれない。とめどなく零れる雫に漠然とそんなことが浮かんでしまう。  両の胸から催される刺激の強さに腰をくねらせた。腰の奥がキュンキュンと啼いている。そこじゃない。欲しい刺激の場所はと訴えてくる。 「んっぐ……んんー……」  前歯で挟まれていた刺激がなくなったかとホッとしていると、今度は唇に挟まれキュッと吸われた。悶える体が止まらない。吸い上げながら先端を舐められるのだ。こんな刺激、一介の高校生には酷というもの。右胸も擦ったり指先で弾いたりと好き放題に弄られる。上半身ばかりに向けられる酷い快感。屈服間近だった。 「いぁぁぁぁっ!!」  限界が近いことを予期していた体に、トドメとばかりに下される刺激。ズズズッと音をさせながら強すぎる吸引力で吸われ、もう片方も痛いくらいに上へと引っ張られる。強烈な快感に包まれ、下肢からは白濁を放っていた。ドクドクと放出される粘液。吐精したことによる甘美な悦楽。全身がビクビクと反応した後、訪れる脱力感。  胸から刺激の元が離れていく。全身の力が抜け、ベッドに身を委ねることしかできなかった。  ただ、普段のマスターベーションと違うこともある。何の刺激も受けずに達した性器と、体の奥でずっと喚いている疼きの二つ。  性器はまだしも、直腸の奥は全く何の刺激も与えられていない。満足しろと言う方が酷だと言わんばかりに蠢いている。  腹の奥の切なさに敵わず、泣きながら奥歯を噛んだ。そんな圭の様子に気づいたかのように、上に覆いかぶさる男性が不敵な笑みを浮かべながら圭の顔を覗きこんでくる。 「こんな場所で達するなど、随分と躾けられた体だ」  ブンブンと顔を横に振る。そんな場所でイったことなど一度としてない。むしろ、性感帯だなんて思ったことすらなかった。 「ちが……はじ、めて……」 「そんな戯言などどうでも良い。そう言うようにと仕込まれたか?」  より一層大きく首を振った。涙の粒が飛び散る。  酷い言い様だ。こんなことが当たり前なのだろうとでも言われているような言葉にグサリと胸が刺さる。  それよりももっと困惑しているのは己の体であった。吐き出したばかりだというのに、既に兆し始めているのを感じていた。  もっと快感が欲しくて全身が訴える。もっとくれ。深い場所に、もっと、もっと。  吐精と共に離され、自由を得た両手を腹の方へと持っていった。薄っすらと筋肉のついた腹の下。ここがツラい。擦ってみると、より一層その事実を認識して悶える。 「今度はこっちとねだるか。それが性奴のやり方か?」  あざ笑うような意地悪な声が聞こえてくる。違うと言ってやりたい。しかし、口から洩れるのは熱い息ばかり。  掌で腹を摩り続ければ、切ない腹の奥の叫びにも似た喚きを体中で感じる。  穿たれたいと。奥をこれでもかとばかりに擦ってくれと。暴いて酷く扱われたいと。  そんなこと、今まで考えたことないのに。どうしてそう思ってしまうのか分からない。  ポロポロと涙が零れた。体がツラい。もっと気持ち良くしてほしい。でも、どうして良いか分からない。 「……そうだな、せめて自分でどうして欲しいかくらい言えるのなら、してやっても良い」  侮蔑の視線で見つめられる。胸が苦しかった。そんな言葉を口にしているのなんてAVの中だけでしか見たことない。そんな真似事、自分には到底できっこない。  それに、どうすればこの疼きを止められるのか皆目見当がつかなかった。体の深い部分が騒めいているのだ。こんな場所、何か医療器具でもない限り届く気がしない。  更に言うなら、その場所を鎮めるためには後孔から何かを入れなければならないということだろう。目覚める前に男にされたことが思い起こされてゾッとする。後ろに指を突っ込まれるという、あの恐怖の出来事を。 「何を考えている」  グイと顎を取られ、視線を合わせるように顔を近づけられた。間近で見る完璧なまでの美貌。怖くすら思う威圧感。互いの吐く息が届く程の距離に圧倒される。 「ほら、言ってみろ」  下唇を親指の腹で左右に撫でられた。それだけでフルフルと体が震える。  恐怖なのか、期待なのか。分からないが。 「ひぁっ!」  腹の上に感じる他者の暖かい手の感触。圭のものより二回りは優に大きく、硬い掌。サワサワと腹を撫でさする。気持ちが良くて堪らない。何かに縋りたくて布団を握る。 「わか、んない……わかん、ないよぉ……」  本当にどうして良いのか分からなかった。だから素直に言葉にした。ボロボロと大粒の涙が零れる。持て余す体。解決方法の分からない疼き。まるで小さな子供だ。  クシャリと圭の黒髪に手が挿し込まれる。大きな掌が頭を撫でた。温かさに目がトロリと溶ける。縋り付きたくなり、その腕へと手を添えた。  掌に感じる男性の逞しい腕の感触。シャツ越しでも分かる鍛えられた腕。男なら憧れるばかりの肉感だった。スラリとモデル体型のように見えたが、この服の下は相当に鍛え上げられているのだろう。触れていれば分かる。  もっと触れてみたい。その肉体を直接見てみたい。腕をなぞっていた手を今度は男性の胸元へと寄せてみた。薄いシャツの下に感じる惚れ惚れとする程の胸筋の存在。スルリと撫で、息を吐いた。  