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第3章:デート編 第5話
目覚めた圭がいたのは、暖炉のある温かな小屋の中だった。どうやらソファの上でうたた寝していたようだ。
『起きたかい?』
「マリア!」
ガバリと身を起こした。マリアは圭の対面のソファに優雅に座っている。互いのソファの間には低いテーブルが置かれており、その上にはホコホコと湯気の立ったティーカップが2つ。それに、テーブルの中央には菓子の乗った皿まで用意されていた。その皿の上の菓子を見て更に驚愕する。
「マカロンだ!」
この世界に来てからはお目にかかったことがない。それにマリトッツォやカヌレまで用意されている。
「すごい! 食べても良いの?」
『もちろん。全部ケイのために用意したのだから』
「やったー! いっただっきまーす!」
パステルピンクのマカロンを一つ口の中に放り込んだ。サクッとした独特の食感と口の中に広がる甘み。久々の味に頬が零れ落ちそうになる。
「うっまぁ~」
『それは良かった。用意した甲斐があるというもの』
「ねえ、次はティラミス食べたい!」
『分かった。用意しよう』
「やったー! ありがとう、マリア大好き」
『フフッ、可愛い童に好かれるのは悪い気などせんな』
ハクハクと菓子を口へと運んでいく。どれも丁寧に作られているのが分かる繊細な味だ。紅茶も奥深い味わいがして、ティーバックやペットボトルしか飲んでいなかった舌には勿体ないくらいの品である。
『ケイは今日、何をして過ごしたんだい?』
「聞いちゃう~? あのね!」
そこから今日一日の冒険譚を話し始めた。秘密の通路や生誕祭で盛り上がる城下町の様子などを感想交じりで語り尽くす。
マリアはその話を至極楽しそうに相槌を打ちながら聞き続けていた。
『楽しかったかい?』
「うん! 超超超楽しかった!!」
『そうか、それは良かったな』
「また行きたいな。……それに、俺の地元の祭りも」
ティーカップを両手で握り締める。自分の言葉で少し落胆した顔が茶の表面に映っていた。
『……元の世界に帰りたいかい?』
「そりゃあ、帰りたいよ。……だって、ここは俺の住む世界じゃないもん」
『そうか……』
それまで賑やかだった部屋の中に沈黙が蔓延った。しばらく郷愁に耽っていたが、プルプルと頭を振る。
「ごめんね、マリア。暗いこと言っちゃって」
『いや、良いさ。たまには吐き出すことも大切だ』
「……うん、ありがとう」
マリアがティーポットを手に取った。意図を察してカップをソーサーの上へと置く。コポコポと注がれる茶色い液体。そして広がる紅茶の芳醇な香り。
「ねえ、マリアはずっとここに一人でいるの?」
『まあ、そうだね』
「寂しくない?」
『寂しい、か……。そんな感情、とうに忘れてしまったよ』
「え?」
『そうでもなければ、やってられないだろう?』
「あっ……そっか……」
あまりにも寂しい答えに胸が痛くなる。立ち上がり、マリアの座るソファの後ろへと回った。
そして、そっとその首を抱き込んだ。
「寂しかったら俺に言ってね。話し相手くらいにしかなれないけど、俺いつでも来るから」
『……ありがとう、ケイ』
フワリと頭を撫でられる。心地の良い感触に思わず笑みが零れた。
『私だけじゃない。ケイのその優しさで、他にも憂う相手がいたら優しくしておやり』
「うん、分かった。約束な」
右手の小指を立てて差し出し、マリアの手をとる。そして小指同士を絡ませた。
『これは?』
「指切げんまんって言ってな? ……」
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祭りの日をきっかけに、アレクの態度が変わったように圭は感じていた。
まず第一に、共に食事を摂るようになったことが一番大きな出来事だった。
それまで独りぼっちで孤独に食べていた食事の時間は苦痛だったが、その時間がガラリと変わった。
その日、何を学んだのか。元の世界であったこと。窓から見えた風景や感じたことなど話す内容は多岐に渡り、とりとめもないことばかり。
