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【第2部 ヘルボルナ大陸】 第5章:秘密のお出かけ編 第6話

「さて、ここに2人、俺に対して不義理を働いた者がいる。1人は俺の最愛の者、もう1人は殺しても殺し足りない程に憎い相手だ。しかし、そいつを殺すとなると、愛しい者から離縁されてしまう。だが、無罪放免とするには俺の気が済まない。では、どうすれば良いと思う?」  圭はアレクの前に正座をさせられていた。その隣には植物でがんじがらめになったクリストフ。文句など言えないよう、草は猿轡のように噛まされていた。  アレクの顔が見られない。ずっと下を向いて状況を打破する手を考えていたが、圭の残念なオツムでは名案などは全く思い付かなかった。 「ケイ? どうすれば良いと思う?」 「ひっ!」  指先で顎をクイッと持ち上げられる。プルプルと震えながら固まっていると、アレクが一つ溜め息を吐いた。 「黙っていては分からないだろう?」  アレクの綺麗な眉が困ったように寄せられている。そして顔が近づいてきたかと思うと、ペロリと圭の唇を舐め上げた。 「な、ななな、何で、ちょ、ひ、人前……」 「人前も何も、罪人の前でそんな体面など繕う必要もないだろうが」  圭の体がビクリと跳ねる。  〝罪人〟……かつてその単語で呼ばれた時の記憶が蘇った。ガタガタと全身の震えが大きくなる。 「そんなに怯えなくて良い。俺が愛するケイをまたそんな扱いなんてするはずもない」  優美に笑まれて抱き締められた。気を失う程の痛みを伴った焼き印とその後の監禁生活を忘れることなんてない。ただ、あの時のことを思い出すだけで体は自然と強張ってしまう。 「ケイにはそんな扱いはしないが、それ以外は別だ。俺にとっては人間なんて『ケイ』か、『ケイ以外』かでしかない。でも、ケイは違うんだろう? ケイ以外だったら俺にとってはどうでも良い存在だが、ケイにとっては俺以外でも大切な存在がいるのだろう?」  震えたまま小さく頷いた。  もう会えないが、家族も友達も大切だ。それに、ユルゲンやマリアたちも全員いなくなってしまったら困る。そういう意味では嘘を吐けない。 「ケイにとっての他人のスタンスについて文句を言うことはない。ケイにとって、俺が他の者たちよりも特別でさえあれば許すことにする。だから、その大切なケイが悲しむようなことはしないが、ケイの行動で俺が傷ついたのも事実だ。だから、俺はその元凶となる者が最も嫌がることをすることで、報復にしようと思う」 「嫌がる……こと……?」  アレクの示していることが分からなかった。  しかし、その言葉の意味はすぐに知ることとなった。 「んっ……」  アレクの唇によって塞がれる口。舌も入って来る濃厚な口づけだった。  人前だからと胸元を押したが、ガッチリと抱き締められて離れられなかった。 「んぅ……」  口内の気持ち良い場所ばかりを舌で撫でられる。圭の体のことなど本人以上に知り尽くしているアレクにとって、圭を陥落させることなど造作もないことだった。たちまち腕から力が抜ける。体から力が抜けてしまい、むしろアレクに縋り付く格好になってしまう。  ジュルジュルと唾液を吸われ、吸わされる。ねっとりと絡みつかれる舌は人前だということも忘れさせてしまう。舌を回され、舌の裏をチロチロと撫でられる。余すところなくアレクに舌を味わわれている。裏側を堪能されたと思ったら、今度はアレクの舌と上唇で舌を挟まれ、吸い上げられた。 「んんんっ」  ゾクゾクと全身に快感が走り抜ける。下腹が屹立し始めていた。こんな自然の中でするようなことではない。やめさせねばと思うのに、やめてほしくないと体が疼く。  唇を離される頃にはすっかり体が火照ってしまっていた。唇の端から零れてしまった唾液を拭うことも忘れてキスの余韻に浸る。 「ケイの淫らな姿を人前に晒すというのは本意ではないが、ケイが俺のだということをしっかり分からせるには、きちんと見せた方が早いと思うんだ。それに、ケイにこんな顔をさせられるのが俺だけだと分かれば、諦めもつくだろう」  顎を取られ、地面に倒れているクリストフの方へと顔を向かされる。クリストフは盛大に眉間に皺を寄せ、苦悶に満ちた表情を浮かべていた。  〝クリストフが嫌がること〟というのは、圭に性的な行為をするということなのだろう。クリストフが懸想する圭の体を抱くことで、圭の相手がアレクであるということを知らしめたいのだ。  