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番外編アツメターノ⑪ イルミネーションを作ろう2~圭と夜光花と時々アレえもん~
「ケイは夜光花を知っているか?」
「え、何それ。知らない」
夕食後、アレクと共にソファに座って食後の茶を楽しんでいた圭はフルフルと首を横に振る。
「そうか、夜光花はケイの世界にもないか」
満足そうに笑 むアレクを見て、圭は首を傾げた。何かの隠語だろうかとも考えたが、全く想像がつかない。
「ねえ、何? その夜光花って」
「その内、連れて行ってやろう。……だが、問題は勝手に出かけられなくなったことだな」
アレクが指摘しているのは先日の魔法の絨毯騒動のせいだ。誰にも許可を取らずに出かけたことで、戻ってきた時、ユルゲンから大目玉を喰らったのだ。圭だけが。正確に言えば、目が覚めてからだが。
アレクの傍若無人ぶりは健在だったと久々に実感した後、目覚めた圭は寝室のベッドにいた。ジェットコースターのようなセックスをした際、無様に気絶したらしい。
そして目覚めた後、ネチネチとユルゲンから長時間に渡る説教地獄が待っていた。
元々はアレクが勝手に行ったことだと釈明したが、絨毯に魔法をかけて空を飛びたいと言ったのは確かに圭だった。それを指摘されるとグゥの音も出ない。
そもそもアレクは圭に甘いのだから、もっとその辺りを考慮して発言しろと責められた。納得がいかない。ユルゲンたち自身がアレクに物申せないから、ほとんど八つ当たりのようなものだ。
しかし、自分がユルゲンたちの立場だったらと思うと、長時間に及ぶ説教も仕方がない。一国の皇帝陛下の身に何かあれば大事 だ。そうならないようにするのが臣下の務めでもある。
分からなくはないが、やはりモヤモヤはする。
そして、当の本人であるアレクが全くと言って良いほど響いていない。少々の小言は言われただろうが、結局アレクに対しては皆強く意見できないのだ。そして、そのはけ口に圭がなっている。
「さすがにこないだ怒られたじゃん。そんな勝手に出かけたらまずいんじゃねーの?」
「なんだ、随分と守りに入ったな」
アレクは知らないからそんな事を言えるのだ。ユルゲンの小言のねちっこさを。その不満を口にすれば、今度はユルゲンが罰せられてしまう可能性があるため言わないが。
「ケイは俺と2人きりでデートしたくないのか?」
「え、デート??」
少し不満を露わにしていた圭であったが、キラリと目が輝いた。結婚はしたものの、デートと言えるデートはほとんどしていない。お忍びで祭りを見に行った城下町と、先日の湖だけだ。一緒にいられるだけでも嬉しいが、やはりどこか出かけたいとは思っていた。
「え~、そんなのしたいに決まってんじゃん!」
「だろう? そうなると、やはり問題は抜け出し方だな」
アレクが腕を組んで思案顔を作る。
勝手に城を抜け出すのは悪いことだ。それに、もうあんな説教はこりごりだ。
しかし、2人でデートは楽しみたい。これも譲れない。
そもそも、2人での思い出というのが圧倒的に少なすぎるのだ。これは良くないと思う。
それに、アレクはこの世界で最も強いのだ。誰が来てもやっつけられるだろうし、よく考えたら何も問題などない気がしてきた。
「アレク、完全犯罪目指そうぜ」
ほぼ食後の団らんタイムでの定位置になっているアレクの膝の上で握り拳を作って闘志を見せる。
そうだ、何事もチャレンジだ。やりもしない内から諦めるなんてナンセンス過ぎる。
バレなければ正義。叱責が怖くては何も挑戦できないではないか。
しかし、よく聞いていけばその夜光花というものが咲いている場所は城から相当遠いらしい。簡単に行ける場所ではなさそうだ。短時間で行き来するには転移しかない。転移を使えば魔法の残滓 でバレてしまう。