想像通り……いや、想像以上の筋肉の感触。自分の貧相な胸とは違う。綺麗に割れているのが分かる。  見てみたい。この美しい体を。  そう考えていたら、自然とボタンへと指が伸びていた。震える手では上手く外せなくてヤキモキする。 「頑なに喋らない気か。……まあ良いだろう」  おかしそうに男性が体を起こす。離れてしまったシャツを残念に思っていると、男性は自らシャツを脱ぎ捨てた。荒々しくベッドの下へと放る。  やはり期待以上の美しさだった。筋肉の線が浮き上がり、肉厚な上半身が露わになる。  触ってみたい。この彫像すらも凌駕する美の塊に。少しだけで良いから。ハァハァと興奮で息が荒くなる。 「触れてみたいか?」  見下ろしてくる男性が不敵に笑っていた。思わずコクコクと首肯する。両脇に手を入れられ、上半身を起こされた。男性との身長差により、目の前には焦がれた胸がある。盛り上がった筋肉は素晴らしく、はちきれんばかりだった。右手の掌を当ててみる。温かい。トクントクンと感じる胸の鼓動。彼の生を感じる。コテンと頭を寄せてみた。人肌の温もりが落ち着く。  信じられないものばかりを見て、体験してきたからだろうか。知らぬ人間であるというのに、なぜか身を委ねられるような安心感に包まれていた。  頬をすり寄せる。滑らかな胸筋の心地に陶酔した。胸に当てていた手を彼の背へと回す。触れる背筋の逞しさ。確認するように上下に掌を擦ってみる。 「城下の性奴というものは、このように誘ってくるものなのか」  自嘲したような笑いが頭上から振って来た。夢中になって顔を埋めていた胸に唇は当てたまま、視線だけを上へと向けた。  トクンと胸が跳ねる。見えた美丈夫の瞳に興奮のようなものを垣間見たから。  後頭部に彼の手が触れる。ガッシリと掴んだかと思うと手荒く圭の顔を胸から離された。 「あっ」  失った温もりが惜しくて手を伸ばす。しかし、触れる直前に体をひっくり返され頭を乱暴に布団へと押し付けられた。息苦しくて藻掻く。 「まったく、少しは言うことを聞くなら楽しませてやろうと思ってもいたが、言うことは聞かないし、かと思えば誘惑だけはしてくる。お前がそうくるなら俺も好きにしよう」  後頭部の圧迫がなくなった。顔を上げ、堰き止められていた息を吸い込む。肺が新鮮な空気を喜んでいた。  ホッと安堵して、強張っていた体の力が抜ける。だから腰を掴まれ高く上げさせられるのも容易(たやす)かっただろう。  尻だけを上にした格好にさせられ、尻タブを開かれた。似たようなことをバスタブでさせられたことを思い出し、肌が泡立つ。 「やっ……うあっ!」  ズブリと容赦なく指が一本挿入(はい)り込んできた。思わず息が止まる。 「男はココを使うのだろう? 男になど今まで興味すらなかったが、……本当にこんな狭いところに入るのか?」 「うぁっ! あぁッ! あっ!」  遠慮のない指が注挿を繰り返した。ぬめっている孔は引き攣れるような痛みこそはなかったが、異物感がすごい。気持ち悪くすら感じてキュッと抵抗するように孔を窄めた。 「ううっ」  狭くなったことにより、より一層感じる彼の指。硬く布団を握り締めた。そうでもしないと耐えられる気がしなかった。  何度か注挿される指から(もたら)される苦しさに必死に耐えていたが、時折ビクリと体が跳ねる瞬間があった。性器の付け根付近を通る時、内股を擦り合わせたくなるような悦楽がそこから湧き上がる。  圭の反応を感じ取ったのか、後孔を責める男性の指が次第にその付近を重点的に刺激し始める。 「ハアッ、んっ……ぅ゛っ……――!!」  淫らに喘いでしまいそうで、自ら口を布団へと押し付ける。フゥフゥと鼻で荒く息をしていたが、後頭部を掴まれ今度は顔を上げさせられた。 「ここがお前のイイところか?」 「ああっ! あっ! ああッ!」  圭の反応するところを探していた指がその場所ばかりを押してきた。目を剥き、与えられる刺激に素直に声を出す。  キュウキュウと後孔が指を締め付けているのが分かる。長い指の感触。風呂で洗われた男たちとは違っていた。ザラザラとした粗さはないが、男らしい硬さがある。  屹立から先走りが零れて落ちる。高級そうな寝具を汚してしまうなどと言った心配をしている余裕など微塵もない。むしろ、達することばかりが頭を席捲していた。 「ケツを弄られてココも兆すなど、この幼さで随分とよく躾けられている。男娼や性奴というものは、一体いくつの時から仕込まれるのだ?」  グリグリと嘲るように前立腺ばかりを狙って指先が抉る。  違うのに。こんな所を仕込まれたことなんて一度としてないのに。  それなのに、気持ち良すぎて否定の言葉を吐けない。 「あ、……っぅあっ、―っ!」  腹に付く程に勃ち上がった性器が吐き出したいと喚いている。後孔に指を突っ込まれて吐精なんていう恥ずかしいことは避けたいというのに。  中に入れられて達するなんて、女にされているみたいで嫌だった。乳首でイかされたのも屈辱だったが、挿入されてからの絶頂は、より一層女性扱いされているようで男としてのプライドが許さない。 「ひぁっ!!」  我慢に我慢を重ねていると挿入される指が二本に増えた。