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第4章:告白編 第2話
「あっ、あっ……あれく、らめ……やめ、へ……」
チュポチュポと下腹から音がする。ブロンドの髪が圭の腹に散っている。
今、我が儘な愚息はアレクの口内へと姿を潜めていた。
アレクの舌が圭の性器を舐めねぶる。吸っては舐め、再び吸って。達しそうになると根本を摘ままれ、射精を止められた。
「も、イ、きたいよぉ……」
ボロボロと涙が溢れる。既に何度射精を阻まれているだろうか。出させてくれないのなら、口淫なんてしないでほしい。既に快感による暴力の域にまで達している。
アレクから口淫をされたことは今まで一度としてなかった。プレイの一環として圭がアレクの性器を舐めることはあっても、アレクが圭を口で気持ち良くさせるようなシチュエーションにはならない。
ついでとばかりに後孔にも指が入れられ、前立腺ばかりを押してくる。前と後ろ、二つの極上の快感の波に揺さぶられていた。
「おねが、も、らひた……らひたい、よぉ!」
力の入らない指でアレクの髪を掴んだ。普段なら不敬かもしれないとできなかったが、そんなことを考えている場合ではない。このままでは出せずに愚息が壊死してしまうかもしれない。
トントンと指先で前立腺を小気味良く潰され、その度に射精欲で頭の中が満ちる。
この人は一体どうすれば射精させてくれるのだろう。それ以前に、一国の皇帝ともあろう立場の者が男子高校生の性器などしゃぶっていて良いのだろうか。
「あっ、あぁっ、も、イ……ああああっ!」
ビクビクと体が震え、射精を伴わずに絶頂する。脳内がスパークし、焼ききれそうだ。
「空イキしたか。ほら、もっとイけ。いくらでもイって良いぞ」
ちゅぱちゅぱと音が激しくなる。舌技が大胆になっている証だ。
「やめ、今、イった! ばっか、だからぁ!!」
絶頂を迎えて敏感な性器を扱かれることほどツラいものはない。止まらない快感。終わらない前立腺への責め。二つの拷問に等しい愛撫に全身をガクガクと震わせる。
「ンぁっ、――っく……ぅ、あ……ん」
脚を閉じたくても大きく開かせられ、圭に自由は与えられていない。
こんなに何度も懇願しているというのにやめてくれないなんて、本当にこの人は圭のことを好きだと言っている自覚はあるのだろうか。
「う……っ……あ、……っぅあっ!」
後孔に入る指が二本に増やされる。強力な刺激となって前立腺へと襲い掛かった。
それまで突くだけだった単調な動きに「挟む」という動作が加わる。それだけでいともたやすく陥落する。
「お、ねが……何でも、しゅる、……からぁ!」
頼むから出させてほしい。これ以上は本当に耐えられない。
その言葉を聞き、性器の根本を締め付けていたアレクの指が離された。
「ああああああーっ!!!」
激しい絶頂に襲われた。やっと出口を得られた精液たちがアレクの口の中へと飲み込まれていく。
ゼェゼェと荒く息を吐いていると、全て飲み終えたアレクが口の端を手の甲で拭っていた。
「のん、だの?」
「当たり前だろう?」
何ら不思議はないといった表情でケロリと答えられ、羞恥で顔を隠す。
「ケイ?」
「普通は、そういうの飲まないの!」
フルフルと首を横に振る。汚液を飲ませてしまったなんて、どんな顔をして相手を見れば良いか分からない。
「ケイ、顔を見せてくれ」
「ヤダヤダヤダヤダ無理無理無理無理!!」
体を丸めて縮こまる。もう恥ずかしくて嫁にも婿にも行けない。
「ケイの顔をちゃんと見ながらしたい」
誠実な声が耳元で囁かれる。それだけで物足りないと結腸の奥が疼いた。
全身が期待している。あの激しく貫かれる快感を。
「ケイ?」
耳を舐めながら囁くように名を呼ばれ、ビクリと体が跳ねた。
この人の言葉はまるで呪文のようだ。言うことを聞かねばならない気がしてくる。
そっと顔を覆っていた両手を外す。甘く、溶けた美丈夫の顔が至近距離にあって驚いた。
「わー! 無理ー!!」
「何が無理だ?」
「イケメン、ずるいー!!」
「ほう? ケイは俺の顔がそんなに好きなのか」
両方の手首を取られ、布団へと万歳する格好で縫い留められた。
10センチもない距離に端正な顔がある。見つめられていると分かっただけで、性器がビクリと跳ねた。
「この顔はケイのためにあると言っても過言ではないぞ?」
「いえ、過言ですー! もう、御戯れはよしてくださいー!!」
ギュッと目を閉じた。もう見ていられない。目の毒だ。
「んっ」
今度は何を思ったのか、唇をキスで塞がれる。ヌルリと挿入り込んで来た舌が絡まり、そこから生まれる快感。
