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第5章:裏切り編 第6話

「今戻った。良い子にしていたか?」  今日も優しい声音で寝室へと入って来る。その声を聞いて、圭はビクリと身を竦ませた。  カタカタと自然と体が小刻みに震えてしまう。寝台へと近づいて来る足音。そして、軋むベッド。  サラリと前髪を掬われる。怯えながらその手の主を見つめた。 「今日は何をして遊ぼうか」  カチャカチャと音を立てながら後ろ手で拘束されている錠を外してくれる。自由を得たが、全く嬉しくない。これから、外されたことを後悔する程のことが待っているのだから。 「昨日から考えていたんだが、ケイの可愛いココを、もっと愛らしくしてやりたいと思ってな」 「……ッ」  ブンブンと首を横に振った。アレクが握り締めているのは、力の抜けて垂れ下がっている圭の性器である。  言葉を発することができれば、いくらでも懇願できるのに。口には穴の開いたボールを噛ませられ、後頭部へと結ばれた紐でしっかりと固定されている。開いた口から呼吸はできても言葉は喋れないという代物だ。  「嘘つきにはもう言葉なんていらないだろう?」と言われ、それから事あるごとに装着させられている。 「ケイのために今日、行商人から買ったんだ。これでここを弄ると泣いて悦ぶそうだ。それを聞いて、どうにも試してみたくなってな」  手にしている細く長い金属の棒。その言葉と握られている場所で使用用途を推測して青褪める。  冷たい棒の先端が圭の鈴口へと当てられる。 「んんんんーーー!!」  ツプリと入り込んで来た異物に背筋が凍る。勢いよく頭を振るが、何の抵抗にもならなかった。 「んんん……」  ズブズブと進む棒に恐怖する。繊細な細い通路を通り抜ける痛みと気持ち良さ。その二つに苛まれながら徐々に姿を消していく棒に怯えていた。 「ほら入った。ケイは怖がりだから入らないと思っただろう?」  よしよしと頭を撫でられる。涙目の瞳を瞬かせながら、彼の一挙手一投足を見守った。  もう、こんな生活を始めてから1週間だ。これで終わるなんて思っていない。  何回も期待を裏切られてきた。これ以上のことはないだろうと思っていても、すぐにその先を超える責め苦に襲われる。  もはや、これは愛撫などではない。ただの拷問だ。  罪を犯した圭への罰。罪人である圭は甘んじて受け、償わなければならない。 「んんんっ!」  トン、トンと棒が押される。その下にある前立腺へと向けて。痛みと快感、2つがない交ぜとなって圭を襲った。 「ああ、気持ち良いな、ケイ。お前の可愛いココが、もう自立を始めてる」  ゼェゼェと肩で息をしながら下腹を見た。確かにアレクに支えられずとも愚息は棒を咥え込んだまま勃ち上がっていた。 「ココだけでも気持ち良いが、こっちからも押してやったらどうなると思う?」  括約筋に触れられ、体がビクリと跳ねた。左足に付けられている鎖がジャラリと鈍い音をたてる。 「んんー! んー!!」 「そんなに楽しみか。そうか。俺もだよ」  ブンブンと首を横に振って拒否を示す。アレクは綺麗に笑って、後孔の中へと指を挿入し始めた。 「んんー!!」 「大丈夫だ、ケイ。俺はケイが気持ち良いことしかしない」  入り込んだ指が目指すのは圭の快楽スポット。しこりへと辿り着くと、グッと中から力任せに押される。 「んーーーーーー!!!!!!」  尿道から挿入された棒と共に押し潰され、ありえない程の快感が全身を駆け抜けた。脚がピンと伸び、ガクガクと震える。  そのまま何度もそこばかりを責められた。涙も涎も鼻水も、顔面から零せる液体全てが穴という穴から零れていた。  シーツを掴む。何かに縋らないと、快感の波に攫われて戻って来られなくなりそうだった。  アレクの責めは時間が経つごとにどんどん過激さを増していく。棒による注挿は小刻みな振動から始まり、今ではズボズボと大胆に抜き差しを繰り返していた。 「気持ち良いだろう? 俺はケイのイイことしかしないから。だから、ケイは安心して善がってだけいれば良い」 「んんん~」  こんな酷い責め方をされているというのに、体すらも圭を裏切り続ける。……いや、最も正直だと言っても良いだろう。弱い部分を弄られて、気持ちが良いと訴えているのだから。  出したい。でも、出す場所は挿れられていて、出られる場所がない。  過ぎる快感は身体に毒だ。それはもう何回も体験させられている。体が言うことを聞かなくなるだけでなく、脳がおかしくなってしまいそうだ。 「出したいか?」  コクコクと力強く何度も首肯した。それこそ壊れたオモチャのように。 「じゃあ、出させてやろう。たくさんイって良いからな」 「んんんんーーーー!!!」  勢い良く棒が引き抜かれた。