しかし、その時間が楽しかった。元々、会話の内容なんて何だって良いのだ。誰かと一緒に話せるということ自体が嬉しかった。
味気なかった食事の味が一気に変わる。同じ物を食べていたとは思えないくらい美味しく感じていた。
そして、会話のキャッチボールができる。それもとても楽しい。話せば返って来る。たったこれだけで良い。コミュニケーションの基本とは、こういったものだと思う。
次にスキンシップの時間が増えたように感じる。
それまでアレクは基本的に日がな一日中仕事ばかりしており、戻って来るのは夜遅くなってからだった。
それが今は昼食時にも戻ってくるし、夕方になれば執務を終えるようになった。
そして共に風呂に入り、夕食の席へとつく。夕食を摂り終えればソファでのくつろぎタイム。アレクは書類を確認しており、ダラダラしているのは圭のみではあるが。
ただ、その時間はずっと膝の上に乗せられ、書類を持たない手で脚や腹などを撫でられ続けている。
最初はくすぐったいばかりであったが、段々気持ち良く感じることも増えてきて困る。下腹の屹立が服を押し上げ、布地の色を変えてしまう。
それを見られては揶揄され、息子を可愛がられて射精させられる。
その頃には書類なんて目もくれず、耳元で卑猥な言葉ばかりを囁かれるのだから堪らない。
「ほら、ケイのココは今、どうなっている?」
「あっ、あっ、おれの、ちんぽ、アレクにクチュクチュされて、よろこんでる……」
「そうだな。じゃあ、コッチは?」
「ひゃんっ!」
上下に擦られる性器はそのままに、後孔へと指がツプリと挿入り込む。
毎日飲まされ続けている謎の秘薬のせいで、すっかり後孔はいつでも濡れる体質へと変わっていた。含まされた指を喜々として咥え込む。入れられた指はすぐに前立腺へと伸ばされ、コリコリとしこりを弄り始めた。
「ン……は、ぁっあ……あ」
嫌々と首を横に振る。前と後ろ、同時での刺激は強すぎる。呆気なく達してアレクの手を汚した。
圭の白濁のかかった手を見ていたアレクであったが、何を思ったかそれを自分の口元へともっていったから堪らない。
「ちょ、何してんの!?」
ペロリと舐めてから不快そうな顔をする。
「まずい」
「やめろよぉ!」
白濁のかかった手をとり、残った残滓を圭は自らの服に擦り付けて拭き取った。
もっと文句を言おうとした口を唇で塞がれる。入り込んで来たアレクの舌が普段はない独特のえぐみを持っており、眉間に皺を寄せる。
(おえー……これ、俺の味ってこと?)
さすがに嫌すぎて離せと肩を叩く。いくら自分の体内で生成されたものであったとしても、吐き出してしまえばただの汚液だ。とてもじゃないが誰のであっても口にすべきものではない。
圭も思春期の男子高校生である。AVを見て口内射精には憧れもあるし、いつか彼女ができて同意が取れたら一度くらいは口淫や口内射精をしてみたいなんて願望もあった。
しかし、どう考えても今この状況は本望ではないし、思い描いていた淡い夢とはかけ離れ過ぎている。
その前に、そもそも論で精液の味など知りたくもなかった。
「んっ……んっ……」
腕から抜け出そうとモゾモゾ動くも全く抜け出せない。こういった状況になった時、抜け出せた試しなど一度としてない。
それどころか、逃がさないとでも言わんばかりに腕の締付けがキツくなる。そこまでがワンセットである。
(うぅぅ~……ぐるじぃ~~)
ポカポカと肩を叩くも逆効果。そろそろ口づけを交わしている唇から臓器がまろび出てしまいそうな想像ができた付近で叩くのをやめた。
代わりとばかりに首へと手を回す。キュッと抱き締め、積極的に舌を絡ませた。
これは経験則で学んだことだが、逃げようとするともっと拘束が激しくなる。
逆に、くっつくと拘束は緩められるのだ。
この法則を最近編み出し「北風と太陽理論」と勝手に名付けている。
向き合う格好で抱き着いていると、まるで恋人同士のように錯覚してくる。求められる唇も情熱的だし、背を撫でる手付きも優しく温かい。