「うわ~、マジ詰んでんじゃん! くっそ~、こういう時、どこでもドアがあればな~」
「どこでもドア? 何だそれは」
「俺の国にある……いや、あるって言ったらさすがにダメか。伝説の魔道具みたいなやつ。そのドアを使えば、どこでも目的の場所に行けるんだよ」
「なるほど、どこでもドア……その手があるか」
「ん?」
アレクが得心 したように呟いた。そして、圭を膝から下ろすと書斎へと向かってしまった。圭には先に寝るようにだけ告げて。
「え……アレク、何する気だ……?」
書斎を覗けば、アレクが真剣な表情で何冊もの分厚い本を手に取っている。一冊一冊が辞書のようだ。それを5冊ほど抱えると、書斎のデスクへと向かってしまった。こうなるとさすがに声を掛けづらい。団らんの時間が減るのは残念だったが、仕方なくその日は先に眠るのだった。
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夜光花の話をした日から随分と経過した日だった。もうすっかりその話自体を忘れてしまっていたため、夕食の席で夜光花という単語を聞き、そんな話をしたなと思い出したくらいだ。
「でも、行く方法見つかったのか?」
「ああ、当然だ」
「マジ!?」
驚き過ぎて椅子から勢いよく立ち上がる。ガタンと椅子が後ろに倒れた。興奮しすぎたことに赤面しながら椅子を起こす。しかし、目は期待にランランと輝いていた。
「どうやんの!?」
「どこでもドアだ」
「どこでもドア!!!!」
またしても立ち上がり、椅子が転がる。ハッとするが、もうこの高揚を隠すなんて不可能だ。
「アレク、どこでもドア作ったの!?」
「俺に不可能という文字はない」
「ヒュ~! すっげぇ!! アレえもん~!!!!」
ウキウキしながらその場で小躍りする。アレクは「アレえもん?」と不可解そうな顔をしているが、説明している場合ではない。
「ちょ、こんな悠長に飯食ってる場合じゃねーじゃん! さっさと食って夜光花見に行こうぜ!!」
「ケイが乗り気で何よりだ」
「乗り気にもなるだろ! こんなおもしれーこと!!」
それまでゆっくり食べていた夕食をほぼ強引に口の中へとかき込んだ。そして途中で噎せる。アレクは呆れた顔をしていたが、そんなこと気にしている場合ではない。まさかのどこでもドア体験に、謎の夜光花だ。どちらも何とも魅力的すぎる。
「アレク、早く早く! やっこうっばな! どっこでっもドア~」
夕食の皿を召使たちに下げてもらい、部屋の中で足踏みする。居ても立っても居られない。早く行きたくて体中がウズウズする。
「そう慌てるな。転んで怪我でもしたら痛いのはケイだぞ」
「でも、すぐアレクに治してもらうも~ん」
怪我をしたところで、頼まなくてもアレクはすぐに治してくれる。治癒魔法は高等魔法に属するため、あまりアレクに負担をかけたくはないが。
夜着から着替えて外出用の服を着る。目立たぬよう質素なものを選んだ。シャツにパンツという簡易な服だ。アレクも同様にシンプルな服へと着替えたが、元が良すぎるために何を着ても似合うし目立ってしまう。しかも、今日は髪や目などの色を変えずに出かけるらしい。そんなことをして大丈夫なのかと少しだけ不安になる。
「ねえねえ、本当にこのまま行って大丈夫なの?」
「心配ない。どうせ誰にも会わないからな」
アレクが長い脚で向かった先は書棚だった。いつもの手順で外へと繋がる地下階段を出現させる。
「ほら、行くぞ」
「うん!」
アレクが圭へと手を差し伸べた。お忍びデートをした時を思い出して心が跳ねる。大きな手に引かれ、共に階段を降りて行く。あの時はまだ恋人未満であったが、今では既に婚姻関係を結んでいる。世の中、何があるか分からない。