ビクビクと体が大きく震える。  直腸への圧迫感が増した。息苦しく、呼吸が上手くできていない。ミチミチと隙間のない場所を二本の指が占めていく。  ハクハクと括約筋が指を食んでいた。中も収縮して侵入を阻むが、勝手知ったる場所だとでも言わんばかりに指は奥へと進んできた。  指の付け根まで咥え込み、これ以上は指では入らないところまで到達して侵攻が止まる。これ以上深い場所まで暴かれないという安堵に包まれるが、だからと言って異物が抜けてくれる気配もない。 「男のケツなど何の興味もなかったが、まあ、これはこれでそそるものもあるな」 「ぐっ、――っく……ぅ、あ……」  止まっていた指が言葉と共に動き始める。その場で二本の指をバラバラに動かされ、奥を(ひら)かれているような動きに意識が後孔の中へと集中する。  上下に動かされたかと思うと、次には拡げるように左右に指を開かれ、悶えるばかりしかできなかった。 「もう、も、……やめ、へ……」 「この程度で音を上げているようでは、俺のなど到底入らないぞ」 「ひっ、ぃ、あぁっ!」  今後はズボズボと容赦なく注挿され、背を反らす。指が二倍に増えたことで与えられる刺激も倍増する。指の節が直腸内の襞を擦る度、射精欲が増す。 「ほら、こっちもまた勃ってきた」  指を増やされた時には圧迫感から来る苦しさによって僅かに萎えた性器が再び勃ち上がってきた。ピンと先端を指で弾かれ、達しそうになるのを必死に我慢する。性器をきちんと(しご)いてから吐精するならまだしも、揶揄(からか)うように弄られただけでイくのは嫌だった。  そもそも、セックスというのは、好き合っている二人が互いに愛を確かめ合いながらする行為のはずだ。こんな一方的に弄ばれるような行為はセックスなんかじゃない。ただの拷問に等しい。 「ココだろう? お前のイイところは」 「ひぃっ! ぃッ!!」  前立腺を指で挟まれて目の前がチカチカする。睾丸の中の精液が喚いているのを感じる。吐き出したいと。出させてくれと。  二本の指でギュウと押し潰されたまま、その場をトントンと小刻みに押される。強制的に性欲を高ぶらされる行為に耐えようとしても、過ぎる快感と捉えている脳は陰茎へと射精の命を下す。  吐精へと精液が精管を昇る。出ると思いギュッと目を瞑った刹那、下肢を襲う暴力的な刺激に痛みすら覚える。 「うっ、あっ」  吐き出せない苦しみ。股間を見て見れば、男性の手によって屹立は握り締められていた。出せないのは堰き止められているから。 「や、ら……てぇ……はな、ひへ……」 「あまりイきすぎると、ツラくなるのはお前の方だろう?」  楽しそうに愉悦の微笑みを浮かべてはいるが、そこに垣間見えるのは欲情に塗れた劣情だった。男根を握られたまま前立腺を容赦なく攻撃される。快感と苦しみの二つに苛まれ、性に慣れていない体は限界寸前まで追い詰められる。 「やらぁ……、やらぁ……ッ! ……も、らひたい……らひたいよぉ……」  小さな子供のようにぐずりながら吐精をねだった。涙が出すぎて顔が熱い。舌ったらずな言葉しか出せず、嫌だ嫌だと首を左右に振った。 「おねがい……! てぇ、はなひてよぉ……ッ!」 「ならば、イかせてほしいときちんと懇願してみせろ」 「イ、かせて! イかせて、くらはいぃぃッ!!」  叫んだ瞬間、パッと性器から手が離れる。堰き止める物がなくなり、行き場を失って暴れていた精液が一気に出口へと向けて駆け抜けた。 「ふぁぁああああああっ!!」  先ほどよりも強い刺激に脳が焼けそうになる。ビクビクと震え、勢い良く白濁を(ほとばし)らせた。  痙攣する上半身を布団へと突っ伏した。全速力で走り抜けた時のような疲労感に包まれる。  ヒクヒクと蠢く直腸に突き刺さる指はそのままだった。むしろ、咥え込む侵入者をより一層キツく締め付ける。 「指二本でこれなら、俺のは食い殺されそうだ」  物騒な言葉とは裏腹に、声は至極楽しそうだった。  吐き出して萎えた性器の側面を指先で根本から先端へと向けて辿られる。少し皮の被った亀頭に辿り着くと、親指と人差し指で敏感な場所を擦られた。 「やめ、……ぃま……むりぃ……」  吐精したばかりの性器は普段の何倍も敏感だ。そうでなくとも亀頭は元々感覚が鋭い場所で、圭もオナニーをする時には愛撫を施す場所の一つだった。そこを無遠慮に弄られて過ぎる刺激に腰をくねらせる。 「あぁ、も、やめて……おねがぃ、……しま、す」  キュウキュウと後孔が締まる。前立腺を遊ぶのはもう飽きたのか、ヌポヌポと機械的に指は注挿を繰り返していた。 「俺がここまでしてやることなど普通はないのだぞ? 感謝こそされるべきではないか?」 「うっ! うぅ……」  第一関節を残すばかりまで引き抜かれたかと思うと、更に圧迫感が増した。三本目の指が挿入されているのだと気付くのに時間はそれほど要さなかった。  体を洗われた時の男ですら挿入は指二本のみだった。だから、この未曾有の刺激に疲労困憊の体は悲鳴を上げていた。  容赦なく挿入り込んでくる質量に喉の奥から込み上げてくるものがある。必死に押し留めるように息を止めた。 