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第2章:性奴隷編 第10話
その時は唐突にやって来た。
今日も今日とて、ユルゲンと座学に勤しんでいた。机の上に開かれているのはシルヴァリアの地理を記した教科書。帝都内にある学園で実際に使われている物らしい。どうせなら学校に通って学びたいが、それが許されないことも重々承知しているので文句は言わない。
文字を覚えられたことで他の勉強がしやすくなった。口頭で説明するよりも見た方が早いものもたくさんある。ユルゲンが所用のある日には自習の時間を設けられることもあった。サボれば次の座学の時間に大目玉を喰らう。そうすると、それは体の授業の時に酷い目に遭うと分かり、真面目に机へと向かっている。他にやることがないというのもあるが。
自宅にいた時にはスマホで遊んでいたような時間が手持無沙汰になる。本を読む機会が増えた。最初は絵本から始まり、最近では小説も読めるくらいには読解力がついた。ユルゲンもその点に関しては褒めてくれる。
一方で、夜の勉強に関しては未だ及第点すら貰えていないが。
「えーっとぉ、ルレベックがぁ、港湾都市でぇ」
「ルレヴェックです」
「あー、えーと、るれ、ヴぇっく」
独特なイントネーションにまだ四苦八苦する。日本語にない言葉はやっぱり難しい。
「るれヴぇっく、ルレヴェック……あ、こんな感じか」
ユルゲンが穏やかに首肯する。正解に辿り着けたようだ。努力が報われると嬉しい。
「なあなあ、このルレヴェックって、どんなとこ?」
「ルレヴェックですか。そうですね、お隣ルレベルク大陸との貿易港として栄えていますね。頻度と数は少ないですが、ブラムニッツ大陸からも稀に貿易船が訪れます。その際には珍品が多いことから高値で取引されたりもしますよ」
「へー!」
「それに魚が美味しいと評判ですね。場所によっては生でも食べられる店もあるそうです。そんな野蛮な食べ方、滅多に」
「つまり刺身が食べられるってこと!?」
ユルゲンの言葉を遮る。この世界に来てから刺身を食べたことがない。日本以外の国では生魚を食べる文化がある国は珍しいから、異世界なら猶更かもしれないが。
「うーわー! 刺身食いて~!!」
懐かしい和食を思い出して口の中に涎が充満する。この国にはそもそも醤油という物が存在しない。大体が塩コショウ、それにスパイスでの味付けだった。
大概の物は美味しい。でも日本人としては醤油の味が恋しくなる。
「ケイ様はあんな物を食べたいのですか?」
「俺の住んでた国では、みんな普通に食ってたよ?」
当然のように言えば綺麗な顔を大仰に顰められる。
「お腹壊しませんか?」
「そこはちゃんと板前さん……えっと、プロがさばいてくれるからさー。あーあ、たまには和食食いたいなー。そもそも米が恋しい」
この国の主食はパンだから小麦でできた物は食べられるが、さすがに米は見たことがない。
頭の中にマグロやイカ、エビやタコなどが浮かんでくる。どれもこの世界に来てからは食べたことがない。
そもそも、全て料理された状態で出てくるから、元がどんな姿なのかも分からない。
圭が魚たちに思いを馳せていると、コンコンと扉をノックする音がした。
圭の部屋の扉が叩かれるのは、ユルゲンに用事がある時だけである。基本的に一人きりの時は誰一人として訪れる者はいない。この部屋に入って来るのは、ユルゲンと皇帝陛下、それに限られたメイドだけだ。
ユルゲンが扉へと向かう。彼はどうやら高位の文官らしい。断定できないのは、聞ける相手がいないから。圭の家庭教師役を担っているため、この部屋の中にいることが多いものの、課題を与えられてこなしている時には常に大量の書類と睨めっこして指示を書き込んでいる。カッコいいのに目の下のクマが最近酷い。きっと圭の世話をしているからだろうということは想像がつく。
「まぐろ~、あじさばさんま~」
勝手に歌を作って教科書の隅に魚を描いていく。違いなんて克明に分からないから、太った魚や細い魚、それにワカメや貝など小学生でも描けるような単純な絵ばかりだ。
扉の方を見れば、ユルゲンはまだ話している。何やら込み入った話なのだろうか。このままでは、教科書がお魚天国になってしまう。
「ケイ様」
「ん?」