正直、スキンシップの時間は嫌という訳ではなかった。高確率で情事になだれ込むことを除けばではあるが。
元々コミュニケーションをとる上で圭はスキンシップが多い。友人たちとも距離感が近いとはよく言われるし、体操を行っていた時もハイタッチやハグは当たり前だった。
それに家庭内でも互いにスキンシップは多い家族だと思う。戸建てとはいえ、そこまで広い家ではないからリビングに家族7人全員が集まると必然的に距離は近くなる。それを嫌だと感じたことはない。体が他の子供よりも小さかったこともあり、小さい頃はよく誰かの膝の上に乗せられることも多かった。さすがに小学校高学年頃になると嫌がり始めたが。
温和な兄は反抗期になったのを見たことがないし、姉が少し反抗期に近しい時期はあったかもしれないが、多分、他所の家庭に比べれば微々たるもの。至って全員仲が良い。
他人の肌というのはホッとする。知らない人はもちろん論外だが。
誰かが近くにいるのは圭にとっては当たり前であり、幸せなこと。
だから何もされないのであればアレクが傍にいるというのも今の圭にとってはそこまで嫌なことではなかった。
以前の怖いだけの存在であったなら違っていたが、あの祭りの日を契機にして互いの距離が近づいた気がする。
笑顔も増えたと思うし、アレクに話しかけやすくなった。ソファでのくつろぎタイムで情事に至らなかった日には、ベッドでしばらく話をすることもある。圭の世界の御伽話を話したり、アレクがこの世界の伝説などを話してくれたりすることもある。そのほとんどがまるでファンタジー小説のような展開ばかりで、続きが気になって眠れなくなるなる。ランランと目を輝かせて先を促せば、続きは明日だと言われ肌を合わせることになる。
結局、行きつくところは睦み合いになるのだが。
「……お前という奴は、また他のことを考えているだろう」
唇の隙間を縫い、顔を顰めたアレクが不機嫌な声で責めてくる。熱を持った唇が圭の首筋へと移動し、耳の裏付近を舐め上げた。
「あっ」
ゾクゾクと快楽に塗れた期待が背中を駆け上がる。ビクリと放ったばかりの性器が反応を示した。
チリリと首筋に痛みが走る。きっと、また淫らな紅い華が咲いていることだろう。
圭の体中には至る所にキスマークが施されている。見当たらない場所などないのではないかと思う程に。
アレクサンダー・フォン・トイテンヴェルグという人物は圭の知る人間の中で最も独占欲の強い男であると思う。自分の物にはきちんと証拠を残さねば気が済まない。
別に愛などの類ではないと思っている。ただの所有印。名前を書くのと同じような感覚なのだろう。
そこまで考えてチリリと心が痛んだ。
なぜかは分からない。でも痛くて堪らなかったから、その逞しい背中に爪を立てた。些細なお返しだ。
「何だ、どうした」
そんな圭の様子に気づいたのか、圭の体にいくつもの華を咲かせていたアレクがニマニマしながら問うてくる。
何だか揶揄われているようでカチンときた。
「ずるい」
「何がだ」
「なんか、俺ばっかり変な痕つけられてばっかだから」
「変な痕……」
プッと吹き出され、その反応にすらムスリと頬を膨らませた。
「ケイも俺に付けたいのか?」
「付けても良いの?」
「好きにすれば良い」
グイッと夜着の首元を広く開かれ、首筋から肩が露わになる。おそるおそる首筋にチュッと吸い付いてみた。唇を離してみたが、そこには何も残っていない。
「あれ? 全然つかない」
「下手くそ」
楽しそうに笑われ悔しさが増す。もう一度同じ位置に唇を押し当て、今度はヂュウゥと音がするまで吸ってみた。息が続かなくなって離す。
今度こそは大丈夫だろうと見てみるが、そこは薄っすらと赤くなっているだけ。思ったような華が咲いていない。
「あれぇ?」
ハハハと大口を開けて笑われ、プチンと圭の中で何かの糸が切れた。ガブリと噛みつく。
「いっ……」
それまで余裕をかましていたアレクの口から軽い悲鳴のような声が漏れる。そして、圭の頭を無理やり引き剥がした。
「おらぁ! ついたぞ、痕ぉ!!」
