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第10話
顔を合わせた途端また背筋にぴりっときた。
(んん? この人は?)
という疑問の答えはすぐにわかった。
「叔父さん、友だち連れて来たよ」
祈がその男をそう呼んだからだ。
「ああ、歩くん?」
何故わかったのだろうと驚きながら、
「はい、花邑歩です」
と挨拶をする。
「こんにちは。叔父の桜守 です。きみのことは祈からよく聞いてるよ」
「そうなんですか」
いったい何を話してるのか、酷く照れくさい気分になる。
僕の身長が百六十五センチ。祈も同じくらいだ。二人して首が痛くなるほど見上げてしまう。癖の強いセミロングの黒髪を項で結わえている。目はやや釣り上がり気味で、怖いくらいの美形だ。祈りとは全く似ていないように思える。
(叔父さんだしね。……兄弟だって似ていないことあるし、僕らだって)
「お昼出来てるから、歩くんもどうぞ」
「ありがとうございます」
「歩、こっち」
祈はもう既に何歩も先を歩いている。
「あの、お邪魔します」
「ごゆっくり」
顔に合わない柔らかな口調で言い、彼は竹箒を動かし始めた。
軽く会釈をして祈を追いかけようとした瞬間、奇妙なものが目に入った。
(今目の色が、茶金色に光って見えた……光の加減?)
確かめるのが怖くて振り返らなかった。
(見なかったことにしよう)
「祈、待って」
軽く走りながら祈に追いつく。基本祈の歩く速度は早いがそこで少し緩めてくれた。隣を歩きながら。
「叔父さん……人間?」
思わず口をついて出てきてしまい、慌てて手で押さえる。勿論なかったことにはならないが。
「さぁ……どうかな」
ふふふ……と祈がやけに楽しそうな顔をした。
(おーいっ)
社殿の裏に平屋の日本家屋があった。
縁側のある広い部屋に通される。
畳の上の机には食事が用意されてカバーのようなもので覆われていた。『蝿帳っていうんだよ』と祈が教えてくれた。
『蝿帳』を外すと大きめ寿司桶が現れ、中味はとても綺麗で美味しそうなちらし寿司だった。
「きれ〜美味しそう〜」
目を奪われていると祈が茶碗に盛ってくれている。
「これって、もしかして……」
「うん。叔父さんが作ってくれたよ。叔父さん料理上手なんだ」
外は少し肌寒くて閉められた雪見障子から外の景色が見えた。
桜を見ながら綺麗なちらし寿司を食べる。
(めちゃめちゃ贅沢な気分だ)
さっき感じた不気味さはもうすっかり頭の隅だった。
「なんか凄いよね」
「あ、この家? ザ、日本って感じするよね」
「襖も欄間も見事だし」
そして一つ疑問があった。
「ねぇ、この神社って余り人来ないでしょ。なんか見つけ憎いところにあるような」
祈は口の中にあるものを咀嚼し終えてから、
「うん。そうだね。余り人がお参りしてるところ見ないかなぁ」
「どうやって生活してるの?」
「うーん、まぁ……いろいろ?」
「…………」
何だかまた触れてはいけないことを訊いてしまったような気がした。
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