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第6章:別れ編 第7話

 それから1週間、圭は淳一の望むように振る舞うようできる限りの努力はした。ラインもなるべく返信を返したし、電話がかかってくればきちんと相手をする。  夜、いつもは寝る時間になっても切ってもらえず、少し寝不足気味の日が続いていた。  そうでなくともアレクの夢を見て苦しさから心身共に疲弊していたというのに、それに加えて淳一の相手をするのは正直骨が折れた。  家族からも心配する声が上がる。自室が隣の姉は圭が夜遅くまで電話していることを良く思っておらず、苦言を呈してきたが言い訳らしい言い訳も返せなかった。  秘密を知られたくない。友人だけでなく家族にも。変な趣味があるなんて思われたくなかった。  淳一から催促され、週末の逢瀬を半ば無理やり取り付けられた。本当は家でゆっくりしたかったが仕方ない。圭に決定権なんてないに等しいのだから。  駅前の新しい高層マンションに淳一の暮らしている部屋はある。最上階に一人で住んでいるらしい。確かに先週連れて来られた時、部屋の中に家族が住んでいるような痕跡はなかった。  部屋番号を押してロックを開錠してもらう。行先は最上階のフロア。静かな音と浮遊感をさせてエレベーターが上がって行く。 「いらっしゃい、圭ちゃん」  扉を開いてくれた淳一は人好きするような笑みを湛えていた。こうやって見ればただの好青年に見えるのに。  しかし、彼が自分勝手で恐ろしい人間であるということを1週間前の外出で圭は十分すぎる程に知ってしまっていた。 「じゃあ、今日はコレ着ようか」  部屋に入るなり手渡されたのは、紺色のチェック柄のワンピースだった。何かで見たことある気がしながら別室で袖を通す。 「あー、やっぱり似合ってるな~!」  部屋へ戻るなり上から下まで舐め回すように見られて居心地が悪い。リビングの巨大なテレビの前に座った淳一の膝の上へと腰を下ろす。「分かってるよね?」と言いたげな顔で淳一が自分の膝を叩きながら圭へと両腕を伸ばしていた。その場所以外、選択肢がないことに気づいた。  圭が着替えている間に用意されていたのであろうテーブルの上の茶と菓子。しかし全くと言って良いほど手を付けたいという気が起きなかった。むしろ食欲が湧かない。ここ最近、胃がジクジクと痛むことが多く、普段の食事の量も減っていた。睡眠不足に加えて育ちざかりの末っ子があまり食べないことも家族を心配させていた。  分かってはいても胃が受け付けない。気遣ってくれる家族に申し訳ない気持ちになり、そのことも自分自身を責める一つの要因になっていた。 「今日はお出かけしないで、ゆっくりライブでも見ようか」  背後からチュッチュッと後頭部や首筋に唇を押し付けられる。まだ顔でないだけマシかと思い、好きにさせていた。 「あっ……」  淳一が流し始めたのは某有名アイドルグループのライブ映像だった。圭が着ている服と全く同じものを身に着け、歌っている。 「この中に圭ちゃんいても全然違和感ないよね。圭ちゃん可愛いし」  背後から淳一の指の関節で頬を擦られる。こそばゆくて嫌だったが何も言わなかった。 「ねぇ、圭ちゃんも歌ってみてよ」  今度はスカートの裾を足の付け根近くまでたくし上げてきた。太腿を撫でられゾッとする。  巨大なテレビの中で流れている曲は彼女たちのリリースした中でも人気の楽曲だった。日本人なら知らない人はいないのではないかというくらい有名で、アイドルには疎い圭ですら音楽番組などで見てそれなりには知っている。  うろ覚えながら曲に合わせて歌ってみた。背後から抱き締めてくる男の腕の力が強まる。 