この事をあの頃の自分に伝えたらどんな反応をするだろうか。驚くというよりも信じない気がする。プッと笑いながら歩いていると、前にいるアレクに不審がられた。
「どうした」
「ん~? なんか、こうやってまたデートに行けるのって良いなぁって思ってさ」
アレクが穏やかに笑う。こんな風に過ごせる時間が好きだ。
しかも、今夜は秘密のデートつき。心を弾ませるなという方が無理というものだ。
地下階段を抜け、城下の空き家へと出た。いつもならそのまま外へと通じる扉へ向かうのだが、今日は違うらしい。それだけでもワクワクする。
連れられて来たのは空き家内にある別の部屋の前だった。アレクがドアノブに手をかける。掌が白く輝き、ドアにいくつもの魔法陣が浮かぶ。扉を開くと、その先は森へと繋がっていた。
「え? え? な、何で!?」
背後を振り返れば空き家の廊下。そして、ドアの先を見れば鬱蒼と茂った森の中。
「ユルゲンたちの隙を見つけて扉に魔法陣を仕込んでおいた。転移では残滓が多く残るが、この方法を取れば残滓の量を極力抑えられる。ここまで来ねばならないという手間はあるが、バレずにどこかへ向かうというのならとっておきの方法だろう?」
「あ、アレク天才すぎか~~~~~!!!!!!」
「この方法は俺とケイだけの秘密にしておこう。ケイは魔法を使えないから一人ではこの扉を使えないし、役には立たない。そもそも、この場所自体が極秘だからな。知りもしない場所にある有益な魔道具など、俺以外には無意味だが」
ウンウンと何度も大きく頷いた。アレクの後について扉を抜ける。夜の闇に包まれた森は薄ら寒いし少し怖い。突然何かが出てきたらと考えて生唾を飲み込んだ。
アレクが再び掌を光らせる。すると、圭たちの周囲に光る白い玉がいくつか浮かんだ。足元が照らされる。これなら何かに足を引っかけて転倒するなどの危険性はなさそうだ。
先を行くアレクが歩き出したため、手を引かれながら圭もその方向へと向かう。背後を振り返ると扉は消え去っていた。
「アレク、どこでもドアなくなっちゃったよ?」
「あれは片道通行だからな。帰りは転移で帰る」
「でも、それだと残滓で外出たのバレちゃうじゃん」
「確かに残滓はあるが、出発地点ほどの量じゃない。それに、俺たちがいなければ騒ぎになるが、誰かが見に来た時にいれば問題ないだろ」
少々見切り発車な理論だが、もう出てしまったのだ。仕方がない。それだったら、この先にある夜光花とやらを楽しむ方が良い。
しばらく歩いていると、視線の先が薄っすらと光っているのが見えてきた。
「ねえねえ、もしかして、あれ?」
「そうだ」
「マジか!!」
走り出そうとしたが、繋がれている手を引かれて戻される。気分は首輪で統制された犬だ。
「走るな。転んで怪我をするだろうが」
「ごめん~」
テヘヘと愛想笑いで誤魔化す。アレクは少し呆れ顔をしつつもそれ以上を言ってはこなかった。
2人で光っている場所へと向かう。徐々に近づいてくると、ワクワクで心がはやる。段々と小走りになっていた。脚の長さの違いからか、アレクは歩いていたが。
「うわぁ~~~~~!!」
やっと光の源へと辿り着いた。森の中でぽっかりと木々の切れ間となっているその場所には直径30メートル程の大きな池があった。そして、その池の周りを青白く光る花が咲いている。まるで光る絨毯だ。一面に咲き乱れる光景に圧倒される。
アレクが池の方へと進もうとしたため、手を引っ張った。振り返ったアレクが不思議そうな顔で圭を見つめる。
「どうした?」
「花、踏んじゃったら可哀想だよ」
繋いでいない方の手でアレクの足元を指し示した。アレクに踏まれた花は光を失っている。こんなに素敵な景色だというのに、それを荒らしてしまうのは勿体ない。
