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第6話
彼は僕と同じ絵画科の学生だった。県外から来ていて全く知り合いがいないということだ。僕自身も、同じ高校の同級生や先輩もいないことはないが特に親しくもないので、祈と余り変わりない。
彼が僕を偶然見かけては傍に寄って来るので、自然二人でいることが多くなって行った。
祈曰く。
「偶然じゃないよ。たくさんの人の中に埋もれていても『見えるんだ』きみが。きみだけが他と違って見える。入学式の時もそうだったから、気になって追いかけた」
ーー 一年のつき合いでも彼のことはよく掴みきれていない。
絵画科は一年次には様々な分野を網羅する。基礎を学び、二年次からそれぞれの専攻に分かれる。だから一年の時には祈と講義が被ることも多かった。
二年になり、僕はイラストレーション専攻、祈は日本画専攻に進んだ。まだ二年生になったばかりで履修も決定してないが、自主作品作り作業やサークルなどの為にキャンパスに訪れる学生は多い。
「ねえ、歩。明日の午前中はお暇かな?」
「学校に来ようとは思ってるけど、何?」
「今期特別枠講師の講演会があるんだけど行かない?」
特別枠講師とは、学外から呼ばれ短期で行われる講義の講師であり、主に有名になったり成功したK大学のOBだ。一般教養講義として、空きがあれば芸術学部全学科の学生が受けることができる。特別枠講師が講義前に講演会を行うのは珍しくはない。
「特別講師? 誰?」
「Bird Entertainmentの社長、鳥飼 涼介 」
「Bird Entertainment、ゲーム会社だね。祈そういうのも興味あるんだ?」
ゲームなんかしそうにないのに意外な感じがした。
「興味あるっていうか。いろんな人の考えを聞くのって自分の糧になるだろ? まぁ、オレよりイラストレーション専攻の歩のほうが興味あるんじゃないかと思って」
僕の為にってこところにちょっときゅんとする。
「うん、そうだね、興味あるよ。行くよ」
「やった!」
顔は綺麗なのに話をすると普通の男の子で、時々醸し出す儚さとか危うさとのギャップに今でも困惑してしまう。
「歩、今日もバイト?」
「うん」
「従兄だからって酷使されてんじゃないのか?」
「そんなことないよ。めっちゃ混んでるってわけでもないし、毎日入ってるけど休みたい時は無条件に休めるからけっこう楽だよ」
「ならいいけど。じゃ、明日十時半に展示ホールで」
「わかった」
* *
主に絵画科の教室があるC棟を十時二十分頃出て、講演会などを行うホールがあるA棟に向かう。入学式などもA棟の大ホールで行われた。一階が展示ホールになっていて学生の優秀な作品が展示されている。正面はガラス張りになっていて中の展示物が見える。
遠目から見ても祈が先に来ているのがわかった。
「あれ?」
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