「こんな小さい陰茎でも、精通するくらいに歳を重ねてはいるのか」  後孔の刺激はそのままに性器をこねくり回される。亀頭の表面を指先で撫でられ、中指がカリ首を何度も往復するように擦ってくる。  鈴口からは再び透明な粘液が零れだしていた。男性の指に辿り着くと、粘液を纏わせたまま今度は手淫を施してくる。ヌチュリヌチュリと鳴る水音が恥ずかしい。  しかし、それ以上に恥ずかしいことを既に何度も体験している体には、もはや音などというものなど大したことではなかった。 「ああ、ぁ……ぁぁ……」  奥へ奥へと進んでくる圧迫感。かつてない程に拓かれている直腸。  だが、なぜだろうか。苦しいばかりだったはずなのに、指が通ることに僅かばかりの悦楽を感じてしまうのは。  性器を同時に弄られていることで、中を擦られるのは気持ちの良いことだと脳が勘違いしてしまっているのだろうか。 そんなのは困る。そんな誤認はあってはならない。  ここは「出す」ための場所であって「入れる」場所ではないのだから。  深く、深く。最奥を求めるように。三本の指が挿入(はい)り込む。その圧迫感と比例するように増してゆく息苦しさ。  そして、未だビクビクと震えている性器へと(もたら)されている戯れによって強制的に高ぶらされる淫欲。  去年、義務教育を終えたばかりの歳の体には未知の刺激だった。学校の保健体育だって、こんなこと学んでいない。学習したことと言えば、男女の体の差異と子孫を残すための手段のみ。  同性同士で排泄孔を弄られ、気持ち良くなるなんて知らない。学校の友人たちとたまに盛り上がる猥談だって、それは女性とのセックスのことだけなのだから。 「うう、ぅ……ぅ……」  布団を力強く握りしめた。ここに縋れるものなど、これくらいしかない。フルフルと震える体は限界を訴えていた。  指三本など体の作りからして入れられるものであるはずがない。それなのに背後を取る男性は当たり前だとでも言わんばかりに挿入してくる。  大きく口を(ひら)いた後孔が切れてしまわないかも心配だった。怪我をするのは嫌だ。それも転んで擦りむいたなどとは訳が違う。同性に指を突っ込まれてさせられる怪我なんて末代までの恥としか思えない。  挿入されている指は奥まで辿り着くと、元来た道を戻っていく。そして抜けるか抜けないかというところまで引かれると、再度奥へと向けて侵入を繰り返す。  もう三本目にもなれば、引き抜いてもらえるなんて期待は持つだけ無駄だということくらいは理解していた。圭にできるのは、ただ我慢することだけ。男性が飽きて解放してくれるのを待つばかりにすぎなかった。 「ふむ、ある程度は解れたとは思うが、キツさはやはり変わらないか。ぬめりが足りないのか?」  冷静な声が響いた後、チュポンと音をさせて指が引き抜かれた。やっと中を占めていた圧迫感がなくなり息をつく。やっと満足して終わってくれたのだろうか。  もう体は限界という言葉など、とうに通り越していた。一刻も早い休息を全身が求めている。特に、大いに弄ばれた後孔の疲労は経験がない程だった。腹を壊してトイレの住民になった時でさえ、ここまで苦しい思いをしたことなどない。早く休みたい。この肌触りの良い布団で寝れば、きっとグッスリ眠れる気がする。人間の欲求の一つにこの身を委ねようと脳がウトウトし始めた時だった。  グイと尻タブを広げられる。熱を持った後孔に突き刺さる、冷たく細い感触。 「ひぁっ!?」  突然の刺激に驚き、首だけで背後を振り返る。コバルトブルーの小さな瓶の先端が蕾に刺さっていた。 「な、に……ぅあっ!?」  目を白黒させていると、直腸の中にドロリと何かが流れ込んでくる。冷たく粘度の高い液体に身が竦んだ。 「下賤な身の上に使うには勿体ない代物だ。お前が使われていたものより何倍も高価なものだぞ。俺の寛大さに感謝しろよ?」  奥へ奥へと入り込んでくる冷たさで全身に鳥肌が立った。拒否するように後孔を締めるが、直前まで拡張されていた腸は粘液を拒めない。 「以前、物は試しにと一度宛がわれた女に使ったことがあったが、貴族の出とは思えないほど乱れに乱れて、それはそれで愉快なものだった」  小さく笑う男性の放つおぞましい言葉に背筋が凍る。男たちに飲まされたクスリでさえ羞恥など忘れてしまう程にツラかったというのに。それよりも効果のあるものを使われてしまったら、どうなってしまうのだろう。 「ぁっ……あっ……」  徐々に直腸内が熱を持つ。痛みと苦しさから忘れていた疼きが再燃し始めた。  ドクドクと性器が脈打っている。勃ち上がり、欲の発散を求めていた。  しかし、既に逐情を果たした身に、残された精液など多くはない。普段のマスターベーションでさえ一度放てば満足するというのに。  直腸全てが疼いていた。擦られたいと。酷くされたいと。早く何か咥えさせてもらわなければ、気が触れてしまいそうだ。 「ぁっ………はっ、ぁぁッ」  布団を手繰り寄せ、胸元でギュッと抱き締めた。体の震えが止まらない。ズクズクと悲鳴を上げる後孔。自分の指を突っ込んでがむしゃらに掻き毟ってしまいたい欲に駆られていた。