「そうだな。確かに圭の言う通りだ」
優し気な顔をしたアレクが圭を横抱きにして抱え上げた。フワリと足元が浮き、近くにある大きな木の枝へと移動する。
「うわわわわ~~~~~!!」
見下ろす光景も素晴らしかった。池を中心に夜光花の群生が咲き乱れている。そこだけ何かのステージのようだ。煌々と照らすような明るい光ではないが、それがまたこの場の雰囲気に合っていて良い。
「すっごく綺麗だね!」
「ケイの言うイルミネーションとやらには勝てそうか?」
「それとはまた全然違うよ! 俺は、こっちの方が好きだな。柔らかくて、優しい感じが良い」
イルミネーションの電飾の明かりも綺麗だが、純粋に眼下の景色の方が美しいと思った。
自然が作り出した美に敵うものなどない。
圭が夜光花に魅入っていると、アレクが掌に収まるくらいの小さな笛を取り出した。いびつな三角形に近い形はオカリナを彷彿とさせる。アレクはその吹き口を唇へと持っていく。高く澄んだ小さな音が鳴った。唐突に響いた笛の音に、圭は驚いてアレクを見る。そして、次に夜光花を見下ろして目を大きく見開いた。
「うわわわわわぁぁぁぁ!!!!」
アレクの笛の音に呼応するように夜光花の光が強くなった。
「え? 何で!?」
「この笛の音だ。周囲の空気を震わせる力がある。微力過ぎて人体には何の影響もないが、この花の発光する力と合わさると光る量に変化が出る」
「へぇぇぇぇ!」
アレクが再び笛を吹いた。夜光花の光が強くなる。薄っすらと光っていた時も綺麗だったが、光る力が強くなると更に幻想的な光景が広がる。
「ケイも吹いてみるか?」
「俺でもできる?」
「ああ、誰だってできる。あまり力強く吹くんじゃなくて、息を薄く吐き出す感じで吹くんだ」
手渡された笛を口元へと持っていく。アレクがやっていたように笛を吹けば、夜光花はまた美しく輝きを増した。
「アレク、ねえ、見た!? できたよ!!」
鷹揚に頷くアレクに興奮が収まらない。楽しくてずっと笛を吹き続けていると、隣に座るアレクが手を花の方へと向けた。指先が白く光る。
「!!!!!!!!!!」
夜光花の花びらが風にのり、一斉に舞い始めた。キラキラと光りながら宙を舞う光景に魅入る。あまりに幻想的すぎて言葉が出なかった。
一面に咲き誇る夜光花。そして風に乗って踊る光る花びらたち。こんな美しすぎる風景をアレクと2人で独占していることに、ある種の優越感を感じていた。
「アレクはこれ見たことあるの?」
「ああ。視察でな。だが、その時よりも美しく見える。同じ光景だというのに不思議なものだ」
「そーゆーのはぁ、一緒に見ている奴によるんだって。好きな奴と見ると、好きなものが2倍良く見えるんだよ。確か、バイアス? ってやつ」
「なるほど。圭のお陰か」
アレクの腕が圭の肩を抱く。引き寄せられ、アレクの肩へと頭を乗せた。
「ケイのお陰でまた思い出の地が一つ増えた。荒らされぬよう、ここは国定公園にでも指定して、むやみに誰も入れないようにでもするか」
「うわ~、そんな勝手な~。また暴君サマって呼ばれるぜ?」
「呼ばせたい奴には呼ばせておけば良い。それに『自然保護の名目だ』とか適当に言っておけば良いだろ」
頭を撫でられ、心地良さに圭は目をそばめた。
アレクが言っていたのはあながち冗談でもないだろう。以前連れて行ってもらった湖も、周辺一帯を含めて国定公園に指定されていると後から聞いた。アレクが皇帝になってすぐのことらしい。母親との思い出の地を誰にも汚されたくなかったのかもしれない。そういうところは本当に自分勝手な人だ。そんなところも可愛らしいのだが。
しばらく空中を舞っていた大量の花びらはゆっくりと池へと落ちて行った。すぐに光を失うかと思っていたが、池の上で発光したまま揺蕩 っている。光る水面の美しさにも目を奪われる。
