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第3章:デート編 第1話

「あッ、……あっ、そこ、も、らめ……」  クチュクチュと水音をさせながら亀頭付近を指で捏ね繰り回される。 「ダメではなかろう。〝イイ〟の間違いだろう?」 「あっ、あぅっ、やっ……」  フルフルと首を横に振る。弄られる先端が気持ち良すぎて、ダラダラとカウパー液が大量に零れ落ちていた。  以前よりも優しくなった手付き。その分ねちっこく責められる。 「あっ、あッ、も、さきっちょ、だけ、やめへぇ……ッ!」 「じゃあ、お姫様はどこをどうされたいんだ?」 「しゃ、しゃおも……しゃおもいぢっへぇ……」 「こっちか?」 「ふぁんっ!」  裏筋を中心にちゅこちゅこと竿を弄ばれる。ダイレクトな刺激の場所が変わり、蕾の奥がキュンキュンと疼いた。 「も、おまんこ、の、ほうも……いぢって、よぉ……」 「男はそんな場所、普通は弄らないが?」  フルフルと左右に首を振る。分かっているのに触ってくれない。今日は優しくて少し意地悪だ。 「おれ、のおまんこ、メスだから……おまんこ、ほじられないと、イ、けない……」 「淫らなお姫様だ。そんな言葉で強請ってくる奴など、見たことないぞ」  カァァと頬が熱くなる。  本当なら、こんな言葉言いたくない。  しかし、言わなければいつまでも欲しい場所にくれないくせに。  涙で潤んだ瞳で見上げ、唇を重ねた。 「お願い、だから。おまんこ、して……?」 「……この、色狂いの男娼が!」 「ひぁん!!」  後孔へと二本の指がいっぺんに挿入された。疼く体内をかき回され、体が熱くなる。 「あっ、イイ! これ! しゅきぃ!」 「ケイが欲しいのはこれで良いのか?」  ブンブンと勢いよく首を横に振る。アレクの体の中央で存在を主張している男根を握り締めた。カウパーで圭の手が濡れる。 「これ! これが、ほしい! これで、おく、グチュグチュされたい!」 「素直な奴は嫌いじゃない。良いぞ。褒美だ、くれてやる。自分で跨がれ」  後孔の指を引き抜かれる。覚束ない脚でアレクの男根の上へと腰を移動させ、自重で下へとその身を落としていく。 「んん、んんぅ……」  ズブズブと奥へと向けて挿入り込んでくる剛直。無理やり拓かれるこの感覚が堪らない。 「ケイ、ケイ……」  抱き締められながら下から穿たれる。唇を奪われ、上からも下からも孔という孔を目の前の男に奪い尽くされる。  でも以前とは違い、そこには何だか温かい物がある気がしてならない。  ある日を境に。彼の行動が少し変わったように思う。  あの、初めて二人で××した日……。 ★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆  普段よりも賑やかな音がしている気がする。徐々に浮上する意識。耳に入り込んでくる喧噪や太鼓、笛などの音。明らかにいつもと違う雰囲気が漂っている。重たい瞼を開けた。視界に入り込む美丈夫のドアップに一気に目が覚める。 (びっ………………くりしたぁ……)  圭が彼の寝顔を見たことはなかった。もうひと月半ほど経つが、ただの一度として。  大抵は夜、精魂尽き果てるまで求められ、気絶するように眠りに落ちる。そして起きる頃には既にベッドは圭一人しかいない。そこからモソモソと起きて、ブランチを口にするのが日常だ。  ただ、昨夜は少し事情が違っていた。昨夜というよりも、ここ数日間はと言った方が正しいかもしれない。特に違ったのが昨夜というだけで。  と言うのも、昨夜は彼に出会ってから初めて抱かれなかったのだ。  どうやら、ここ最近、彼は忙しかったらしい。直接聞いた訳ではないが、部屋に戻って来る時間が徐々に遅くなっており、昨夜に至っては待ってはいたが全く戻って来なかったのだ。  この世界には『月』というものがない。夜空は暗く、その分だけ星がとても綺麗に見える。初めて天の川を見た時など感動ものだった。  ついでに言うなれば電気も存在しない。明かりは魔力を込めた道具で光らせるか、ランプなどの火を灯して使う物が主流である。だから夜道は街灯などもなく、とても暗いのだとユルゲンが話していた。  明かり以外にも魔力を使った道具はいくつもある。魔道具と呼ばれるそれらは家電製品のような役割を担っていた。  しかし、魔力を持つ人間は相当に限られており、それらを持つ者は帝都と言えども多くはない。そのほとんどが貴族ばかりである。一般庶民の家庭には高価すぎて手が届かないらしい。  だから、一般家庭の生活はとても楚々としたものらしい。井戸水をくみ上げ、薪で火を起こして生活する。聞いた時にはまるで江戸時代のようだと感じた。  