「うぅ~ん、絶妙に下手~! でも、そこも可愛い! お歌はもっと練習しようね~」  頬同士ですりすりと擦られ、淳一から見えないことを良いことに半眼で虚空を眺めた。  歌えというから頑張って歌ったというのに。別に歌が上手くないことくらい自分でも知っている。本当なら文句の一つも言ってやりたかったが、喉の奥に抑え込んで我慢した。 「じゃあ~、お歌はちょっとイマイチだったから、今度は踊って見せてよ」  画面を指さされながらリクエストされ、口角がヒクついた。  ライブ映像は次の曲へと変わっていた。グループの曲の中でもそれなりにハードな動きのあるもので、結構難しい。  無理やり立たされ、見よう見まねで踊ってみた。自分でもぎこちないのは分かっている。それでも初めてなりに一生懸命振り付けを真似た。  そんな圭を見ながら淳一はその場で悶絶していた。 「くぅ~、伸びしろの塊~!! 微妙にリズムに合ってないのも可愛いし、間違えたとこを誤魔化して笑うのも超萌える~!!」  ゴロゴロとその場で転がる様を見て、本当に残念なイケメンだと引き攣り笑う。  どちらも軽く馬鹿にされているようで気分は悪かったが、グッと堪えた。ここで文句を言っても碌なことにはならない。  そんな時、部屋のインターフォンが鳴った。淳一はすぐに応対し鍵を開ける。2人の見知らぬ男性が部屋へと入って来て硬直した。 「おや? 淳一殿、もう鑑賞会始めてるでござるか?」 「そりゃやるよ。圭ちゃん来てるし」 「ほほ~ぉ! これが淳一殿の新しい彼女殿か~」 「確かに、でらカワユス!」  2人から見下ろされ萎縮する。男たちは淳一の友人というには少し毛色が変わっていた。秋葉原にいそうなヨレヨレのTシャツや、裾をGパンの中に入れたチェックのシャツなど、どう見てもオタクですと言わんばかりのいでたち。圭の周囲にはあまりいないタイプの人種だったため、どう接して良いか分からなかった。 「こらこら、圭ちゃん怖がっちゃうでしょ? この子、基本的にウブだから。あんまり怖がらせないでよ」 「この顔でウブ! そそられますな~!」 「圭殿、拙者たち、ピザ買ってきましたからな~。一緒に神楽坂の映像見ながら食べましょう~」  テーブルの上に2人組の買ってきたピザの箱が並ぶ。淳一が冷蔵庫から缶ビールを3本持って来た。 「はい、じゃあ圭ちゃんお酌係ね」  プルタブを開けた缶を手渡される。隣に座ったチェックシャツの男性のグラスに注いでみたが、思ったよりも泡が溢れて零してしまった。 「わっ、すいません!」  ティッシュを数枚手にして男性のズボンについてしまった染みを叩く。 「ごめんね~、この子、顔は可愛いけど基本的にそれ以外は全然ダメだからさ~。許してあげて」  男性のGパンを拭っていた圭の体を引き寄せ、淳一が自分の胸の中へと抱きすくめた。ぬいぐるみのように抱えられて不快極まりなかったが、淳一の友人たちの手前、そんな表情を出すこともできない。眉間に皺を寄せながらも何とか口角を持ち上げた。 「でも、そんなとこも超可愛いからさ~」  すりすりと頬擦りをされる。全身に鳥肌が立つ。 「しかし、淳一殿は確か許嫁がいたはずでは……」 「おい、こら! しっ!」  ヨレヨレのTシャツ男が不思議そうに小首を傾げるのを、チェックシャツの男が口元に人差し指を立ててそれ以上の言葉を止める。  そんなことは初耳だったため、背後から抱き留めている淳一を振り返った。 「まあ、いるっちゃいるけど、あんなん親が勝手に決めた奴だからさ~。お互いにどっちも全然好きでも何でもねーし」 「御曹司殿は大変でござるなぁ」  ハハハと場が湧いた。  正直、圭としては淳一に許嫁がいることの方が大歓迎である。圭とのことこそお遊びで、さっさと飽きて手放してもらいたい。 