難しそうな顔でユルゲンが圭の方へと顔を向けた。扉付近から動こうとはしない。呼ばれたのだから用事があるのだろう。とりあえずユルゲンの元へと向かう。
圭が近くまで来ると、ユルゲンは廊下にいる人物に手早く指示を出して扉を閉めた。
「良いですか? 今から改めて確認をします」
「う、うん」
その場に膝をつき、見上げる格好になりながら圭へと真剣な表情を向けてきた。勉強中に見せていた雰囲気とは打って変わり、ピリピリとした緊張感に包まれている。
「皇帝陛下には?」
「逆らわない」
「よろしい」
大きく一つ頷いて、ユルゲンは立ち上がった。再び扉を開ける。
「ついて来なさい」
「えっ」
手を引かれて廊下へと足を踏み出した。二週間余り、一度たりとも部屋の外に出してもらえなかったというのに。
キョロキョロと辺りを見回した。廊下には真っ赤な絨毯が敷かれ、壁には大きな風景画が飾られている。
「わぁ」
バサリとユルゲンが着ていたジャケットを頭から被せられた。
「そのまま被っていてください。あなたの容姿は目立ちすぎます」
そう言えば、そんなことを言われていたなと思い出した。あまりにも会う人が固定されていて、珍しがられることがしばらくなかったからすっかり忘れていた。
手を引かれたまま足早に連れて行かれる。脚の長いユルゲンにとっては早足程度かもしれないが、圭にとっては小走りだ。
「ゆ、ユル、ちょっと待ってよ。速い! 速いってばぁ」
「文句を言わないでください。急いでいるんです」
ミニスカートのようにヒラヒラ揺れる裾がおぼつかない。スースーして捲れてしまわないか心配だった。
ジャケットで見えないが、人がいる気配がする。それも一人ではない。複数人だ。足元しか見えなくともチラチラと見える靴や話し声で分かる。
ある扉の前でようやくユルゲンは止まった。
そして再び圭の前へとひざまずく。
「ケイ様、最後にもう一度だけ確認いたします。皇帝陛下には?」
「逆らわない」
「合格です」
ガシリと両肩を掴まれた。
「痛い、ユル、痛いよ」
その力加減に思わず抗議する。外そうとユルゲンの手首に触れた時だった。
「先に謝っておきます。申し訳ありません」
「え?」
「この場を上手く収められるのが貴方しか私には思いつきません」
重厚な扉が開く低い音がする。
嗅いだことのある匂いがした。
この世界に来て、間もない時。
思い出したくもない、おぞましい場所での記憶が蘇る。
「わぁっ!」
腕を強く引かれたと思ったら、放るように中へと投げ入れられた。勢いを殺せず、コロコロと転がった。
「いってぇー……」
何かにぶつかって止まる。何だろうと考えながら被せられていたジャケットから顔を出す。
ヒュッと喉が鳴った。首と胴が離れた遺体が転がっていた。
「わぁぁぁぁっ!!」
思わず後方へと後ずさる。そこでも何かにぶつかった。おそるおそる背後を振り返る。そこにもまた、同様の遺体が見える。
「うっ」
両手で口を覆った。込み上げる吐き気を止められない。
部屋の中に充満する鉄臭い匂い。そうだ。あの時、満ちていた匂いと同じだ。
煌々と照らされた明かりの中、斬り殺されていた人間であった残骸。
「おえっ」
堪らず、その場で吐き出した。すっぱい胃液と昼に食べたスープの味がする。
「まだ誰か動ける者がいるか」
ゴホゴホと咳き込んでいると、低く通る声がした。
聞き覚えのあるその声に顔を上げる。そして、また後悔した。
血まみれの遺体がそこたら中に横たわっていた。何十人と。多くが首をはねられ、胴とは別の場所に転がっている。流れ出た血が床を真っ赤に染めていた。
その真ん中に一人佇んでいる男性。真っ白な軍服をところどころ返り血であろうか、赤く染めている。
「ああ、ケイか」
顔にまで血が飛んでいた。ニィと笑う顔が怖い。
踵を返し、近づいてくる。無意識の内に後ずさっていた。
あと5メートルという所にまで相手が来た所で、弾かれたように扉へと向けて走り出した。血で滑りそうになりながらも、懸命に足を動かした。
扉に辿り着くも開かない。押しても引いてもビクともしない。
「お願い! 開けて! 開けてよ!!」
ドンドンと何度も叩いた。それでも、やっぱりウンともスンとも言わない。
「ひっ!!」
派手な音がした後、顔の真横に剣が突き刺さっていた。震えながら背後を振り返る。