そんな恥ずかしいこと、誰も見ていない時ならまだしも相手がいる場でするなんてできるはずがない。  腿を擦り合わせて刺激に耐える。段々と肌に触れている物全てにすら刺激をされているような気がしてきた。ザワザワと肌が粟立つ。握った布団の生地が胸の尖りに触れ、そこから全身に快感の波がさざめく。変な言葉を発してしまいそうだ。咄嗟に布団生地を噛みしめた。 「閉じてしまえば、つまらないだろう」  口元からやんわりと布団を離される。未練がましく男性を見上げた。心底楽しいと、その表情が雄弁に語っている。縋れる物をなくし、手持ち無沙汰にギュッと二の腕を握った。 「…………たす、けて……」  降参だと助けを求めた。もう自分でどうにかできるような気がしない。目の前の美丈夫がこの状況に圭を陥れた犯人だというのに。そんなこと気にできる程の余裕なんて欠片も残っていなかった。  うつ伏せになっていた体勢から仰向けへと変える。肌に当たる布地の面積が広がり、ビクリと体が反応する。 「何をどうされたい?」  優しさすら滲ませた声に縋りたくなる。男性へと手を伸ばした。絡まる指と指。恋人みたいに繋がれ、ホゥと息を吐いた。  導かれるようにその手を自分の腿へと持っていかれる。膝の裏へ到達すると、自分で持てと言外に言っているような気がして名残惜しくも手を離す。  そのまま膝裏を引き、左右に開かされるようリードされた。(あらが)う術を持ってはいない。彼の意のままに動く。腰が浮き、後孔を相手に見せつけるような格好が恥ずかしい。顔を見られたくなくて、ソッと横を向いた。  しかし、その行動はお気に召さなかったようだ。またしても顎を取られて戻される。間接照明の暖色に染まった流麗な顔にドキリとした。こんなカッコいい人の前で、ひっくり返ったカエルのような格好で恥部を見せるという常軌を逸した行動。羞恥で死にそうな程に心臓が痛い。 「どうして、ほしい?」  耳元で囁かれ、その息遣いだけでも達してしまいそうだ。男の声だけで絶頂するなんて同性としてあるまじき行為なのに。  ハクハクと唇を蠢かす。どう言葉にして良いか分からなかった。  膝裏を今度は肘へと引っかけるようにさせられ、更に腰が浮いた。後転に近い格好にされて息苦しくなる。グッと脚を開かされ、苦しい体勢に拍車がかかる。  小学生の頃から昨年まで続けていた体操のお陰で、体の柔らかさには周囲からも定評があった。そのため、できなくはないが格好があまりにも恥ずかしすぎる。脚をより大きく拡げたことで、尻タブが左右に引かれて蕾が開閉している様も見えてしまう。 「で、ここに何が欲しい?」 「あっ」  括約筋の周囲をグルリと円を描くようになぞられた。期待に直腸が疼く。息がどんどん荒くなる。早く奥まで欲しい。何でも良いから()れてほしい。抉って、擦って、滅茶苦茶にしてほしい。  やんわりと手を取られた。指を後孔の近くまで導かれる。 「あんっ!」  触れた括約筋が気持ち良くて吐精しかかった。もっと刺激が欲しくて、孔の中へと左右の人差し指を入れていく。 「ああああっ」  熱く、きつい締め付けの襞が指を歓待していた。ぬめぬめと蠢き、引き絞ろうとでも言わんばかりの動きに翻弄される。入口付近で小さく注挿を繰り返す。それだけでも信じられない程の悦楽に満ちた。 「違うだろう? そんなのじゃないだろう?」  呆れたように手首を取られて動きを止められた。気持ち良さもなくなってしまい、やっと得られた快楽を求めて相手へと恨みがましい視線を寄せる。 「そんなものより、こっちでないとお前の欲しい場所には届かないだろう」  おもむろに取り出された凶器に目を(みは)った。  赤黒く巨大なイチモツは脈を浮き上がらせ、()ち上がっている。ブルリと飛び出したその長さと太さ。幼子(おさなご)の腕ほどもありそうな大きさに、自分に付いている物と同じとは到底思えなかった。 「あっ……ぁっ……」  ゴクリと喉が鳴る。これなら、きっと体の奥深く、求める場所まで届くだろう。  しかし、こんな巨大な物が入るはずがない。指三本ですら必死で受け入れたのだ。それよりも二回りも大きいこんな杭など、受け入れようなどと思えば確実に肛門が壊れてしまう。  美丈夫はその綺麗な顔に不似合いな剛直を一、二度上下に扱いた。先端から溢れる先走りが彼の手を濡らす。間接照明の光を受けてテラテラと光る(たかぶ)り。この体格ならばこれくらいあるものなのだろうかとも考えたが、それ以上に大きい気がする。 「これがお前の欲しいものだ」  ピトリと蕾の縁へと当てられる。  熱い。第一に感じたのは熱だった。中へと潜り込ませていた指を抜かれ、代わりに括約筋の近くに添えるよう導かれる。指の上から左右に引くよう力を入れられ、クパと後孔が開いた。 「ほら、早く求めてみろ」  ツンツンと先端で蕾を押された。求めろと言われても困ってしまう。やはり、どう考えたって入るような大きさではない。括約筋と対比しても、見合っていないのだ。  強い眼差しに見つめられ、生唾を飲み込んだ。全身の血液が煮えたぎるように熱い。唇が震える。開いた口が何も発せず、空気で口の中が乾燥しそうだった。 「……分かった。これは今後の課題としておこう」 「うっ、あああっ!!」  