「ごめんね、圭ちゃん。内緒にしてて。でも、俺が一番好きなのは圭ちゃんだからね?」  耳元で囁くように言われてゾクゾクと背筋が凍る。ギュッと抱き締めてくる腕の力が強くなった。淳一の執着のようなものを感じて怖くなる。 「大丈夫です、全然気にしてませんから」 「えー? それはそれでムカつくなぁ」  淳一の目が据わる。一週間前の平手打ちを思い出し、圭の顔面から血の気が引いた。 「ごめんなさい。嘘です。本当はやっぱり気になります」 「ほんとに~?」  コクコクと何度も首肯した。友人たちの手前、彼女と紹介した圭に対してあからさまな暴力を振るってくることなどないとは思いたい。しかし、初めて新宿で会った時から比べてどんどん扱いが乱暴になってきているような気がする。気の抜けない状態が続いていた。 「じゃあさ、俺のこと好き?」  必死の形相で再び首肯を繰り返した。圭の態度に淳一は満足したようだった。圭の体を反転させて互いに向かい合う格好にさせると、チュッチュッと顔中にキスをしてくる。 「おおっ! 見せつけてくれますなぁ!」 「ヒューヒューですぞぉ!」  淳一の友人たちが囃し立ててくる。人に見られている中で過度のスキンシップをしてくる淳一に引きながらもなすが儘にされていた。 「俺のこと好きなら何でも言うこと聞いてくれるよね?」  躊躇いながらも一つ頷いた。淳一は綺麗な顔で笑んだ。圭を膝から下ろすと壁際に備え付けられていた棚の引き出しから小さな紙袋を取り出した。 「はい、これ」 「何ですか?」 「見れば分かるから」  紙袋に封などはされていない。不思議に思いながら口を開いて中を覗く。そして瞬時に紙袋の口を閉じた。 「俺としてはここで着替えてくれた方が嬉しいけど」 「寝室! お借りします!!」  リビングを出て寝室へと駆け込んだ。乱雑に扉を閉め、背中を凭れる。脚の力が抜けてズルズルとその場にへたり込んだ。  手の中の紙袋を見て、嫌悪で顔が歪んだ。ゴミ箱に捨ててしまいたい思いに駆られる。しかし、そんなことをしようものなら確実に淳一の機嫌を損ねてしまう。次にどんなことをされるのか恐ろしい。  諦めて紙袋の口を開き、中に入っていたものを取り出した。布地の面積が明らかに小さすぎる白い紐パンとローター、それにアナル用のローション。3つを手にして溜め息を吐く。  あの場で無理やり着替えさせられなかっただけでも良しとしよう。そう思わないとやっていられなかった。  履きたくない気持ちでいっぱいだったが、許されないことも分かっている。仕方なく身に着けていた灰色のボクサーパンツを脱いだ。ピンク色のローターを摘まんで顔を顰める。悪趣味極まりない。こんな物を入れさせて友人たちの元へ来いと言っているのだから。 「んっ」  後孔へとローターの先端を押し当てた。アレクの大きすぎる剛直や、その巨根サイズのバイブで慣れている蕾は容易くオモチャを飲み込んだ。そして、用意されていた紐パンを着用する。  布地の面積は小さいものの、性器自体は何とか隠れた。しかし、臀部はほとんど丸見え状態だった。ほぼ紐一本と言って良い。Tバックと呼ばれるものだ。何も身に着けていないかのように尻がスースーして心もとない。 (悪趣味にも程があんだろ……)  スカートの裾をたくし上げてウンザリする。後孔の中の異物が気になるが、普段入れている物よりも小さいため、入れているだけなら何とか平静を装えそうだ。  戻りたくなんかない。しかし戻らねば迎えに来られるだろう。憂鬱な気持ちを抱えながらリビングへと戻る。  淳一たちは3人で映像を見ながら盛り上がっていた。2人のオタクたちは推しの名前が書かれたマフラータオルを首に下げ、サイリウムを振っている。テレビなどで見たオタクならではの光景に辟易する。 