圭が嚙みついた場所にはクッキリと楕円形の歯形が残っていた。
想定していた物とは大きく異なるが「痕を残す」という観点からすれば同じである。
してやったりと満足していたが、青筋の浮いたアレクの顔を見て圭は顔色を一転させる。
「一国の皇帝を傷物にしてくれるとは、良い度胸だな」
「え、いや、あの、えっと……俺、そんなつもりはなくって……」
じりじりとアレクの膝の上で後ずさる。しかしガッチリと支えられた腰が逃げ場を奪った。
「皇族への不敬は死をもって償う。よもや傷をつけたとなれば、一族郎党、全員死罪が相当だ。その中でも皇帝陛下であるこの俺に傷をつけたのだから、どうなっても文句は言えまい?」
「で、でもでも、アレクが痕付けて良いって……」
「俺が許可をしたのはキスマークであって、歯形ではないはずだが?」
「ひぇっ!」
ガッチリと両肩を掴まれ萎縮した。アレクの目が据わっている。ブルブルと体が震え出した。
これは、大変なことをしてしまった。ここ最近、優しいことが多かったし、敬語を使わずとも何も言われなかった。距離が近づいて気安い気持ちで接していたが、そう言えばこの人物は泣く子も黙る暴君サマだった。
「あの、いっぱいご奉仕させて、いただきますので……」
「ほう? ケイに何ができる?」
「えっと、えーっと……」
逆に問われて口ごもる。言ってはみたものの、そんな手練手管習得していない。口淫だって未だディープスロートをすればえずいてしまうし、騎乗位だって途中で腰が疲れて止まってしまう。それ以外に奉仕らしい奉仕なんて考えつかない。ここ最近はユルゲンからの性的な教育も受けていない。つまり引き出しの中身は空っぽ。蓄積ゼロだ。
「あ、あの、あの……」
「何だ。言い訳か? 命乞いか?」
ズイッと上半身を近づけられる。ベロリと頬を舐め上げられ、肉食獣に襲われる前の草食動物の気分だった。
「せめて、痛くないように……殺すなら優しく殺してください」
どうせ死ぬなら意識がない時が良い。知らぬ間にポックリ逝くなら怖くない。そこまでの慈悲は彼にあるだろうか。
アレクの膝の上でガクガクと震えながら懇願するように上目遣いで相手を見上げた。触れているアレクの下腹が大きくなった気がする。人を殺すことで興奮する類の反応だろうか。
「そうだな。腹上死というのも悪くないだろう?」
圭の後頭部にアレクの大きな掌が差し込まれた。頭の形を確認するように髪を撫でながらもう一方の手で服を脱がされる。
「イき地獄っていうのを味わうのはどうだ? イってもイっても終わらない。むしろ殺してくれと願うくらいの絶頂地獄は」
物騒なことを言う割に、髪を梳く手が優しくて戸惑ってしまう。
ブルブルと小さく首を横に振った。そんなことされたら気が狂ってしまいそうだ。そうでなくても普段から精魂尽き果てるまで嬲られている。それ以上のことをされたら本当に死んでしまう。
「ごめん……ごめんなさい。アレク、本当にごめんなさい」
首へと手を回し、ギュッと抱き締めた。上半身を擦り合わせる。胸の尖りがアレクの服に擦れてキュンと甘い疼きが走った。
「痛かったよね。ごめんね。本当にごめん」
ペロペロと噛みついてしまった場所を舐めた。クッキリと残った歯形が痛々しい。
どうしてこんな事をしてしまったのだろう。負けず嫌いな性格がたまに嫌になる。
チュッと歯形にキスをした。一つ、二つ。周囲にも幾つもキスの雨を降らせる。首筋を昇り、耳の裏に至るまで。唇が触れていない場所がない程に何度も口づけた。
そして、アレクの唇へと辿り着く。舌を挿し込み、深く相手の口内をまさぐった。
アレクはいつものように絡めてはこない。だから圭自らが積極的に迎えに行く。
相手の舌を吸い上げ、舌の表面や裏側を尖らせた舌の先で辿ってゆく。ピチャピチャと鳴る水音が普段なら恥ずかしいが、今日ばかりはそんなことを気にしている場合ではない。
「んっ、はぁ、アレク……あれくぅ……」
口づけの合間で強請るように名を呼んだ。腰がカクカクと蠢いてしまう。まるで盛りのついた犬のようだ。未だ服を着たままの彼の下腹に擦り付ける。気持ちが良くて後孔の奥がキュウと締まった。