腿を擦り合わせて刺激を逃す。既にカウパー液が溢れ出ている。勃ち上がった性器が腹につくまで育つのはあっという間だった。
「ケイのここは、本当に可愛い」
「あっ」
アレクの勃起した男根がケイの性器を擦る。互いに擦られ、そこからもじんわりとした快感が上って来た。
「俺の3分の1くらいしかないのに、ちゃんと勃起して、えっちな汁まで出して。偉いぞ?」
「やめ、へぇ……」
性器同士を擦られて、自由を奪われた体は抗い様がない。
しかし、確定的な刺激とまではいかず、体の奥がモヤモヤする。
「あれ、く……も、いい、から……」
「何がだ?」
そわそわしながら視線を反らす。分かっているだろうに、どうしてこの人は圭に言わせることにこだわるのだろうか。
「中、欲しい」
「中? どこの中だ?」
圭は下唇を噛んだ。
「意地悪する人は、嫌いだ」
「これは失礼した」
拘束されていた手首を解かれる。やっと自由を得たが、覆い被さる人物はそのままニコニコと笑ったまま何もしてこない。
待っているのだ。焦れて、圭が懇願するのを。
相手の思い通りになるのは少し癪だが、これ以上待たされても体が我慢の限界を超えている。
おもむろに膝の裏へと手を回す。胸元へと引っ張り、腰を浮かせた。
「ここ、欲しい」
ヒクヒクと蠢く括約筋がアレクへと晒されている。
恥ずかしい。でも、それ以上に期待の方が大きかった。
「俺もケイがほしい」
うっとりとした声音で求められる。後孔がキュンとした。巨大な雄が近づいてくる。鈴口と括約筋がキスを交わす。
「んっ」
ゆっくりと先端が挿入り込んで来た。圧倒的な質量。王者の貫禄を持つ男根。ミチミチと音をさせながら、確実に奥へと向けて進んで行く。
「はっ、ぁっ……」
自分の中が拓かれる独特の感覚。これは何にも変わるものがない。相手の肉で埋められ、混じり合う。
愛がなくてもできる行為かもしれない。でも、こんなこと愛がなければ受け入れられない。
(待って? でも、俺、アレクのこと……?)
キョトンとした瞬間、ズンッと最奥まで一気に貫かれた。
「ひあああっ!」
「俺以外のことを、考えるな」
ブンブンと首を横に振った。こんな状況でアレク以外のことを考える余裕などない。むしろセックスの最中にアレクのこと以外を考えたことがない。
「アレク、だけ! アレクだけだから!!」
「くっ、ケイ!!」
ドチュドチュと一気に腰を激しくピストンし始めた。翻弄される結腸からもたらされる刺激で頭が馬鹿になる。
「あああっ、あっああっ!」
抜き差しされる度に中と外を行ったり来たりする括約筋も、剛直が通り抜ける度に潰される前立腺も、全てが気持ち良い。
「あれくぅ! あれ、くぅ!!」
「くっ、可愛すぎるだろうが!」
上半身を抱き締められ、種付けピストンで穿たれていた。唾液塗れの唇同士が互いを求めて混じり合う。グチュグチュと激しい水音が口内からも奏でられる。
ドンッ、ドンッと激しく叩きつけられる性器。既に圭の後孔は白旗を上げていた。目の前の男に完敗だ。
それなのに男は許してくれない。一切の妥協なく、後孔を全力で責め続ける。
「もう、もうイっく…イ、きたい、よぉ……」
「共にイこう、ケイ」
コクコクと何度も頷いた。キュゥンと直腸が収縮する。そんな肉筒をアレクの性器は怒涛の勢いのまま出し入れを繰り返していた。
「はっ、ぁっ、も、ごめ、イ……く……んんんっ!!」
射精の兆しを感じた瞬間、唇を塞がれた。吸われる舌。奥へと叩きつけられる男根。そして浴びる白濁シャワー。
「んっ……んん……」
圭の性器からも白濁が飛び出す。互いの腹を濡らし、ピクピクと力の抜けた性器が横たわる。
「ケイ、愛してる」
チュッチュッと顔中にキスの雨を降らされながら、圭はコクリと一つ頷きを返した。
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「マリアー、俺、分かんなくなっちった」
いつものようにマリアと共に茶を楽しんでいた。今日の茶のお供はティラミスにパンナコッタ、ついでにナタデココもある。どれも今いる世界では食べられないものだから純粋に嬉しい。
『分からない、とは?』
「俺、ずっと、帰りたいって思ってた。でも最近、それがよく分かんなくなっちゃったんだ」
マリアは相槌も打たず、ジッと圭を見つめていた。話を促している気配を悟り、ゆっくりと口を開く。
「俺ね、アレクはすごく怖い人で、俺も粗相をしたらすぐ殺されちゃって、いなくなるんだと思ってた。でも、実際は優しくて、寂しくて、すごく……」
『すごく?』
言葉が紡げない。ここから先の言葉が圭自身の中でも錯綜していた。
『それは、どうしてそう思うようになったんだい?』