この城は皇族の住む場所だから、至る所へと当然のように魔道具が設置され、何不自由感じることもないが。  そして、月がないということは外を見ても夜分に時間が分からないということだ。月が出ていれば満ち欠けや位置によって、おおよその時間を特定できる。その目安となるべき物がないのだから仕方がない。  満天の星も、大きさや色などの違いが全く分からない。もしかしたら動いているのかもしれないが、詳細に観測できる程じっと見たことがない。  ユルゲンは普段から腰に懐中時計を身に着けているから彼が部屋の中にいる時であれば何となくの時間は分かる。彼は几帳面で、しっかりと時間管理をしているから。  しかし、時計の置かれていないこの部屋の中で時間を知るのは難しい。必要としないからなくても生活に支障はないが。自由のない圭にとって、言われたことをするだけの日々なのだから。 (うわー、相変わらず綺麗な顔)  至近距離でマジマジと眠る男の顔を見つめた。長いブロンドのまつ毛、それに、スッと高く伸びた鼻。形良く血色の良い唇は少しだけカサついているようにも見えた。珍しい。  よくよく見てみれば、目の下には薄っすらとクマが浮いていた。それもそうだろう。ここ数日は随分と夜更けに戻ってくることばかりだった。一応起きて待ってはいるが、船を漕いでいることもザラだった。もうすぐ夢の世界に落ちそうだという頃に戻ってきて、そこから情交を交わして眠る。  ただ、それも昨夜は完全に眠ってしまって戻って来ていたことすら記憶にないが。  賑やかな音の正体は城の外から聞こえてきている。何だろうか。気になって仕方がない。  モゾモゾと動き、腰に回っている逞しい腕から脱出を図る。腕を剥がそうと掴んだら、グッと引き寄せられて驚いた。 「暴れるな、抱き枕風情が」 「えー……」  愛玩動物扱いから物に格下げされている。元から人間扱いなんてされていないとは思っていたが、さすがにオナホールではなくペットくらいには思ってくれていると信じていたのに。 「ねぇねぇ、何か音がする」  ぺちぺちと相手の頬を軽く叩く。叩くと言っても、触れるという程度に近い力加減で。 「生誕祭だろう。お陰でここ最近は寝不足だ」 「うげぇ」  ギュウと腰を強く抱き込まれて思わず呻き声が漏れた。 「ギブギブ!」  トントンと腕を叩く。パッと力が弱められ、安堵の息を吐いた。 「外、見てみても良い?」 「……好きにしろ」  少しの間があった後、渋々ながらといった声が聞こえてきた。何だかちょっと可愛く見えて心の中で小さく笑う。  それでも腰に巻かれた腕はそのままだった。仕方がないから布団の中に潜り込み、腕から逃れる。  夜着を着たまま目覚めるのも初めてだった。いつも抱かれてそのまま眠りにつくため、圭の朝は基本的に全裸だ。  何だかちょっと寂しい気もした。そして、ブンブンと首を横に振る。 (わー! ちょっと待った!! 今のなし!!!!)  とんでもないことを考えてしまった気がする。朝だからまだ寝ぼけているのだろう。きっとそうだ。そうに違いない。……そうでなければ困る。  広いベッドを抜け出し、寝室の窓辺へと駆け寄った。 「うわぁ!!」  眼下に広がるのは、色とりどりの旗や風船のような装飾の数々。いつもより往来する人も多く、賑やか極まりない。 「何これ!」 「だから生誕祭だと言っているだろう」  背後から抱き付かれ、頭の上に顎を乗せられる。 「もー! 重いよ!!」 「うるさい」  硬い掌で口を塞がれる。モゴモゴと声にならない抗議を繰り返していると、ふぁぁと頭上から大きなあくびが一つ。 「プハッ! 窒息しちゃうよ!」 「気を失う前にはやめてやる」  クスクスと今度は笑い声が聞こえてきた。全く悪いと思っていないことは明白だ。プゥと頬を膨らませる。その頬を指先でつつかれ、尖らせた唇から音をたてて空気が漏れた。それすらもおかしいとでも言うように楽しそうな声が響く。 「ねぇ、生誕祭って何?」 「ケイの世界にはないのか?」 「んー……生誕祭ってことは、誰かの誕生日ってことだよね? ……クリスマスとか、天皇誕生日とか?」 「くりすます? てんのう?」 「えーっと、クリスマスっていうのは神様の誕生日で、天皇っていうのは国で一番偉い人? ……なんか『国の象徴』って社会の授業で先生言ってたな。その人の誕生日で、学校とかが休みになる」 「クリスマスというのは休みではないのか? 神の誕生日だというのに」 「クリスマスはイベントかなぁ。イブとかみんなで集まってごはん食べたりプレゼント交換したりするけど、学校とか仕事は休みになんない。あー……でも、ほとんどイブの日って終業式とかであんまり勉強とかはしないかな? 曜日の配置によってはその前から連休入っちゃうし。