「もう少し近くで見てみるか?」
「え?」
アレクが圭を横抱きに抱え、ゆっくりと枝から舞い降りた。そして、池の上でピタリと止まる。自分たちの下に光る花びらが浮かんでいる光景もまた素晴らしい。
「うわぁ~、すっごい! 近い! めちゃくちゃ光ってる!」
近くで見ると、更に綺麗だ。思わず水面へと向けて手を伸ばしていた。アレクが圭の体を抱え直し、池へと近づけてくれる。触れた水は冷たかった。アレクが片腕で圭を抱くと、空いた掌を池へと向ける。光ると同時に水面にゆったりとした小さな波が起きた。その動きに身を任せるように花びらは揺蕩っている。揺れる花びらたちがまた面白くて夢中になった。
「ありがとう、アレク」
長い間、池の上で踊る花びらたちを鑑賞していたが、あまり長時間抱えさせるのも申し訳ない。アレクよりも小さいとは言っても、男一人抱えているのは大変だろう。
お礼の気持ちを込めてアレクの頬に唇を寄せた。触れるだけの短いキスをして唇を離す。アレクがジッと圭を見つめていた。「そこじゃないだろう」と流麗な瞳が語っている。苦笑して今度は唇へと顔を寄せた。
光る花びらが敷き詰められた水面の上に浮きながらキスをするという、普通なら絶対に叶えられないシチュエーション。イルミネーションの下でするキスよりもよっぽどロマンチックだろう。しばらくの間重ねていた唇を離す。深く交わり過ぎて唾液で唇が濡れていた。それが周囲の夜光花の光で照らされて輝いて見える。なんて美しいのだろう。アレクの持つ美との相乗効果で普段よりも魅力的に映る。もしかしたら、これもバイアスだろうか。だとしたら、圭の生活はいつでもアレクが傍にいるお陰で楽しく、充実したものになっている。
「なんか、いつまでもいちゃいそうだから、そろそろ帰ろっか」
「俺はケイと一緒なら、いつまででもいて良いが?」
「帰って別ので盛り上がりたいって意味だったんだけど?」
「それは大変失礼した。早急に帰らなければな」
チュッと額に一つ、軽いキスを寄せられる。そのこそばゆさに目をそばめていると、水面の上に転移の紅い魔法陣が描かれる。眩しさに目を瞑 った次の瞬間には城の寝室へと戻っていた。
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「んっ……アレク……」
ベッドで抱き合い、キスを交わしながら合間合間に名を呼ぶ。その度にアレクが溶けそうな程に甘く笑むのが堪らない。その顔を見るだけで胸がキュウと締め付けられる。愛おしさが増し、心臓なんて小さな器官なんかでは収まらず、溢れ出してしまいそうだ。
もっと深く交わりたいと頬を紅潮させた蕩け顔で舌を出す。圭の意図を的確に汲み取り、アレクは更に情熱的な口づけを与えてくれる。迎え入れられたアレクの口内。圭の舌へと濃厚に舌を絡ませる。
「んっ……んんっ……」
アレクの首へと抱き着いている腕の力を強くする。
〝離れたくない〟という想いを込めて。
城へ戻ってきたとほぼ同時に寝室のベッドへと押し倒された。そこからずっとキスを交わし続けている。互いの唾液に塗れ、口元は既に濡れている。
アレクの右手が圭の上衣の中へと入り込んで来た。少しだけヒヤリとした温度に一瞬、小さく体が竦む。
「すまない。冷たかったか?」
「大丈夫だよ」
圭の服の中へと入れていたアレクの手を引き抜き、顔の方へと持ってくる。スリッと掌へと左の頬を寄せる。少しひんやりとした温度が火照った頬に心地良い。
「気持ち良い」
すりすりと頬を動かせば、アレクの顔が更に緩む。
「俺もだ。ケイの体はどこもかしこも心地良すぎて堪らない」
頬に当てた手はそのままに、圭の右頬へとアレクも顔を寄せて頬擦りした。両頬をアレクの肌で愛撫され、充足感に包まれる。