間髪入れずに直腸内ではアレクの指が前立腺を潰しにかかる。  出口を得た圭の性器がまず初めに噴き出したのは透明な潮だった。一気に噴射された飛沫は圭の腹を汚す。 「出して良いとは言ったが、それが潮だなんてこれじゃあケイはただのメスじゃないか」  ニコニコと微笑みながら頭を撫でられる。既に射精を伴わずに絶頂を果たしている圭は、快感の余韻に震えるばかりであった。 「……たまにはケイの声を聞いてみようか」  この1週間、プレイ中はずっとギャグを噛まされていたというのに、どういう心境の変化だろうか。後頭部で結ばれていた拘束具が緩められ、食事以外では初めて解放される。  やっと直訴のタイミングを掴めそうだ。謝り倒して何とか許しを得たい。  しかし言葉を紡ごうと口を開いた瞬間、昏く、侮蔑混じりの瞳と視線が交わり硬直する。  何も求めていない冷たい目。瞬時に悟った。アレクが欲しているのは、罪人からの詫びなどではないと。 「あ……あの……」  声が震える。沈黙が怖い。……いや、目の前のこの人物が怖い。 「ちんぽ舐めさせて。アレクのおっきなちんぽ、下だけじゃなくて上のお口でも食べたい」  引きつりながら精一杯の笑顔を作り、相手へとしな垂れかかった。白い軍服からはいつものようにアレクの爽やかな香りが漂っている。 「ケイは俺のが本当に好きだな」 「うん。俺、アレクも、アレクのちんぽも大好き。Hなこともいっぱいされたいし、いっぱい気持ち良くなりたい。だから、アレクも俺と一緒にいっぱいイこう?」 「やっぱりケイの声は良いな。ずっとうめき声ばかりだったから新鮮だ」  逞しい腕に抱き締められる。圭の心臓はドキドキと早鐘を打ち続けていた。  今度は間違っていないだろうか。自分の全ての行動が心配で仕方がない。 「ギャグを外せば、つまらないことを言われるんじゃないかと思って心配していたが、今のケイはきちんとお利巧なケイみたいだ」  アレクの腕の中でビクリと体が跳ねた。まるで見透かされていたようで動揺する。自分の判断が今度こそは正しかったのだと肯定されたのに安堵した。 「うん、俺、良い子だよ? 昼間もずっとアレクのことだけ考えてちんぽ勃たせてるし、おっきなちんぽないと、寂しくて寝れないただの変態だもん」 「ケイ、可愛い俺のケイ……」  ギュウゥとアレクの腕の力が強まった。抱き込まれたまま背中へと手を回す。  間違っていない。これは正解。大丈夫、大丈夫……。  顔を上へと向け、キスをねだる。すぐに熱い口づけが降ってきた。積極的に舌を絡ませ、歓待をアピールする。 「んっ」  圭を抱き締めていた腕が一本、臀部へと回る。指2本で蕾をクポクポと入口付近で注挿される。もっと奥へ来て良いよと、直腸を蠢かして誘う。 「アレク、もっと奥、来て」  キスの合間に淫らに強請る。腰を振り、淫靡に見えるよう努めながら。 「ケイのココは欲張りさんだな」 「あっ、ああっ……」  指が3本に増やされた。圧迫感が増して少しだけ苦しくなるが、この程度ならどうということはない。本当に性に慣れた体になったものだ。 「んぐっ!?」  括約筋が更に拓かれる。これは、3本なんていう生易しさではない。 「アレク!?」 「ケイの中は温かいな」  陶酔したように呟きながら、アレクは更に奥へ奥へと手を進めてくる。 「あ、アレク! ねぇ!!」  5本目の指の感触を括約筋で感じて顔面が蒼白になった。昏く穏やかに笑うだけのアレクは、圭の顔にキスを降らせるばかり。 「ん、が、ああっあっ」  強引に挿入り込んでくる5本目の侵入者。括約筋が大きく開かれる。ミチミチと体の中から音がしてきそうだ。 「お、おねが……」 「ケイ……ケイ……」  体内へと進んでくる指たち。飲み込む括約筋。最も太い部分が通過すると、一度括約筋は落ち着いた。 「ぁ…………はっ………………」  ガクガクと全身が震えていた。脂汗が酷い。体が限界を訴えている。  体の中に感じる他者の肉体。まっすぐではなく、ところどころ凸凹しているのは、指の造りのせいだろう。 「ケイの中は、こんな感じなんだな。温かくて、キツくて、自分から俺に絡みついてくる……。ケイの体はこんなに素直で可愛いのに、なぁ」 「ひうっ! あぎゃ、あぁっ、あっ!」  中で拳を作られ、ゴツゴツと結腸を殴られる。痺れるような刺激に身悶えた。 「ここに俺の腕が入っているのがよく分かるな」 「うあぁっ、あっあああっ!!」  腹の中からヘソへと向けて拳をグリグリと回される。圭の薄い腹がわずかに中から押されて膨らんでいた。存在を主張する腕に恐怖すら感じる。 「触ってみろ。ケイのココが俺をここまで咥え込んで悦んでるのを」  手を引かれ後孔へと引き寄せられる。涎を垂らしながらアレクの逞しい腕を咥え込み、括約筋をこれでもかとばかりに大きく拡げていた。 「ほら、気持ち良いだろう?」 