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【第2部 ヘルボルナ大陸】 第5章:秘密のお出かけ編 第9話

「んっ、あれく、こんな格好のまま……だめだよ……」  祭壇に押し倒され、唇を貪られ続ける。ドレスが汚れるのも嫌だし、正直、硬い石で背中と後頭部が痛い。どうせするなら柔らかいベッドの上が良い。 「だめだ。ココでするから意味がある」 「???? 何で?」 「ここがそういう伝承の場所だからだ」 「伝承ぅ?」  圭の頭上に大量の疑問符が舞う。暇を潰すための一助としてアレクから与えられたシルヴァリアの本は何冊も読んだが、そのほとんどは活劇小説の類だった。いつくか伝記物などもあったが、あまり興味がそそられず、多くは読んでいない。 「この場所は、諸所の国の建国前から『最も神に近い場所』として尊ばれてきた場所だ。その特異性ゆえにどの国にも属さず、世界でも数少ない空白地帯となっている」  そもそも入るためには魔法を習得している者でなければならず、特にこの部屋に入る時の詠唱の長さは覚えるだけでも苦労しそうだ。 「この部屋の中にある石像たちは、諸国が崇め奉る神を模したものだ。この場所で宣誓をすること自体が、全ての国の神への誓いとなる」 「う、うへぇぇぇ……」  何だか想像していたよりも大仰な場所だった。そんな場所をこんな私的なことに使って良いのだろうか。圭には疑問ばかりが募る。 「とりあえず、すっごい場所ってことは何となく分かったんだけど、それとこれが俺には全然繋がんないんだけど」 「つまり、俺とケイは神々の元に誓いを立てた。これにより、俺たちの間には誓約が発生する。違えれば、そこにはどこにいようと『神に立てついた者』としての烙印が押されることになる。その末路というものがどうなるかは、推して知るべしというものだ」 「えええええ……」  あまり天罰の類というものは信じていないが、これまでのユルゲンの授業などから、この世界の人々は信心深いという印象がある。きっと、人間にはどうにもできなかった過去の様々な事象に関して「神々の仕業」と結びつけてきたのだろう。そうなってくると、世界中の人たちが神への誓いを尊び、その神々の前で宣誓した圭たちはどこへ行こうともその誓約を守らねばならないという重圧に近いものが発生する。 「ねえ、この場所で誓約を立てた人たちって、違えたらどうなるの?」 「そもそもこの場所は聖域であり、そう簡単に出入りのできる場所ではないから、使用されたという事例自体が多くはないが、かつては国同士の和平を宣誓する場所として使われていた。しかし、その誓約を破った国が例外なく天災に遭い、破滅への一途を辿るようになったことから、その強大な力を恐れた者たちによって厳重に封印され、人の訪れることができない場所となった」 「おおおおおおいぃぃぃぃぃいい!!!!!! 何そんな場所に入って、好き勝手してんだよ!!!!!!!!」  思わずアレクの額をチョップしてしまった。ほとんど無意識の内にだ。  道理で随分と厳重に封じられているとは思ったのだ。そりゃああれだけ蔦だって生い茂る。 「さすがに勝手がすぎるぞ! それに、そんな大それたことをする時はちゃんと俺にも許可取れよ!」 「聞いてもケイなら嫌々言った末に最後には許可するだろう?」 「そりゃ、最終的にはアレクが決めたことならするけどさぁ……、ほら、心の準備とかいろいろあるだろ。そもそも、その前にこういう私的なことで使って良い場所なのかよって話!」 「構わないだろ。俺とケイなら。俺を誰だと思ってる」 「うっわぁ~、相変わらずの暴君サマだぁ~!」  不敵に笑うアレクの暴論に、もう呆れしかない。  しかし、権力を含めてアレク程の〝力〟を持つ者ならば、あながち全てが誇張という訳ではない。多分、アレクが決めたことであれば、そもそもシルヴァリアは全て従うし、大国を敵に回す国が世界中にどれ程あろうか。余程の暴虐でない限りはほとんどが思いの通りになってしまう。 「でも、あんまり罰当たりなことすんなよ? いくらアレクでも天罰は避けられないだろうし」 「罰当たりなことなどするものか。この誓いだって、ケイが破りさえしなければ絶対に破られることなんかない。だから、絶対的なことを口にしただけだ」 「そりゃ、俺だってアレク以外となんて絶対ありえないから大丈夫だって言いきれるけどさぁ……。じゃあ、100歩譲ってプロポーズは良いとして、今、こんな態勢になってるのはおかしくね?」 「愛を示す行為だろう? 