頬へのふれあいはそのままに、アクレの左手が服の中へと入って来た。今度は右手程には冷たくない。薄い腹をやんわりと撫でられた後、上へと上がって来る。
「んっ」
右胸まで辿り着くと、指先が乳首の先端を撫でた。敏感な尖りがビクリと跳ねる。
「可愛い乳首をたくさん愛でたいんだが」
「んっ、良い、よ……」
上衣を首の近くまでたくし上げた。アレクへと薄い胸が晒される。
「いつ見てもココは本当に可愛らしい」
「んぅっ」
陶然とした顔で胸元を見つめられ、恥ずかしくなる。あまりにも至近距離にアレクの顔があり、彼の息遣いが胸へとかかる。
女性のように豊満でもないのに、アレクは常に圭の胸を称賛してくる。たまに自分でも鏡の前で服を捲り、胸の尖りを観察してみるが、どこがそんなに可愛いのかよく分からない。ピアスを付けられ、他の人よりも卑猥に見えるとは思うが、それが可愛いに繋がるとは思ったことがない。アレクのためだけにある、痴態に塗 れた裸体だ。
「あっ」
ピアスを軽く引かれ、伸びた乳首をペロリと舐められる。細めた舌先を当て、チロチロと何度も上下されると、そこから悦楽が湧き上がる。
「あ、……っぅあっ、ぅあッ……あああっ……」
熱心に乳首だけを愛撫される。ピアスを引かれたまま唇に挟まれ、フニフニと唇で食まれるだけでも股間の愚息が大げさに主張してくる。胸だけでイかされるのはさすがに恥ずかしい。男としての象徴も可愛がられたいと、圭は自ら下腹を晒す。
「こっちも……こっちもしてよぉ」
「まったく、欲張りだな」
「ひぅんっ!」
屹立しながら涙を零す性器を握られ、緩く擦られる。胸への刺激と性器への直接的な愛撫に昂っていた体はすぐに陥落した。
「ああああっ」
鈴口から白濁が飛び出す。全身に波及した快感にビクビクと身を震わせた。
大して強い刺激を与えられたわけでもないのにすぐに逐情してしまった淫らな体。快感に耐性のない肢体は放ったばかりの快感の余韻に浸る。
「ケイはすぐにイってしまうんだからなぁ。俺はもっと気持ち良くさせたいのに」
「らって……あれくの、ぜんぶきもひぃから……。おれ、がまん、れきないよぉ……」
「可愛いことを言ってくれる」
ギュッと抱き締められる。圭の腹の上へと今しがた吐き出したばかりの白濁がアレクの服へとついてしまうことすら気にならない。熱に浮かされた脳はすっかり蕩 け切っていた。
「ケイの淫らな姿で、俺のもすっかり元気になってしまったんだが、責任は取ってくれるか?」
「うん」
名残惜しくも抱擁を解かれる。寛げるばかりだったズボンを下着ごと脱ぎ捨て、両脚の膝裏へと手を入れる。自ら大きく左右に開き、アレクへと恥部を曝け出した。
「俺も、もっと奥でアレクと気持ち良いこといっぱいしたい。俺のここ、構ってもらいたくて拗ねちゃうよ?」
ヒクヒクと後孔が期待に息づいているのが分かる。胸も性器も可愛がってもらっているというのに、のけ者にされるのは嫌だとばかりに直腸が剛直を求めていた。
アレクが生唾を飲み込む音がする。もっと淫らに誘った方が良いかと、尻を小さく左右に振った。
「前戯とかいいから、早くアレクの極太ちんぽ挿 れてよぉ。俺のココ、今日もいーっぱいドチュドチュして、アレクのだって分からせて」
もはや排泄孔ではなく、性器なのだと実感させてほしい。太すぎる性器で隙間なく埋められ、一体になっていると自覚したい。
アレクはすぐに下腹を寛げてくれた。ボロンと飛び出した性器。今宵も隆々 と逞しく天を仰いでいる。先走りの量も多く、竿へと流れ落ちていた。そんな状態になるまで下着の中にいたなんて、とても窮屈だっただろう。
「はやく……ッ! あれくの、ここだよ」