グッと腰を押し込まれた。ゆっくりと。しかし、強引に。力任せの挿入だった。  壊れると覚悟した後孔は、何とかその姿を留めていた。腰を浮かされているせいで、挿入される様子が見えてしまう。暴力的なまでに巨大なその凶器が徐々に姿を消していくのは不思議な光景だった。  そして腹の中に増していく経験したことのない圧迫感。  指など可愛い物だったと今になれば分かる。それ程までに凶悪な苦しさだった。  限界を超えて拡げられる直腸。疼いていた襞は降参とばかりに凶器にひれ伏した。 「あ、が、……あッ」  ボロボロと涙が零れ落ちる。苦しさに加えて、押し広げられる痛みも伴う。堪らず元凶の人物へと両手を伸ばした。  助けてほしい。誰でも良いから、この苦しさから救い出してほしい。  意図を察したのか上半身が近づいてきた。触れられる距離になり安堵する。縋るように首へと手を回した。ギュッとその背に爪を立てる。一瞬、相手が眉間に皺を寄せたように見えたが、そんなこと知ったこっちゃない。こっちはもはや虫の息なのだ。 「はっ……キツいな……」  そう思うなら抜けば良いのに。それなのに、男根はより深みを求めて後孔の奥へと挿入り込んでくる。 「は、ぁっんっぐ……んんー……」  指が入っていた場所へと到達する。しかし剛直はそこで歩みを止めはしない。未開の場所へと、深く、深く入っていく。 「ぅあッ……あああっ……」  胸が騒めいていた。彼の背中に立てた爪をがむしゃらに引っかく。痛くて、苦しくて、でも、そこはかとない気持ち良さが生まれていて。訳が分からなくて号泣した。  怖い。こんなの知らない。涙の向こうに見える陰部は、剛直の半分をやっと受け入れた状態だった。  まだ、あと半分近くもある。絶望すると共に恐怖で体がガチガチと震える。歯の根が合わず、ガタガタと無様な音を立てた。 「そう怯えるな」  男性の唇が圭の目尻へと寄せられた。柔らかい唇の感触。少しだけ胸の騒めきが収まったように感じた。もっと、もっとと唇をねだる。凶器の所有者は苦笑すると、温かいキスの雨を圭の顔へと降らせてくれた。額や頬、鼻の頭など、触れていない場所がなくなるくらいに優しく(ついば)まれる。  そして最後に到達したのは唇だった。一度軽く触れた後、ヌルリと舌が挿入り込んでくる。 (あっ……ファースト……キス……)  脳の片隅でボンヤリとそんな言葉が浮かんだ。  放課後、学友たちと一緒に立ち寄ったファーストフード店。他校の女子の姿を見ながら好みのタイプを話し合った。その際、ファーストキスの話になり、既に済ませた友人が得意げにその経験を話し出した。思春期の男子高校生にとって、セックスもそうだがキスだって興味津々の話題である。まだ未経験だった圭にとって聞く話全てが新鮮だった。  あらかた全員が話し終わると、圭の番になった。聞かれるがままに理想のキスについて持論を述べた。  できるなら可愛くて優しくて、自分よりも小さく、おっぱいは大きい方が良い。放課後、誰もいない教室で二人きりで話していたら互いにその気になって、どちらからともなく唇が触れる。……そんな理想を話せば、保護者のような生暖かい眼差しを全員から寄せられた。  「圭よりも小さい子を探すのが、まず無理ゲーだ」などと中学時代からのクラスメイトから同情の視線を寄せられ、大いに荒れたのはそんな前のことではない。文化祭の準備が始まる少し前のことだったはずだ。  でも、実際のファーストキスは理想とは全く正反対だった。  自分よりも大きくて、胸筋こそは立派だが、それをふくよかな胸と言いきるのは難しい。  それに、可愛いというよりもカッコいい。優しいというには疑問が残る。そもそも、この男性のことを圭は何も知らなかった。素性も、名前すらも。  唇の中へと挿入(はい)り込んできた舌は圭の舌へと絡みついた。何をされるのか分からなくて怖い。逃げようとしても狭い口内に逃げ場なんてない。男性の舌は器用に圭の舌に纏わりつく。舌の表面同士が重なり、ざらついた感触にビクンと性器が反応する。  舌は何度か絡まる角度を変えた後、チュッと音を立てて吸われる。コクリと男性の喉が鳴る音がする。両頬が彼の掌に包まれた。一度唇が離れる。気持ちの良い感触が失われることが残念で、口を開いて舌を出した。もっと吸ってほしい。そんな気持ちを込めながら。 「性奴ごときが調子に乗るでないぞ」  噛みつくようなキスに襲われる。先程までのキスがままごとのように感じる荒々しい口づけだった。  いや、口づけなんてそんな優しいものではない。捕って喰われるような荒っぽさだ。舌を喰らわんばかりに求められたかと思えば、今度は口蓋をなぞられる。歯列を舐められ、口の中で触れられていない場所などない程までに舌が暴れ回る。吐息すら飲み込まれる。ピタリとくっついた唇は、流れ込んでくる彼の唾液を外に出せるような隙間などない。飲み込まされる彼の唾液。喉を通って胃の中まで蹂躙されているようだった。 「――――ッッ!!」  激しいキスに夢中にさせられている途中、忘れかけていた下肢が動きを再開させた。ゆっくり、ゆっくりと。確実に奥へと向けて剛直が埋められる。 