何らおかしいことなどない」 「いやいやいやいや、あるだろ!! 神様たちだって、いきなりこんな所でおっぱじめられたらめいわ……」  そこまで言ってハッとする。この世界を作った創造神のマリアは圭たちの性行為を見るのが好きだと圭の前でハッキリと公言していた。  それに、ギリシャ神話でも神々の奔放な性事情というのは赤裸々に描かれていた。もしかしたら、神様というのは得てしてそういう性に関する営みが好きな性分なのかもしれない。 「……ほら、さぁ、見たくない神様もいる、かもしんないじゃん?」 「では、見たい神もいるだろうな。それならば、きちんと期待に応えねばむしろ失礼に当たるだろうし、まぐわいまでを含めてが愛の告白だろう」 「う~ん……、いや~、俺の国では、そうでもない、かっなぁぁ??」 「安心しろ。シルヴァリアでは俺の全てが正義だ」 「ひぃ~ん! これだから暴君サマはぁぁぁ!!」  アレクが覆い被さってくる。チュッチュッと軽い音をさせながら圭の顔や首筋、鎖骨などにキスを落としていく。  ここまで抵抗してダメなら、もうアレクは止められない。そんなのはこれまでの経験上から分かっている。ある程度のところで折り合いをつけ、妥協することも大切だ。 「分かった! 分かったからぁ! せめて、この体勢だけは勘弁してよ! 背中も頭も痛いからぁ!」 「ああ、それは悪かった」  両脇の下に手を入れられて、ヒョイと持ち上げられる。祭壇の上に腰を下ろしたアレクと向かい合う格好で膝に座らせられた。 「これなら大丈夫か?」 「うん」  こっくりと頷く。  改めてのキス。今度はきちんと唇にしてくれる。  抱き合ってする口づけは好きだ。愛されていると実感できるし、アレクを身近に感じられる。アレクの纏う爽やかな香りも、キスをしながら髪を撫でる優しい手も。全てが自分のものだと分かって嬉しい。口づけの時の暗黙の了解として瞳を閉じてしまうため、こんなに至近距離にあるのにアレクの美しいエメラルドグリーンの瞳を見られないのは少し残念だが、代わりにキスを解いた時には間近で彼の顔を堪能できるという特権がある。  何度も角度を変えて濃厚なキスを交わす。アレクの首に腕を回し、互いの間には隙間を作らない。ぴったりとくっついた体。服越しにアレクの逞しい体が分かる。  こんなに強く美しい、完璧な人が自分の伴侶だなんてやっぱり信じられない時がある。本当は全部夢の中での出来事で、起きたら自分の部屋のベッドの上なんてことがあるんじゃないか。そう考える度に怖くなる。  毎日愛を囁き、こんな風に示してくれるのは嬉しい。先程の聞き様によっては脅しのようなプロポーズだって、本当に圭のことを愛しているからこその言葉だと分かっている。だからすんなりと受け入れた。  唇が少し唾液でヒリヒリするくらいまで貪り合い、名残惜しくも離した頃には共に欲情した顔をしていた。くっついた下肢では互いに性の象徴が硬く屹立している。圭のつつましやかな性器はドレスのスカートでほとんど目立たないが、アレクの他者よりも大きな男根は勃てばその姿がよく分かる。下腹の布地を押し上げている股間のテントを服越しに感じて圭はクスリと小さく笑んだ。  こんなに美しい男性が、同性の体に欲情を抱いてくれている。同じ年頃の男子たちよりも幼いこの体に。  しかし、アレクによって淫らに開発され、彼好みにされた体はその欲情を嫌がらない。人に見せられないような体にされ、どうかと思った時もかつてはあったが、互いに結ばれている今はもうそんな風には考えない。どうせ恒常的に見せるのなんてアレクだけしかいないのだし、アレクが喜んでくれるのならばそれで良い。自分の体に何をされても、それがアレクのためになるなら何だって受け入れられる覚悟があるくらいには彼を愛している。  例え、それが生命の終わりであったとしても。アレクがそう望むのならば厭わない。 「アレク、大好きだよ」 「俺もだ。愛してるよ、ケイ」  望む言葉が返って来る。自然と頬が緩み、はにかむ。  アレクの手が圭の真っ白いスカートの裾を捲る。下着を持ち上げてしまっている性器がアレクに見られている。少し恥ずかしいが、期待の方が何倍も大きかった。  脱がしやすいという理由で最近よく履かせられている紐パンの紐を解けば、狭かった場所から解放された性器がプルリと飛び出した。先程、森の中であんなに絶頂を迎えたというのに、浅ましく勃ち上がっている。 「何とも背徳的な光景だな。今までこのドレスでこんな格好をした皇后はいなかっただろう」 「……分かってるならやめてよ」 「だから良いんだろう。