「あぎゃっ! あっ、ああっ!! ん、ぁっは、……ッ!!」  腕が注挿を繰り返し、結腸を殴り続ける。気持ち良いというより、もはや拷問の類でしかなかった。  それでも、そんなことを言える立場にはない。 「ひ、もひいぃ! ひもひいいよぉ、あえくぅ……」  引きつり笑いを浮かべながらも必死にアレクの首へと腕を回して抱き付いた。  本当は怖い。こんなことを平気でしてくる人になんて抱き付きたくはない。  それでも、今はアレクに絶対的な信頼と恋心を寄せているという演技が必要だった。  これ以上、酷いことをされないために。 「ケイはココともっと奥、どちらが好きだ?」 「おくぅ! 俺、奥すきぃ!!」 「そうか、じゃあ、もっと深い場所まで入れてやらねばな」 「んごぉ、ふっ」  グポッと音がして結腸がひしゃげるのが分かった。結腸の先、他者が入り込んではいけない場所にアレクの腕がある。 「ケイは本当にココが好きだよな」 「ん、うぉっ、ぉっ、んぉっ!」  結腸を拳が何度も行き来した。獣のような声が漏れる。 「俺もケイのココが好きだ。俺の亀頭をしゃぶって吸い付いてきてくれる。好きだと言われているみたいで興奮する」  拳でS状結腸の奥をグリグリと押された。内臓がせり上がる。他の臓器が圧迫されて息苦しく感じた。 「ケイは?」  よしよしと頭を撫でられ熱い息を吐いた。  こんなひどいことをされているというのに。それでも今この場に縋れるのは目の前の人しかいない。  頭を撫でていた手を両手でとり、口元へと持っていった。 「すき……」  ハァと息を吐きかけながら、アレクの手の甲や指、手首などにチュッチュッと軽い音をさせてキスを繰り返した。  アレクの喉がゴクリと大きく鳴った。 「んああああっ!」  勢い良く後孔に穿たれていた腕が引き抜かれる。ベッドに仰向けに倒され、足首を取られて引かれた。両脚でV字を描くように拡げられ、体の中心部がアレクへと晒される。 「この魔性が! そうやって俺を翻弄して楽しんでいるのか!?」 「ああああっ!」  ズブリといきり立った剛直が後孔内へと挿入り込んできた。腕で広げられていたため苦痛はない。むしろ入るべき物がやって来た安堵感すらあった。 「ひぁぁぁあっ!!」  今度は腰を持たれ、力任せに注挿される。穿たれ慣れた切っ先がS状結腸の奥を何度も突いた。  暴力的とも言える自分本位の抜き差し。  それなのに、その責め苦ですら腕よりかはマシだと思えてしまうのだから、考え方が末期染みている。 「ああっ、あっ! ん、はぁっ、ああっ!!」  直腸が嬉しいと歓喜の悲鳴をあげていた。中を占領する屹立へと積極的に絡みつく。襞の抱擁をもろともせず、アレクの肉棒は激しさを増しながら奥ばかりを狙って叩き込んできた。 「はっ、ぁっ、んんっ、あぁっ!」  体がバラバラになってしまいそうな程の力強さに翻弄される。怖くてアレクへと両手を伸ばした。それに応えるようにアレクの上半身が圭へと近づく。  首へと手を回し、ギュッと抱き込んだ。その間もアレクの抜き差しは続いている。  少し汗で湿った肌。美しく筋肉のついた背中。逞しく、そして今は少し怖い。  しかし、その恐怖を凌駕する程の安堵があった。  抱かれている時はその強さに壊されてしまいそうで、その恐れを払拭するために相手へと縋り付いた。 「くっ」  アレク自身も圭の体を強く抱きすくめる。最奥に飛沫が弾けた。ドクドクと柔肉に掛けられる熱い粘液。マーキングだとでもいうように何度も小さく奥を突き、精液をS状結腸へと塗り込められる。  アレクの絶頂と同時に圭も綺麗に割れたアレクの腹筋へと精を吐き出していた。吐精によって疲弊した体は休息を求めて意識を揺蕩わせる。  いつも酷い責め苦で圭を限界まで追い込めてくるが、今日も酷かった。  きっと明日も今日のように激しく追い詰められるのだろう。  いや、もしかしたら明日は今日よりもっと過酷かもしれない。いつだってアレクはこれ以上ないだろうという圭の予想を軽々と超えてくる。 「ケイ……」  吐精が終わってもアレクは圭の体を離さなかった。耳元で名を呼ぶ声が苦しそうに聞こえてくるのは気のせいだろうか。  ウトウトと意識を深淵へと持っていかれる。  ああ、温かい。人肌の温もりは安心感を与えてくれる。  こんな関係になってしまう前に戻ったような安らぎは心地良く圭の中に浸透してくる。  どうしてこの人を裏切ってしまったんだろう。あんな事さえなければ今でもアレクとの関係性は良好で、共に笑いあえていたかもしれないというのに。  後悔の涙が一筋零れ落ちた。既に意識が闇の中に堕ちた圭には拭うことすらできなかった。  だから、その雫を温かい唇が吸っていたことにも気づけなかった。

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