「どうしてって……えっと、祭り……の後くらいからかな。なんか、やけに優しくなったなって感じるようになったのは。多分なんだけど、いっぱいアレクと話ができたからだと思う。お互いにいろんな知らなかった一面とかを知って、心が開けた気がするんだ」
『それは良いことじゃないか』
「うん、俺もそれはそう思う。すごく良かった。それから、一緒に毎日飯食うようになって、もっと毎日楽しくなって。でも、アレクが俺に感じてる気持ちと、俺の気持ちって何かちょっとだけ違う気がするんだ」
『違う?』
「うん。アレクは俺に対して〝好き〟って思ってる。多分それは男女の好きとかそういうやつ。でも、俺はアレクに対して同じ〝好き〟を返せない」
『ケイの〝好き〟は、その〝好き〟とは違うのかい?』
コクリと頷いた。手の中の紅茶はすっかり冷めてしまっている。新しい茶を貰おうと思えば貰えるだろうが、自分の頭の中の考えを冷静に保つために、この冷めた紅茶が調度良かった。
「多分だけど、俺の〝好き〟は家族とか友達とかの〝好き〟と同じだと思う。そりゃ、せ、せっくす……とかもしてるけど、それって元々強引に始まったもので、好きとか以前の問題だったし」
『それは男女の〝好き〟に昇格することはないのかい?』
ブンブンと首を横に振った。そんな圭の様子を見てマリアが目を大きく見開く。
「分かんない。だって俺、ちゃんと人を好きになったこと多分ないし。好きとか嫌いとか言われても分かんない。ねえ、それって今すぐ決めなきゃいけない話なの?」
『いいや?』
フルフルとマリアが小さく首を振った。その姿を見て圭は安堵する。
「これって多分、俺にとってもアレクにとっても大切なことだと思うから、ゆっくりじっくり時間かけて考えたい。早く結論出してアレクを傷つけたくないのもあるけど、その前に、これが本当に正解か確かめたいんだ。……なんか、今の俺にとってはこれが正解なんだと思うんだけど、ずっとこれが正解かどうかは……正直、自信ないってゆーか」
モジモジと手の中のカップを弄り回す。
煮え切らないことを言っているのは分かっている。この場に白黒つけたがる姉がいれば「男のくせ情けない」と張り倒されそうだ。
それでも結論を早急に出すべき問題ではないと思っていた。
結論を急ぎ過ぎたがゆえに、何か失敗をしてしまいそうな気がしてならなかった。
鈍感だとよく言われるが、極まれに虫の知らせのようなものが働く時がある。今回はそれに近しいように思う。
『ケイがそう思うなら、それが正解だ。答えは決して一つじゃない。人間の数だけ正解があって、答えがある。そして、それは時と共に移ろいもする。今のケイの着地点がそこでも、明日のケイは違うかもしれない。明後日のケイもまた、全然違う場所にいるかもしれない。そんなものは誰にも分からないものさ。……それこそ、ケイ本人にもな』
優雅な所作でマリアはティーカップの中の茶をすすった。凛と伸びた背筋は彼女の自信の表れのようにも見える。
美しく、カッコいい。芯のある彼女は何か、崇拝に値する気がしてならない。
(あ……。多分これ、アレクにみんなが感じてるやつに似てるのかもしんない)
絶対的な正義。正しく、そして、少しの畏怖。
別にマリアから恐怖を感じることはないのだが、そこはかとなく彼女からは浮世離れした何かを感じるのだ。
夢でしか会えない人物だからだろうか。
「……一回で良いから、本物のマリアに会ってみたいな」
『我にか?』
「うん」
やんわりと笑みながら首肯する。
これは以前からずっと思っていたことだった。
こうして、たまに夢で会うことはできても、それは現実ではない。
でも、ただの夢であるとは思えない。
それくらい目覚めた後には手応えというか、得たものがある気がするのだ。
「ねえ、いつか本当にマリアに会えるかな? どこに行けば良い? 会えるなら俺、会いに行くよ」
『嬉しいことを言ってくれる』
マリアも口角を上げて優美に笑んだ。それだけで雪山の雪が全て溶け、蕾と言う蕾が花開き、動物たちが歓喜に歌い出しそうな気がしてくる。この人の笑顔は本当に破壊力がすごい。
『そうだな……いつか……。ケイが呼んでくれて、誰もが私を求めてくれることがあるなら……』
大切なことをマリアが言おうとしている気がするのに。抗いがたい眠気に襲われる。頭の中が鉛のように重くなり、意識が水面へと溶けていく。独特の堕ち方。
『……………………、…………………。………………』
「ごめ……、まり、あ……よく、聞き取れ……ない、や……」
意識を失う直前に見たのは、少しだけ悲しそうな彼女の顔だった。
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