すごく興奮する。綺麗なケイの淫らな姿を見られる特権だ」  アレクの手が圭の背中に回る。ドレスの継ぎ目を外し、胸部から腰までの布を一気にずり下げられる。コルセットをしていない裸体は胸元から腹までを曝け出す。夜になって少しひんやりする空気が素肌を撫で、羞恥も相まって僅かに震えた。 「本当に可愛い。この滑らかな肌も、全部、全部俺のだ」  抱き締められて背を撫でられる。愛おしいと口だけでなく、行動までもが饒舌に語っているようで胸が熱くなった。 「アレクも、俺の?」 「当然だろう。髪の一本から足の爪先まで、全てがケイのものだ」 「ん……うれしい」  ギュッとアレクに強く抱きついた。  アレクの体を覆ってしまっている服のせいで彼の逞しい素肌に直接触れられない。それがもどかしい。 「俺だけ裸なのやだ。アレクも一緒じゃないと」 「そんな嬉しいお誘いなら、いくらでも受けてやるぞ」  アレクは乱雑に婚礼用の軍服の前を引っ張る。胸元が露わとなった。周囲にボタンが弾け飛び、カツンと軽い音を立てて転がった。  圭の着ている婚礼用のドレスも相当な値打ち物ではあるだろうが、アレクの方も相応に貴重な物のはずだ。そんな手荒く扱って良いのかと少し疑問にも思うが、アレクのすることに関して異議を唱える者などそうはいない。直しておけと言われれば、誰もが否など唱えることなく元の通りに戻すだろう。だから、そこまで気にする必要はないことにしよう。  そう思わないと、また圭の一言でアレクがやんちゃをしたことになる。いちいち気にしていたら、胃がいくつあっても足りやしない。  目の前に現れた胸元に惚れ惚れしながら顔を埋めた。温かいアレクの体温を感じてホッとする。しなやかな筋肉のついた胸筋は完璧な美しさを誇り、良い筋肉ならではの弾力を持っている。その胸に顔を埋めるのは至福の時だ。  巨乳のお姉さんの胸元に顔を埋めるという、男ならば誰もが憧れるシチュエーションも夢には見るが、アレクの胸元も心地良さを与えてくれる。スリスリと顔を横に振り、顔全体でこの安らぎを満喫する。 「そろそろ俺の分身もケイと愛し合いたいと言っているんだが、ケイのこっちは許してくれるか?」 「んっ」  臀部を撫でられ、ゾクゾクとした甘い刺激が走った。腰の奥が疼く。意識を失う前まで酷いことをされたというのに、それすらも全て快感に変えてしまう貪欲な場所だ。アレクの大切な体の一部を体の奥深くで感じたいと下腹が切なく訴える。  アレクの下肢を寛げる。下着から勢い良く飛び出てきた分身。森の中でのまぐわいなど知らぬ存ぜぬとばかりに力を漲らせている。圭の方はと言えば、未だに下肢を中心に全身が気怠いというのに。絶倫のパートナーにはいつでも驚かされる。 「アレクの、いつも元気すぎだろ。元気ない時ないのかよ」 「ケイが目の前にいない時くらいか。まあ、頭の中でケイを抱いてる時はその限りではないがな」 「そんな妄想してんの? エッチ。毎日ヤってんのに」 「毎日なんて当然だろう? 俺はむしろ、1分1秒たりともケイと離れたくなんかない。ずっと腕の中に抱いて、愛でていたいというのに」 「そんなん無理に決まってんじゃん。ちゃんとしなさいってユルに怒られる」 「そんなつまらんことを言ってきたら、即斬首だな」 「だめ。そんなことしたら、もうアレクと一緒にいてあげないから」 「そんなの許さないに決まってるだろう」  軽口を叩き合いながらクスクスと笑う。ビクビクとアレクの下腹で主張を続けている性器を握り、上下に擦った。手の中にある重厚感。芯を持って勃ち上がり、硬い陰茎は早くあるべき場所へ挿入りたいと訴えてくる。そんなアピールに気づきながらも扱き上げる手の動きを止めない。  手淫しながらも腹の奥が疼いて堪らなかった。早くその屹立を寄越せと喚いている。 「あっ、ねぇ、アレク……俺のこと、もっと……もっと求めてよ」  欲しいと言ってほしい。強請ってほしい。たくさん愛されたいし、愛したい。  愛し合いたい。  家族も友達もこの世界にはいないから。  アレクだけが全てを預けられる存在だから。 「欲しいに決まってるだろ! ケイだけが俺の全てだ。ケイ以外なんて、全てが取るに足りない。ケイがいるから俺がいる。ケイが喜ぶから何だってする。ケイのことを誰にも非難などさせないために国のこともするし、俺の行動の全てはケイのためだ」  アレクの言葉の一つ一つにゾクゾクと歓喜する。抱き留められているため、顔を見られていなくて良かった。今、きっととんでもなく緩んだ情けない顔をしている。  嬉しくて堪らない。