貼り付けたような笑みをした美丈夫が見下ろしていた。
「逃げるのか?」
ブンブンと首を横に振った。頭の中には扉の前でユルゲンから言われた言葉が繰り返される。
「俺、どこにも逃げない……よ?」
笑顔を作ろうとしてみたが、口角がヒクつくだけに終わってしまう。脚が震えて立っていられなくなり、ズルズルとその場に座り込んだ。
「じゃあ、どうしてココにいる?」
ココと言うのは、おびただしい数の遺体に塗れたこの部屋のことを指しているのか、それとも、扉の前まで逃げてしまったことを言っているのか。どちらか分からず小首を傾げる。
「俺の質問にはきちんと答えろ!!」
ドンと扉が叩かれた。圭が叩いた時とは違う、激しく重い音が響く。
怖くてガクガクと震えるばかりの圭に男は忌々し気に舌打ちをする。
「あ……ごめん……ごめん、なさい……」
恐怖に駆られ、思わず謝罪の言葉が口に出た。不興を買ってはならないとあれほど言われていたというのに。
「あっ!」
左足を取られ、引っ張り上げられる。体が浮き、右足がかろうじてつま先が付いている程度にすぎない。不安定な態勢が心もとない。扉へと縋り付いた。
「ああっ!!」
豪快に広げられた下肢に剛直が突き込まれた。何の前戯もない。それでも慣れた体はすんなりと受け入れた。
「ンぁっ、――っく……ぅ、あ……ん」
激しい注挿で涙目になる。優しさの欠片もないセックスなんて何度もされてきたが、今日はその中でも群を抜いて酷かった。こんな思いやりのないセックスなんて、それこそただの獣の交尾だ。
「うっ……」
体の奥で熱い飛沫を感じる。出されたのだと分かった。
初めて共に射精せずに相手が終わった。ズルリと抜けていく男根。
圭の性器は終止縮こまったままだった。それに気づいたのか、男が圭の陰茎を握って来る。
「やめっ……」
否定の言葉が出そうになり、咄嗟に口を塞いだ。チラリと相手を見る。不機嫌面に拍車がかかっていた。
「俺の愛撫では勃たせられないか?」
ブンブンと首を振った。違う。気持ち良い云々の前に、恐れで勃ち上がらないのだ。
何度か上下に手淫するも、しょげて下を向いたまま分身は微動だにしなかった。
「痛っ!」
業を煮やしたように握り込まれる。痛みで全身がビクビクと震えた。
「お願い! 手ぇ、離して!」
「ならば、勃たせてみろ!」
放るように手放され、ジンジンと痛みに呻く性器を隠した。
握り潰されるかと思った。怖くて今も心臓はバクバクと跳ねている。
見下ろしてくる男の顔はまるで修羅のようだった。こんな顔で見つめられたまま勃起なんてさせられる訳がない。
(考えろ、考えるんだ)
扉に突き刺さったままの長剣。その錆びになるなんて絶対に嫌だ。
逡巡を繰り返す。相手のイライラが伝わってきて余計に焦る。
とりあえず時間を稼ごう。もしかしたら、その間に名案が浮かぶかもしれない。
膝立ちで相手の脚へと抱き着いた。嫌いじゃない。そんなに怒らないでと、思いを込める。スリと頬をズボンへと擦り付けた。血の匂いに混じり、男の爽やかな香りがする。
顔を持ち上げ、股間へと顔を埋めた。精の香りに満ちている。力の抜けた性器に手を添え、咥え込んだ。口内で性器がピクリと反応し、力を漲らせ始める。
「んぅ……」
顔を前後させ口淫に励む。
ユルゲンに口での奉仕をされた翌日から、座学の後に口淫の授業も行われていた。
さすがにユルゲンの性器を咥えることはなかった。そんなことをさせれば首をはねられると却下されたためだ。
代わりとばかりに男根を模した梁型を使い、舌技を学ばせられた。
最初は細い物から始まり、徐々に大きさを増していく。苦しかったが、ある程度コツを掴めばできなくもないというのが結論だった。
人間相手に行っていないため、気持ち良いかどうかは分からないが。
喉まで飲み込みながら自分の性器も手淫する。勃ち上がれ、勃ち上がれと何度も念ずるも、やはりデリケートな息子はピクリともしない。
それならばと、相手の陰茎を支えていた手を離し、後孔の中へと指を挿入した。熱くぬめる肉筒。奥へと指を進め、敏感なしこりへと辿り着いた。
「んっ」
ピクンと性器が反応する。さすがに前立腺の刺激には応えるようだ。
手淫では何の手応えもなかったというのに。
「んっ、んっ」