そもそも俺の住んでた国は無宗教っていうか信仰は自由だから、ある特定の神様っていうのを信じる人って多分限られるんだよね」  日本には「八百万の神」という言葉すらある。きっと日本独特の文化であろう。お陰で宗教戦争などに巻き込まれず平和な時代が長く続き、文化が守られてきた側面があると思う。もちろん、島国という地形的な事情もあっただろうが。  去年のクリスマスを思い出した。受験勉強も佳境に入り、友達と遊ぶなんてことはできなかったが、通っていた塾の仲間同士でプレゼント交換をしたり、家族と一緒にケーキとチキンを囲んでささやかなパーティをしたりと少しばかりの息抜きをした記憶が蘇った。  姉は「今年こそ絶対に彼氏とクリスマスイブ過ごすから!」と12月初め頃から意気込んでいたが、結局は自宅でやけ酒気味にシャンパンを空けていた。元々、家族を大切にする兄は彼女と一緒には過ごさない。行事には必ず家族が一緒。正月も、お盆の墓参りも、花見も旅行も。  多分、自分の家が他よりも家族仲が良いというのは感じていた。友人の話を聞くと、そんなに家族みんなで団らんを楽しむなんていうのは中学生頃からなかったらしい。  しかし圭の家ではごはんは可能な限りみんなで一緒に食べるし、食後だって部屋に戻らずテレビを見ながらあーでもないこーでもないと雑談をする。風呂に入る頃になってようやく家族が順番に自室へと戻っていく。  冬はこたつの誘惑に抗えず、リビングに入りびたりになることもしばしばあったが。  受験勉強だって、自室ではついついスマホの誘惑に負けてしまうことも多く、リビングですることが多かった。分からなければ兄や姉に聞けば良いし、サボっていれば誰かが注意をしてくれる。そのお陰で今の高校に入学できたと言っても過言ではない。 「祭りかぁ……」  ボソリと呟いた。行うはずだった文化祭。みんなで準備していたのが懐かしい。 「やりたかったな」  賑やかな街を見ているのがツラくなり、窓辺から離れた。  そろそろ朝の支度をしなくては。ユルゲンが来てしまう。 「なんだ、ケイは祭りに行きたいのか?」 「そりゃ行ってみたいけど、どうせ俺はここから出ちゃダメなんだろ? 良いよ。分かってる。どうせ行けないって。それに、そろそろユルが来るだろうから、勉強の準備しなくちゃ」  今日は一体何の授業だろうか。ここ最近はずっとシルヴァリアの歴史を学んでいる。それが終われば世界情勢についての学習へと移行すると言われているから、覚えることは盛りだくさんだ。 「どうせ、ユルゲンは今日来ないだろう」 「え? 何で?」 「今日は生誕祭だ。皆で神を祝う日は労働が原則として禁止されている。どうしても働かねばならない職種の者は別だし、稼ぎたいという者はこぞって露店を出したりするが、基本的には休日として過ごす。その分、そのしわ寄せが前後に来るがな」  ふぁぁともう一つ大きなあくびをしながら大きく伸びをする相手を見て、なるほどと合点がいく。だから最近は夜遅かったのか。  そう言えば、ユルゲンも忙しそうにしていたのを思い出す。もしかしたら、多忙で今日のことを言い忘れたのかもしれない。彼もここ最近、酷いクマを作っていることがあったから。 「行くか?」 「え? どこに?」 「城下に決まっているだろう」 「良いの!?」  ベッドに腰かけている相手の元へと駆け寄った。犬のように床の上へとペタリと座り、期待を込めた眼差しで相手を見つめる。 「まあ、良いか悪いかで言ったら悪いだろうが」 「えー……」  一気に気落ちした。つまりダメだということだろう。ぬか喜びにガッカリする。一度高められた期待を裏切られることほど落胆することはない。 「だが、俺のすることは全て正義だからな」 「んっ?」  がっくりと項垂れていた顔を瞬時に上げる。見上げた男の顔はニィと笑んでいた。悪い顔だ。だが、今は後光が射して見える。 「ブランチを食べた後、しばらくは誰も入室するなと言っておけば、そう簡単にバレやしないだろう」 「おおおおおお!!」  一気に現実味が帯びてきた外出計画に胸が高鳴った。 「ねぇねぇ、アレクって勝手に外に出て良いの!?」 「まずいに決まっているだろう」 「わーっ!」  口角を上げて目を側める。悪役の顔だ。だが、今の圭にとってはヒーローに見える。はやりのダークヒーローだ。 「そうと決まれば、まずは飯にするぞ。さっさと食べて城を抜け出す」 「アイアイサー!!」  ビシリと敬礼して、洗面台へと駆け込んだ。ばっしゃばっしゃと勢い良く顔を洗う。顔を上げて鏡に映った自分を見て、あまりの締まりのなさに苦笑する。でも、そんな事どうだって良い。これからとびきり楽しいことが待っているのだ。  初めての外出という「冒険」に。

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