こんなに大好きな人と相思相愛になれるという幸せは圭にとっても何にも代えがたい。 「んっ、俺も……アレク、欲しい。……見せつけちゃおっか。いろんな神様に。俺たちの」  一度アレクの性器を擦り上げてからその切っ先へと後孔を当てる。 「んぅ……」  ツプリと挿入り込んで来た性器をすんなりと蕾は受け入れた。先程までアレクの腕すらも飲み込んでいたのだから、当然だ。むしろ、性器を迎え入れることができ、安堵と歓喜に包まれる。 「んっ……ぅ……」  腰を落とし、深々と奥まで飲み込んだ。尻たぶがアレクの下肢に乗る。結腸の奥まで太く硬いモノで埋め込まれる悦楽と幸せ。この場所にあるべき物だと全身が納得をする。 「んっ、んんっ」  アレクの肩に手をかけ、腰を上げては落とすを繰り返す。その度に下肢から淫らな水音が鳴り響く。この音を自分でさせているというのは気恥ずかしいが、後孔で得る悦楽に比べればそんな羞恥は取るに足らない。 「あぅっ、んぁっ、ああっ」  直腸を穿つ剛直はいつものように圭に極上の快感を与えてくれる。しかし、少し強引な方が燃える圭にとって、自分の動きだけではいつものような滅茶苦茶にされる快感まで届かない。  やっぱりアレクに動いてもらわないと。アレクにしか与えられない快感というものが存在する。 「お、ねが、……あれく、うごいて……」 「俺の好きにして良いのか?」 「うん。俺、あれくに、すきにされたい……」  ギュッと抱き着いた。上半身同士がくっつき、アレクの鼓動が伝わってくる。少し速い胸の音は、アレクも興奮してくれているという確たる証拠。その事実だけでもアレクのことを誰よりも愛している圭にとっては興奮材料となる。 「んぅっ!」  少し腰を上げられた後、ズンと深くまで力強く突き込まれた。体の深部まで貫かれたような衝撃。その勢いで圭の愛らしいサイズの性器から僅かに白濁が飛び出た。  小刻みに痙攣する体。目の前がチカチカする。アレクにしか与えられない極上の一突きに頭の中が淫らなまぐわいへの期待一色に染まる。 「んぁっ! ああっ、あぅっ!」  その一突きを合図とするように、アレクからの猛烈な注挿が始まった。アレクの腕力を持ってすれば、男といえども小柄な圭の体など簡単に持ち上げられる。そこに腰の動きを合わせて強烈なピストンをされてはひとたまりもない。ガクガクと揺すぶられる体を止める術もなく、アレクの好きにされる。  気持ちの良すぎる抜き差しに浮いた脚がピンと伸びてしまう。快感の逃がしようがなく、ひっきりなしに喘ぎ声が漏れる。腹の奥を突かれるのがこんなに気持ち良いことだと知らずに生きていた頃にはもう戻れない。性器を擦って得られる快感だけでは届かない悦楽を知ってしまったのだから。 「あ、あえく! いっぱい、ちゅう、して! いっぱい、ぎゅってして!」 「ああ、勿論だ」  強く抱き締められながら唇を貪られる。その間中も下肢は突き上げを止めない。拘束されているかのような抱擁。逃がさないというアレクの確固たる意志の表れのようだ。  この力強い腕の中に囚われる感覚も大好きだ。アレクを最も近くに感じられる。  これ以上差し出せる物などないくらい全てをアレクに捧げ、その見返りとばかりにアレクの全てを貰う。互いの全てを曝け出し、与え合い、享受する。こんな幸せなことはない。 (好き。アレク、大好き)  唇を塞がれているため、心の中で何度もアレクへの愛を叫ぶ。  もう、何度甘イキしているかなんて分からない。全身汗で塗れ、下肢も体液でグチャグチャだ。  それなのに、もっと欲しいと訴える貪欲な体。浅ましいとしか言いようがない。  しかし、森の中でも激しく責め続けられた体に限界が来ているのも事実だった。意識を何とか繋ぎ止めることだけで必死だ。 「んんぅ……、んっ」  ゴリゴリと最奥を擦って来る亀頭。そんなに弱い場所ばかり責められては堪らない。我慢できずにまたしても潮を噴く。腰回りに溜まっていたドレスやアレクのズボンなどにかかり、淫らな汁で汚してしまう。  そんなことすら気にする余裕もなく、ビクビクと体は痙攣を続けていた。もう止まってくれとばかりに直腸がアレクの性器を締め付ける。その締め付けをものともせずに動き続ける男根。白目を剥きながら喘ぐ圭に、もう理性などというものは欠片も残っていなかった。 「んんんぅぅぅぅッ!!」  奥深くまで突き込まれ、S状結腸で浴びる射精。ひと際強くアレクの性器を直腸で抱き着いた後、ガクリと意識を失った。

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