左腕を首に回したまま、右手でアレクの左手とやんわりと握る。その手を圭は自らの後孔へと導いた。彼の人差し指と自分の人差し指を重ね合わせ、蕾の中へと挿入する。
「んうっ」
ツプリと音をさせて入った二本の指。ぬかるむ肉筒が侵入者を悦び締め付ける。
「ああっ、ぁっ」
意思を持たないアレクの指と共に入口付近で出し入れさせた。
気持ちが良い。
でも、足りない。全然足りない。
求めているのはこの程度の刺激じゃない。もっと奥を穿つ、無慈悲で強靭な肉の塊。
「あれくぅ、奥、ほし、よぉ……」
ハァハァと息を荒げながら体をくねらせた。性に慣らされた体が物足りないと騒ぎ立てる。たったひと月ちょっと前までは何も知らなかったというのに。今や、下腹で擦り付ける巨大な陰茎がなければ満足できない淫らな体になり果ててしまった。
「ね、入れて? おっきな凶悪おちんぽで奥いっぱいズコズコして、中、濃いのいっぱいビュービューしてほしい」
「このスケベ雄まんこは、待てもできないのか?」
「でき、ないよぉ……。俺の体、えっちにした責任、取って?」
首に回していた手でアレクの頬を撫でる。そのまま再び口づけた。
カクカクと動いてしまう腰が止められない。
でも、その先にあるアレクのイチモツも滾っているのを感じて更に欲が増してしまう。
「お願い、スケベ雄まんこで極太ちんぽ、いっぱいちゅぽちゅぽさせて?」
「……この、色狂いが!」
指を早急に引き抜かれ、孔が切なく開閉を繰り返す。
アレクは圭の体をソファへと押し倒すと、下肢を寛げる。一気に奥まで勃ち上がった男根を挿入した。
「ひぁああああっ!!」
待望の肉棒に全身が歓喜する。当たり前のように抜かれる結腸。それも圭の大好物だった。
「あああああっ! や、はげ、し……!」
「これが良いんだろう! この好き者の体は、こうしなければ満足なんて到底しないだろうが!」
「うん、しゅきっ! これじゃなきゃらめ、なのぉぉっ!!」
ズボズボと容赦なく抉られる悦楽に夢中になった。ハッハッと短く息をしながら腹の奥を殴られるような快感に陶酔する。
「このちんぽ狂いのメス孔が! 皇帝の名において成敗してくれるわ」
「うん、して! いっぱい、お仕置き、してぇ!」
ドチュドチュと激しく鳴る後孔。キュウと締め付ければ、深く抉るように奥を穿たれる。
この強い雄に敗北させられる感覚が堪らない。この男だけのメスにされて、男としてのちっぽけな矜持などかなぐり捨ててアナルで媚びる。
「しゅき、これ、らい、しゅきぃ!」
「この、凶悪メス孔めが」
「ひぃんっ!」
胸の尖りをつねられ、そこからも快楽が生まれる。腹の奥と上半身、二か所から生じる抗いがたい気持ち良さ。射精を求めて精巣が喚き出す。
「イきたい! イきたいよぉ!」
「もう少し辛抱しろ!」
「くっ、ぅあッ……あああっ……」
性器を握られ、吐き出し口を失う。グルグルと吐精を求めて暴れる精液たち。あまりにツラくて堰き止める手へと爪を立てる。
「ああっ! くる、し……よぉ……出さ、せてぇ……ッ!」
「イくなら、共にイけ」
「んんっ、んんーッ」
コクコクと何度も頷き、性器を握るアレクの手をギュッと上から抑える。堰き止められていなければすぐにでも吐き出してしまう。この手だけが射精を防ぐ最後の関門だった。
「あッ……ああっ、あっ」
吐精したくて堪らない。頭を振って意識を誤魔化そうと努力する。それでも全く欲に勝てず、腰から上をくねらせた。カウパー液がダラダラと零れアレクの手を汚している。早くイってくれと願いを込め、キュンキュンと中を締め付けた。奥を穿つ男根が太さを増す。
アレクの腰のストロークが大きく大胆になった。このモーションを圭の体はよく知っている。期待に奥が疼く。
「ああああっ!」
ドンと音がするほど激しい一激。S状結腸の奥を殴られたような衝撃と共に、熱い飛沫が襲い掛かる。
「ああっ……あっ……」
圭の体も痙攣し、白濁を放った。