「んんー! んーっ、んんー!!」  もうやめてくれと、背に回した手で拳を握り、ドンドンと広い背中を叩いた。もう、これくらいしか圭に意思を表明できる術などなかった。  それでも、口づけも下肢の挿入も止まらない。自分が壊されてしまうカウントダウンが始まっているようで恐怖に苛まれていた。  トンと、下腹の奥に異物が触れる。その気持ち良さにビクビクと体が跳ねた。 「……ここが、奥か?」  やっと離れた唇。ハァハァと息を吸い込む。唇を塞がれていたことによる苦しさから解放され、薄い胸を上下させていた。  トン、トン、と何度か奥の壁へと切っ先が触れる。その度に甘く痺れるような刺激が後孔から走り抜けた。 「あッ、やあ、め……あッ!」  今度はグリグリと角度を変えてその場所を抉られる。気持ち良すぎて目の前がチカチカする。 「これでは全部入らん」  苛立たし気に今度はドン、ドンと奥を突かれた。乱暴にも感じるその行為ですら感じすぎてしまい、ハッハッと短い息を吐く。 「おい、少しいきめ」  腰を持たれ、更に尻を上げるような格好にされる。両足は膝が顔の近くにまで来ていて、不安定な態勢に首へ回す腕に力を込めた。 「できるだろう、ひり出すようにケツに力を入れろ」  こんな格好でさせるようなことではないと思う。しかし、不機嫌さが増してイライラオーラが目に見えるような気がして、怖くて腹へと力を入れた。  本音を言えば、催してしまうのではないかと心配もある。でも、出せるようなものがある感じではないし、そもそも出口は塞がれてしまっているのだ。粗相になるようなことはない。  言われた通りにグググと力むと、何度かトン、トンと奥を突いていた性器が突然力任せに押し込むような強い力で穿ってきた。 「ああああああッ!!」  内臓を押し上げられる不快感の次に訪れたのは、より深い場所へと剛直が力づくで押し込まれた感触。プシッと音をさせて性器から透明な液体が吹き出した。しかし、ガクガクと全身を震わせる圭は気になどしていない。  目の焦点が合わず、ハクハクと口を開閉するばかりだった。 「……ふぅ、手こずらせるな」  剛直全てを圭の体内へと潜り込ませ、男性が一つ息を吐いた。男性の体もしとどに汗で濡れている。額からも一筋汗が流れ落ち、流麗な輪郭をなぞって圭の体に落ちた。  陰茎の根本が括約筋に触れる。男根の全てを飲み込んだ圭の頬を男性はそっと撫でた。 「堕ちるにはまだ早い」  入れたばかりの屹立を引き抜いていく。カリだけを残して赤黒い竿が姿を現すと、今度は何のためらいもなく一気に奥へと向けて男根を叩きつけた。 「ひぁっ!!」  痙攣する体からもたらされる刺激に男性が歯を見せて笑った。興奮を隠さない悪役然とした顔で。 「やればできるではないか」 「い、ぁあああああっ!!」  そこからはそれまでのような優しさ染みた穏やかな愛撫などとは無縁の時間だった。上からドチュドチュと音をさせ、男性は腰を落としてくる。狙うは圭の結腸奥。S状結腸の奥の肉壁へと何の躊躇もなく腰を振られる。ただされるがままに穿たれるだけだった。 「う、ああ、あ、ぅあッ……あああっ……!」  速すぎる注挿に体も脳もついていけない。奥へと受け入れれば腹を性器で殴られるような衝撃に奥が軋む。引き抜かれる時も、襞を浮き出た脈が擦っていく。それだけで悦楽なんて言葉では言い表せない程の快感に翻弄された。  結腸が亀頭で抜かれる度に頭の中が馬鹿になったように滅茶苦茶になる。息をするだけで精一杯だった。涙も鼻水も、唾液も、性器からはよく分からない透明な液体も。穿たれている後孔すらも、注挿を繰り返される度に(あな)という孔から液体が零れる。  自分が自分でなくなってしまいそうな感覚。恐怖と、それを凌駕する快感。  こんな酷い目に遭っているというのに、体はこの暴力を『気持ちの良い行為』として捉えてしまっていた。その証拠に性器は何度も白濁を放ち、圭の腹や胸を汚していた。  ツラい体勢を支えているのは、相手が掴んでいる腰と首へと回している圭の腕のみ。この手を離してしまったら縋れる物がなくなってしまう気がして怖かった。だからキュッと抱き寄せる。  離したくない。ここに自分を繋ぎ止めていてほしい。恐怖すら感じる快感の波に押し流され、自分自身を見失ってしまいそうだったから。 「気に、入ったぞ」  ニィと笑う男性の顔は、怖くて。  そして、美しかった。  再び塞がれる唇。直腸も、口内も。全てを激しく蹂躙(じゅうりん)されている。  中に入れられた場所から溶けて消えてしまいそうだった。熱すぎる彼の熱でドロドロに溶かされて。二人、一緒に交わったままこの世からなくなってしまいそうだ。  そんな訳の分からない想像を本気にしてしまいそうなくらいには、もう脳は機能を失っていた。 「孕め。俺の全てをくれてやる」 「ああッ! あーっ、あッ! ぁああっ!!」  耳元で呟かれた後、男性の腰の動きが更に激しさを増した。頭の中の意識を留めている回路は焼ききれてしまう寸前だった。パチパチと視界に火花が散る。腹の奥、何度も穿たれた場所は熱を持ち、白旗を上げていた。 「――――うッ」  低く、くぐもった声。