「圭ちゃん、ちゃんとできた?」  コクリと頷いた。淳一の傍へ歩み寄ろうとした瞬間、後孔の中に入っていたオモチャが震え出した。 「……ッ!!」  右手で口元を押さえて咄嗟に声を押し殺す。しかし、ガクガクと震える脚では立っていられず、その場に座り込んだ。その間中もずっと直腸内のオモチャは低い音をさせながら振動を続けている。 「あれ~? 圭ちゃん、どうしたの?」  楽しそうに淳一が座り込む圭の傍へと歩いてきた。見下ろす顔に浮かぶ意地悪い微笑み。キッと上を向いて睨みつけると、淳一の手の中のピンク色のリモコンのボタンを押される。 「くっ……う……ッ!!」  振動が強くなった。前立腺を叩くように刺激される。両手で口元を押さえる。塞いでおかないと、あられもない声を上げてしまいそうだ。 「ほら、こんな所に座ってちゃダメだよ」  膝裏と背に腕を回され、持ち上げられた。お姫様抱っこなんて嫌だったが、中の刺激を我慢するのに必死で動けない圭に拒否権などはない。 「おおっ! そういう格好をすると、王子様とお姫様みたいですなぁ!」 「お似合いですぞぉ」 「だってさ。圭ちゃん。嬉しいね」  淳一が満面の笑みを向けてくる。圭をこんな状態にさせている張本人なのに。  悔しかったが、やはり何も言えなかった。不甲斐ない自分が情けなくなる。 「圭ちゃん、おちんちん勃っちゃってるよ」  耳元で囁かれ、スカートを握り締めた。分かっていたが、他者に指摘されると一気に恥ずかしくなる。 「お願いします、止めてください」 「やぁだ。だって圭ちゃん可愛いから」  頬擦りされて顔をクシャリと歪めた。悪趣味が過ぎる。こんなに辱めて、何が楽しいのだろうか。淳一の考えていることが分からず相手への恐怖ばかりが募る。 「顔真っ赤にして俺の腕の中で震えてるのマジ最高。可愛くて、もっといろいろしたくなっちゃうなぁ」  ブンブンと顔を左右に振った。これ以上とは、どんなことをさせられるのだろう。もうこんなことをされているだけでも屈辱だというのに。 「やだ? じゃあ圭ちゃんの嫌がることはしないよ。でも代わりにチューしてよ」  綺麗にほほ笑まれているものの、そのツラの下がとんでもない悪魔であることを知っている圭にとって、その笑みは美しいものではなかった。  更なる侮辱を受けるくらいなら、まだ人前でキスをさせられる方がマシだ。淳一の頬へと手を添えた。顔へ近づけるよう手に力を入れれば、その導きに応じるように顔が寄って来る。  重ね合わせるだけのキスの後、深く交わる口づけへと変化する。角度を何度も変え、貪るように求められた。 「くぅ~、見せつけてくれますなぁ!」  口笛が飛んできた。見られているという嫌悪感に勃起していた股間が萎える。 「……ごめん、圭ちゃん、俺ちょっと我慢できないかも」 「え?」 「二人共しばらくライブ見てて。俺、圭ちゃんとちょっとイイ事してくるから」 「ごゆっくりと~」  サイリウムを振って見送られる。淳一は踵を返して圭を横抱きにしたまま寝室へと向かう。ベッドへと辿り着いた。圭を寝かせると、覆い被さり口内の奥へと舌を入れてくる。  しばらく口づけを続けていると、淳一の手が圭の胸を触り始めた。ビクリとしてその手を握る。 「ダメ? これくらい良いじゃん」  フルフルと首を横に振った。胸元のピアスをあの人以外に触られるのが嫌だった。 「こういうのは、もっと後って……」 「圭ちゃん、いつもダメダメばっか。彼氏の俺がしたいのに?」 「でも……」 「分かったよ。じゃあ、やめる。でも代わりにパンツ見せてよ。ちゃんと履いてるか確認するだけだから」  互いの譲歩ポイントを提案され、やむなく頷いた。胸を弄られ続けるよりかはまだ見られるだけの方がマシな気がした。  