括約筋の近くへと指を置き、クパと左右に開いた。自分から中を見せるのは少し恥ずかしいが、アレクの剛直を中に迎え入れるためであれば、このくらいなんてことはない。淫らな部分も全部含めてアレクに愛されたい。
剛直の切っ先が括約筋に触れる。既に少し開いていた後孔は容易に亀頭を受け入れた。
「んんぅ……」
膝裏を抱えたまま腰をくねらせる。待望のモノを与えられ、全身が歓喜に湧く。
押し広げられる直腸。剛直に浮いた血脈が襞を擦ることすら愛おしさでいっぱいになる。
「ぎゅって……してよぉ」
もっと近くで逞しい体躯を感じたくて、両腕をアレクへと伸ばした。すぐに抱き締められる。
「んっ、んっ」
唇を重ねながら奥へと挿入 り込んで来る極太性器。キスをしながら抱き締め合って挿入されるという圭の最も好きな体位に夢中になる。
愛されていると全身で感じられる。
「んぶぉっ!」
結腸まで辿り着くと、アレクは数度助走のように注挿した後、すぐに勢いを付けて結腸を抜いてきた。目の前にチカチカと星が舞う。強すぎる刺激。括約筋に感じるアレクの陰毛の感覚。体の奥の奥まで貫かれる愛。どれも好物すぎて堪らない。
脚をアレクの腰へと絡ませる。腕も広い背中へと回し、全力で抱き着いた。
それでも、アレクは腰だけを使って器用に注挿する。
「んっぐ……んんー……―っ!」
ドチュドチュと激しく突かれ、涙目になる。
アレクの種付けピストンは勢いがある。こんな刺激的な注挿をされては、屈服せざるを得ない。
「んんー、んー……ッ」
直腸の強すぎる刺激に翻弄され、我を忘れてしまいそうなのが怖くて抱き締める腕に力を込める。まだ1度目の挿入だというのに。序盤で力尽きてしまっては、絶倫のアレクの相手など最後までできない。
アレクが満足するよりも先に堕ちてしまうことの方が多いが。
「んんーっ!!」
最奥まで力強く貫かれたとほぼ同時にアレクが絶頂を果たす。勢いのある射精がS状結腸の肉壁へとぶっかけられ、その刺激にも圭は共に逐情する。
抱き留められた力強い腕の中、ガクガクと大きく震える体。アレクに包まれ、多幸感でいっぱいになる。
アレクのことを好きだという充足感の中、あまり間を置かずして再び動き始めた性器に、再度翻弄されることとなった。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
「ケイ様!!」
「え、何? どしたの??」
自習中、勢いよく開かれた扉に驚いた。ユルゲンに言いつけられた自習をきちんと行っている。怒られるようなことはしていないはずだ。
「陛下に何かおっしゃいましたか?」
「何か……って?」
首を傾げる。普段、アレクとは様々な話をしている。どの話のことを指しているのか皆目見当がつかない。
「陛下が四つ足動物を用いた乗り物を作るなどと言い出しまして、仕事が滞っております」
「あー……」
ユルゲンは大きな溜め息を吐いて心底困り果てているという顔をしていた。
そして、圭にとってその話は大いに心当たりがあった。
夜光花を見に行った翌日、アレクに「となりのトトロ」の話をした。木の上で笛を吹いた光景がそっくりだったためだ。
その時、一緒に猫バスの話も出した。猫の形をしたバスで、どんなところでもひとっ飛びで行けるのだと。もしかしたら、その猫バスの研究を始めたのかもしれない。
どこでもドアの時もそうだった。アレクは意外と夢中になったら他が手につかなくなるタイプなのだろうか。
目を泳がせる圭をユルゲンは見逃さなかった。
「きちんと責任を取って陛下に仕事をさせてくださいね。執務は山のように溜まっておりますので」
「は、はぁ~い」
憤怒のような表情に至近距離で凄まれ、圭は身を竦ませるばかりだった。
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