クリストフには恋心の類を抱いてはいないし、今後も抱くであろうことはない。とても優しくて話しやすい存在だが、それはあくまで「頼れるお兄さん」的な位置づけだ。そもそも、圭の恋愛対象は男性ではなく女性である。アレクが特別なだけで、男性を恋愛対象としては見ていない。  しかし、当のクリストフとしては堪ったものではないだろう。好意を抱く相手が自分以外の相手とまぐわうところを見せられるのだ。もしも相手の立場だとしたら絶対に我慢ならない。  ここで、圭は現在の状況を天秤にかけた。  甘んじて受け入れるか。それとも、断固拒否するか。  アレクがとんでもなく怒っていることは分かっている。普段なら他人に圭の姿を見せることすら嫌がるアレクがそのこだわりを捨てているのだ。これは嫉妬深いアレクにとっては相当なことである。  そんなアレクの機嫌を取るか、これ以上の泥沼を取るか……。  そんなこと、長考する間もなく結論は出た。  顎を取られている手をやんわりと外させて、圭の方からキスをする。積極的に舌を絡ませ、アレクの口内を舐る濃厚な口づけだ。  アレク自身も、圭の方からここまで濃厚なキスをなかなか平時にはしないため、乗り気になってキスを受け入れていた。  そんな二択、考えるまでもなかった。クリストフとはこの旅行が終われば頻繁に会う間柄ではないだろう。それなら、大好きな相手のご機嫌を取った方が遥かにマシだ。  チュルリと音をさせ、舌を吸う。息が荒くなってしまう。キスをしているだけなのに。自分からアレクの首へと腕を回す。一度離した唇でチュッチュッと押し付けるだけの軽いキスを数回。そして、舌を出して誘うようにまた深いキスをする。 「ケイも乗り気になってきたか?」 「うん」  ハフハフと息をしながら今度はアレクの唇の周りにキスをしていく。  一応、圭の中でも若干の打算はあった。自分からキスをすることでアレクの機嫌が回復し、早く部屋へ戻ろうと言ってもらえれば万々歳だ。後は寝室で存分に愛し合えば良い。アレクのすること全てを受け入れ、たくさん好きだと言って甘えれば、圭に甘いアレクのことだから、早々に許してもらえる可能性だって捨てきれはしない。  ギュッと抱き締め、耳元へと唇を寄せる。 「ベッドでいっぱい仲直りしたい」  クリストフには聞こえない程度の声量でアレクの耳元に囁いた。ついでとばかりに耳を唇で食む。 「俺も寝室でケイの可愛い声が枯れて、足腰立たなくなるまで抱いてやりたい気持ちはあるが、まだそれにはちょっと早いな」  ドキドキとアレクの言葉を待っていたが、早々にこの窮地を脱するという希望的観測は潰えてしまった。アレクにはバレない程度に心の中でガックリする。 「俺からしてやっても良いんだが、ケイの方からきちんと強請った方が俺の機嫌は良くなるぞ」  ニッコリと笑顔でそう言われ、圭の稚拙な思惑がバレているのではと冷や汗をかく。 「外……やっぱ、恥ずかしい」 「でも、こういう所でした事はないから、俺は大いに興奮する」  涙目でアレクを見つめるウルウルお願い作戦も残念ながら不発に終わる。  いよいよ退路が断たれてきた。もうここから先は一発くらいここで致さねば許してなんてもらえなさそうだ。  でも、どういう風にして良いか分からない。主導権を与えられたところで、慣れてなんかいない。困り果ててアレクを見上げていると、両脇に手を入れられてその場に立たせられた。 「ケイの世界ではこういうプレイはしないのか?」  問われても困ってしまう。  首都圏の公園などが夜になるとそういったスポットになるというのは聞いたことがあるし、青姦動画だって見たことがないとは言わない。  しかし、それがいざ自分にとなってくると話が別だ。性行為の全てがアレクとだけであり、初心者なのだから。  もうここまで来れば後戻りなんてできない。腹を括る。  でも、いきなりこの場で一人全裸になるのは気が引けた。モジモジしていると、アレクの掌が圭の頬を撫でてくる。 「ケイ?」  催促してくる響き。意を決してスカートの中へと手を入れる。下着を握り、緩慢な動作で脱ぎ始めた。布で隠されていた股間が外気に触れる。下腹がスースーして落ち着かない。スカートで隠れてはいるが、風でも吹いて捲れ上がろうものならたちまち変質者の仲間入り確定だ。  下着を脱ぎ終え、スカートの端をギュッと握り締める。  もちろん、これで許されるなんて思っていない。アレクから寄せられる無言の圧力。