ベッドから降りてスカートの裾をノロノロとたくし上げる。パンツが見えるまで持ち上げ、いたたまれずに顔を背けた。 「うん、やっぱり似合うね。圭ちゃんのおちんちん小さいから、多分大丈夫だろうとは思ったけど。……えっちな匂いしてるね。お尻のでお汁出ちゃったかな?」  クンクンと性器の近くで匂いをかがれてゾッとした。腰を引こうとしても腿を掴まれて逃げられない。淳一の高い鼻先がパンツ越しに性器へと触れる。下腹にここまで近づかれたのはアレク以来だ。 「圭ちゃんのえっちな格好見てたら、俺も勃ってきちゃった」 「えっ!?」  淳一がズボンのベルトの前を外し、寛げた下腹から勃起した陰茎を取り出した。日本人の平均くらいの大きさだろうか。屹立していることで、もう少し大きくは見える。 「ねぇ、ちょっとだけ。入れたいな」  圭の前に膝をついていた淳一が立ち上がった。圭を抱きしめ、下腹を擦り付けてくる。  フルフルと首を横に振りながら必死に考えた。この状況から脱する最大にして最上の手段を。 「あの、口で……します」 「え? 本当!?」  驚く淳一をベッドに腰かけさせた。膝の間へと身を滑り込ませ、屹立した性器を手にした。  握ってみて実感する。アレクとは全く違う。太さも、長さも。同じ男性器のはずなのに。  目を閉じる。意を決して性器を口内へと咥え込んだ。  アレクの陰茎ほど大きくないため、比較的口淫は楽だった。ジュパジュパと敢えて音をさせる。こうすると卑猥に見えるとユルゲンが言っていたのを思い出しながら。  頬を窄ませ顔を前後させた。淳一の性器の形が分かって嫌だったが、背に腹は代えられない。舌を竿へと絡めて吸い上げた。 「圭ちゃん、フェラしたまま目ぇ開けて」  髪を撫でられ、言葉に従う。見上げた先にあった恍惚とした顔。相手が悦んでいるのが分かり、ホッとした。  口内の性器はビクビクと震えている。多分もうすぐ吐精するだろう。ラストスパートとばかりに顔を動かし、性器への愛撫を加速させる。  アレクの陰茎であったならば喉の奥まで突かれ、大きく開きっぱなしの顎は怠くなっていただろう。彼は遅漏気味だから。 「うっ」  淳一が低く呻く。奥まで性器を突き立てられた。ドクドクと放たれる白濁が喉を通り体の中に入って来る。不快感でいっぱいだったが、我慢だと自分に言い聞かせ続けた。  全て圭の口内へと放ち終わると、淳一が圭の両脇に手を差し入れる。体を持ち上げられて抱き締められた。 「圭ちゃん、フェラ上手じゃん。どこで覚えてきたの?」 「……ネットで見たやつ。淳一にしてあげたいから頑張って覚えた」 「あぁ~! もう本ッ当に! 俺の圭ちゃん最ッ高に可愛い!! 早く抱きたいよ。今度は、この可愛いお顔に顔射しようね」  抱き締めながら頬擦りしてくる淳一に、圭は虚空を見つめ続けるだけだった。  また胸の内に沈む淀みが増えた気がした。嘘がどんどん積み重なる。男の機嫌を取るためだけの心にもない大嘘ばかり。  自分がどんどんと薄汚い人間になっていっている気がしてならなかった。 「じゃあ、俺も落ち着いたし、そろそろローター止めてあげるね。口、洗ってきなよ。そのままじゃキスもできないしさ」  手にしていたリモコンを操作される。中で震えていたオモチャが止まり、やっと全身から力が抜けた。淳一の胸に抱き込まれたまま放心する。  もう悲しくても涙すら出てこなかった。段々と自分の中の何かが壊れていく気がする。  でも、それを止める術すら知らない。  ゆっくりと、でも確実に。深淵に堕ちてゆくのを感じながら考えを放棄するように目を閉じた。
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