同時に最奥で浴びる飛沫(しぶき)。ドクドクと腹の奥に出されているのが分かる。  熱い。そう感じながら、圭もその刺激にガクガクと体を震わせた。もはや吐き出す物など体内には残っていない。何も出せないまま最高潮の快感が全身を駆け巡る。  男性の吐精は長かった。自分で自慰をした時の量とは比べ物にならない。腹の奥が精液で膨れてしまうのではないかと危惧する程、腸の奥へと浴びせかけられる。  やっと最奥にかかる飛沫の感触が止まったと思った時には、かろうじて瞳を開いているのがやっとの状態だった。胸を上下させ、荒く息をする。  腰を掴んでいた彼の手が解かれ、その手が後頭部を支える。もう片方の手が圭の背に回り、フワリと上半身が浮き上がる。浮遊感すらも、もうよく分からなくなっていた。男性の胡坐(あぐら)の上へと座らせられる。顔を上へと向かせられた。30センチを優に超える身長差から、男性の上に座らせられても見上げなければ顔を見られない。  後孔には未だ少しばかり柔らかくなった男性の性器が挿入されたまま。互いに体の中心で繋がり合いながら見つめ合う。  男性の顔が近づいてくる。整いすぎた顔というのは、至近距離で見るには心臓に悪すぎる。これ以上早鐘など打てないというのに、それ以上に心臓へと負担をかけるのはやめてほしい。  相手の顔を見られるということは、その逆また然り。こんな美丈夫の視界に自分の取るに足らない顔が映っているという事実が受け入れられなくて、フイと顔を反らした。  途端に後頭部と顎を取った手で強引に戻される。勝手など許さないと、有無を言わせない強い眼差しが語っていた。絶対的な存在から放たれる従属せざるを得ない圧に屈する。  それでも瞳を閉じることだけは許されたい。これ以上、美の暴力に晒されては、目は潰れ、脳は壊れてしまいそうだから。  何も映さなくなった真っ暗な世界。触れている相手の温かく少し湿った肌の感触がそれまで以上に感じる。  そして触れる唇。当然のように挿入(はい)り込んできた彼の舌。喰われんばかりの荒々しさは影を潜め、ねっとりと舌同士を絡ませる。  ピクンと性器が反応した。もう吐き出す物すら残していない役立たずのくせに。ムクムクと頭を(もた)げている。  何度も角度を変え、軽く食まれるように唇を貪られた。互いの唾液で口元は既に濡れそぼっている。飲み込みきれなかった唾液が口端から零れ、足元へと落ちた。それがどちらのものなのかなんて、もう分からないし、知る必要すらない。  ズクリと後孔の中の性器が大きさを増した。まさかと思った次の瞬間、ユサユサと腰が揺れる。 「ゃめ、も、ほんっと……むりぃ……」 「一度で終わらないことくらい誰でも知っているだろう。それとも、お前の今までの客は皆そんなに淡泊な者ばかりだったか?」  フルフルと首を振る。こんな激しい行為したことない。キスだって、人前での射精だって、挿入だって。全部、全部が初めてだというのに。 「こんなの、したこと、なぃ……」  ズビズビと泣きじゃくりながら零れる雫を手の甲で拭う。溢れる涙を止められなくて困っていると、手首を強く握られた。  顔を見せるようにハングアップの態勢で固定される。驚いて目を見開けば、目の前の美丈夫も呆気に取られた表情で圭を見つめていた。 「本当か?」  コクコクと何度も大きく首肯した。こんなことで嘘なんか()かない。自分に何のメリットもないのだから。  手首を離され、頬を撫でられた。優しさを含む手付きに目をそばめる。 「嘘など吐こうものなら命はない。それくらいはこの国の民なら分かっているであろうな?」  物騒なことを言われてピンと背筋を伸ばした。どう考えたって、この国というのが日本ではないことくらいは既に分かっている。だから別に国民という訳ではないが、それでも偽ってはいないのだから、殺される心配とは無縁のはずだ。  コクリと一つ大きく頷いた。  目の前の男性が何か考えるように目を伏せる。今度は何だろうと不安に思っていると、不意に圭の左足を持ち上げられた。 「わぁっ!」  バランスを崩して後ろへと倒れそうになり、必死に男性の首に回す手に力を込めた。左脚の腿の裏を持たれ、大きく上へと持ち上げられる。中にいる性器の角度が変わり、ビクリと反応してしまう。 「なら、このまぐわいの良さをとくと教えてやらねばならない、な」 「----ッ!!」  ズンッと腰を奥へと打たれ、口から臓器が飛び出そうな衝撃を受けた。自重もあり、深々と飲み込んだ最奥が押される刺激に屈服する。  上半身を押され、布団の上へと再び身を横たえた。持たれた左脚は抱えられ、男性の肩へと掛けられる。脚を持たれていることで大きく開かせられた下半身が男性の元に晒されていた。 「光栄に思え。この身、極限まで使ってやろう」 「あっ、ああああっ!!」  ガツガツと再開された注挿に絶叫する。太さも硬さも逞しさも、全てを取り戻した男根が再び最奥への侵攻を繰り返す。  フッと白目を剥いたと思った瞬間以降の記憶は途切れていた。

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