唇の端から唾液と先走りが零れる。きちんと感じてくれている。嬉しく思いながら自らの性器を擦る手と前立腺を突く指の感触に意識を持っていく。
手の中の性器が勃ち上がったのを確認してから口淫を続けていた性器を口から抜いた。こちらも臨戦態勢を整えている。
床に尻をつき、大きく脚を左右に広げた。よく見えるよう、ついでに服も脱ぐ。
「でき、ました」
自分から肘を膝裏へと回して引っかける。脚はそのままに後孔の縁を指先で広げる。コポリと奥から吐き出された白濁が零れている。
屹立を勃たせながら相手へと秘部を晒す。こんな淫猥な格好、AVの中だけだと思っていたのに。
人間、生死が関われば何でもできる。遺体に囲まれた場所でだって、扉の向こうには何人もの見知らぬ人がいる場所だって。どこででも自ら恥ずかしいことをできるようになってしまった。
「おまんこ、寂しいんです。もっと犯してほしい」
強請 る言葉は相手の琴線に触れるように。淫らで、いやらしく、恥ずかしい言葉で。
「俺の淫乱まんこ、太くておっきなちんぽでズポズポしてください。いっぱい精子かけて、いっぱい汚してください」
AVの中のような言葉に赤面する。きっと、これで良いはずだ。そう教わったんだから。
「んうっ!!」
ズンと奥まで怒張が挿入 り込んで来た。突然の刺激に耐えられず、プシャリと潮を噴いた。
「この阿婆擦れが! そんなに欲しいなら、いくらでもくれてやろう!」
「あっ! あぁっ! ふ、かぁ……ッ!!」
激しい注挿に目の前がチカチカする。覆い被さってくる男の首へと腕を回す。いつもなら逞しい筋肉が触れるのに、今は軍服で阻まれている。
「あぁっ! もっとぉ! おまんこ、こわ、してぇ!!」
ギュッと抱き締めれば、激しさが増す。
本当に壊されそうな勢いで別の怖さがあった。
一方で、心の奥底でホッとしている自分もいた。
気持ちの良い場所を突きながらピストンを繰り返してくれているのが分かったから。
「イイ! イイよぉ! おまんこ、だいすきぃ!」
ハァハァと荒い息の中、心にもない言葉を繰り返す。
いや、本当は深層心理を投影しているのかもしれない。
勝手に口から飛び出しているのだから。
「あ……あ、くっ、ハアッ、んっ……ぅ゛っ……――!!」
突かれる度に何度も圭の性器から白濁が零れた。出す物がなくなっても、フルフルと震えながら。絶頂が続き、頭がおかしくなりそうだった。
「好き! だいしゅきぃ!」
軍服の背を掻き毟りながら絶叫した。その度に中を穿つ性器が大きさを増す気がする。
「あ、ひぃっ!!」
S状結腸の奥をドンと突かれ、二度目の白濁が腸内へと満ちた。共に絶頂し、ビクビクと身を震わせる。
「こんな死体の中でイけるなんて、とんだ変態だな」
揶揄するような言葉を聞きたくなくて、キスで唇を塞いだ。
先程嘔吐したことを思い出す。咄嗟に離そうとしたが、後頭部を掴まれて動かせない。
「ふぅ、ン……」
舌を絡められ、陶酔する。
やっぱり、この人のキスは気持ちが良い。背へと回した腕を彼の後頭部へと持っていく。柔らかくサラサラとした極上の髪質。指へと絡ませ堪能する。
良い子良い子と、頭を撫でた。何をそんなに怒っていたのかなんて知らない。でも、そんなに怒らないでほしい。みんな怯えてしまうから。
「随分と余裕そうだな」
「別に余裕なんてないよ。……あ、でも、俺さっきゲロ吐いた」
「汚い奴だ」
笑いながらまた口づけられる。嫌でないのかと不思議に思ったが、その唇に夢中になった。
中に入っている性器が硬度を増す。はなからこれで終わるなんて思ってはいないが、せめて場所だけは変えてほしい。
「続きはベッドが良いな。……もっと、いっぱいしたい」
「俺に指図するとは、とんだ姫様だ」
フワリと体が持ち上がる。体の中心で繋がったまま。
「あっ」
動くと奥が刺激され、快楽に背を反らした。
「扉を開けろ」
低く通る凛とした声。普段、圭に語り掛ける時とは違う「皇帝陛下」としての一面を垣間見た気がする。
脚を背中へと絡ませる。ギュッと目の前の逞しい体躯へと抱き着いた。隙間なんて微塵もない程に。
顔を肩口に埋める。こんな格好を見られて、扉の外の人たちからどんな反応されるか怖い。
それが全く知らない人たちであったとしても。
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