凶悪すぎる程の悦楽。頭の中が真っ白になる。白目を剥いてヒクヒクとしばらく体を震わせていると、フワリと体が浮いた。咄嗟に体を支えようと、アレクの首に回していた手になけなしの力を込める。
「んっ、んんっ」
アレクが歩を進めるたび、未だ力を漲らせている男根が奥を穿つ。その度にイったばかりの敏感な体は僅かに精を吐き出し、その快感にすら頭が馬鹿になりそうになる。
アレクは鏡台の引き出しの中から何かを取り出すと、再びソファへと腰を下ろした。
「これ、何だか分かるか?」
圭の目の前にジュエリーボックスに入った一組のアクセサリーが見せられる。
「ぴあ、す……?」
金色に輝く小さなリングの先には、エメラルドグリーンの石が付いていた。アレクの瞳と同じ色の宝石だ。
「きれい……」
うっとりとその輝きに魅入る。
圭の実家でピアスを付けているのは姉だけだ。穴は両耳合わせて2つしか空いておらず、そんなにあっても付けられないというのに姉のジュエリーボックスの中にはこれでもかと言うほど大量のピアスが入っていた。
一度、姉になぜそんなに持っているのにまだ買うのかと尋ねたことがある。すると「服や気分に合わせて女は着飾るものなのよ! あんたみたいに元が良い奴には分からないでしょうがね」と言われ、なぜかコメカミに拳骨でグリグリ攻撃を喰らった。
たまに姉はこうした理不尽な攻撃をしてくることがある。しかし、その都度、コンビニにアイスを買いに連れて行ってくれたりするため、その時感じた理不尽さなどすぐに水に流して忘れてしまうのだが。
確かに父親似の姉と母親似の圭では顔の造りの系統は全く異なるが、姉は美人の類であると思う。出かける時にはメイクも服装もバッチリこなし、犬の散歩や少しコンビニに行くのでさえ必ず着飾ってからでないと外に出ない。その努力は男の圭には絶対できないし、普段のスキンケアなども何本化粧品を使っているのかと驚くくらい念入りだ。冬でも水でバシャバシャ洗って終わりにしてしまう圭とは真逆である。
ダイエットにも気を遣っており、甘い物を控えたり食事を少な目にしたりと不断の努力がにじみ出ている体形はスラリとしていてカッコいい。一種、憧れの類ですらある。
たまに「失恋した」と喚いては暴飲暴食を繰り返しているが。
実家を思い出し、キュウと胸が切なく鳴った。家族は皆、元気にしているだろうか。突然圭がいなくなり心配してはいないだろうか。
もしも圭自身が逆の立場で、家族の誰かが急に行方不明になってしまったら不安で夜も眠れなくなってしまうことだろう。祖父母が寝込んでしまわないかも気がかりになってきた。
「どうした」
フルフルと首を横に振る。この人に言っても仕方がない。どうにもならないことなのだから。
どうにも胸の切なさが止まらず、キュッと目の前の体躯を強く抱き締めた。腹に散った圭の白濁が付いてしまうとかそんな心配も頭からすっかり抜け落ちていた。
「何かあったか?」
耳元で優しく囁かれる。鼓膜へと響く落ち着いた低温が心地良い。大きな胸板にすり寄り、深く息を吸い込んだ。爽やかな石鹸の香りと僅かに感じる汗の匂い。その二つがアレクの体臭と混じり、圭の中へと入り込んでくる。
温かい体温と混じり合い、その香りは圭を癒してくれた。
「家族のことを……思い出してた……から……」
ウルリと瞳が熱くなる。この世界に来てから、本当に涙もろくなった気がする。
でも、それを咎める者はどこにもいない。頬を零れ落ちるのが嫌で、アレクの夜着へと顔を押し付けた。
また不敬だと怒られるかもしれない。
でも、どうだって良い気がした。
多分アレクは怒らない。なぜかそんな気がしたから。
その予想通り、目の前の男性は引き剥がすこともなく、圭の好きなようにさせていた。
ぽん、ぽん、とゆっくりと背を叩きながら。
「これは……また、今度にするか」
呟くような声が聞こえる。でも、もう何だか眠くなっている思考では、何をと問うことはできなかった。
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