圭が自分から行為へと導くのを待っている。  しかし、いくら覚悟したとは言え、自分たちの行為を見ている者がいる状況でセックスできるほど肝は座っていなかった。  アレクへと背を向ける。近場にあった大木へと手を突き、尻を突き出した。  スカートの端を自ら持ち上げる。隠されていた尻が晒される。  秘めた場所に視線を感じてフルリと下半身が震えた。  いつもならその場所を見るのはアレクだけ。自分ですら鏡で無理矢理見せられた時くらいしかお目にかかることがない。そんな場所にアレク以外の視線を感じる。  そんなことにも興奮している自分がいることに気づき、驚くと共に羞恥で肌を染める。 「アレク、早く……」  軽く尻を振って急かす。こうなったらさっさと終わらせるに限る。一発ヤって、見せつけて、それで終了してもらおう。  しかし、アレクは圭の催促に乗って来なかった。涼しい顔をしながら腕組みをしたまま圭を見つめているばかり。 「早く……? 急かされたところで、何を早くすれば良いのか分からないなぁ」  首を傾げるなど、しらを切り通される。何とも白々しい。分かっているのにあえてそんな態度を取って来るのだ。  少し待ったところでアレクから行動するような素振りは一切見られない。頑なに圭から強請って来るのを待っている。  強情を張り通したところでこの先が変わらないことは分かっている。こんな恥ずかしい格好をいつまでも続けている圭の方が損だ。  腰を突き出した格好のまま、後孔へと右手を持っていく。ふっくらと縁が盛り上がり、縦に割れた括約筋の傍へと人差し指と中指を置き、左右へと開いた。空気が直腸の中へと入り込んでくる感覚。何度も感じたことがあるとは言え、見られている時の羞恥心はいつになっても拭えない。  しかも、今回は更にクリストフという第三者の目がある。 「……アレクの、欲しい」  全身が羞恥に染まる。この行動と言葉で、どこに何をどうされたいかなんて明白だ。  こんな言葉を人前で言わされる日が来るなんて思わなかった。アレクが嫉妬深いことは知っている。だから、圭の痴態を他者に晒すなんてことはないと思い込んでいたのだ。  拓いた括約筋がヒクヒクと蠢いているのが分かる。今、圭の目では見ることなどできないが、以前、鏡に映された後孔なら無理矢理アレクによって見せられたことがある。その時は呼吸するように開閉し、淫らに口を開いていた。直腸内の赤い肉まで見え、自分の中を垣間見る羞恥にいたたまれなくなった。  そんな場所が今、アレクとクリストフに晒されている。  アレクは圭の中を見るのが好きだからいい。普段から嫌だと言っても見てくるし、やめないから諦めている。何が面白いのかはさっぱり分からないが。  しかし、クリストフにとっては後孔の中を見せつけられるなんて蛮行でしかないだろう。こんな恥ずかしいことをしてくるような相手への恋心なんて一瞬で冷めるはずだ。変態的指向のプレイに巻き込まれ、申し訳なく思うばかりだった。 「俺の何が欲しいって?」  この期に及んでアレクは未だにしらばっくれる気のようだ。恥ずかしい言葉を圭に言わせるのを好むアレクによって、今までだって何度も羞恥を煽るセリフの数々を口にさせられてきた経験はある。まさか、そんな淫語を今ここで吐けというのか。恥を忍んでここまでやっているというのに。  それでも、アレクは譲歩をする様子はなかった。圭が自発的にアレクへと浅ましく強請るというスタンスを崩さないようだ。  もう自棄だった。これ以上、こんな恥ずかしい格好を続けるなんて我慢ならない。 「俺の淫乱ケツマンコ、いつもみたいにアレクのおっきなちんぽでいっぱいかき回してよ! 下の口、寂しすぎて他のちんぽ欲しがらないように、アレクのちんぽで蓋して、俺のココ、アレクのだって、分からせてよぉ!」  後孔に指を挿れ、ツポツポと注挿させながら叫んだ。  自分でもとんでもないことを言っていることは分かっているが、もうこれくらいしなければアレクは許してくれない気がするのだ。  徐々に言い募って言って何度も恥ずかしいことを言わされるより、一度で全て解決させた方が良い。その方が時間も早く済むし、何度も問答をする手間が省ける。  圭の思惑通り、アレクはそれ以上の問いをふっかけてはこなかった。 「そこまで強請られてしまっては仕方がないな。可愛いケイの頼みなら、聞かざるをえない」

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