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第14話

 胸の熱さと同時にちくんと小さく痛むような切なさを感じる。この切なさは自分のものか、何処かもっと遠くにあるような気もする。  さっと少し離れるような仕草をする。 「ちゃんと食べてますよ〜。特に寝不足でもないし、何で倒れたんだろう」  そこは心底自分でも不思議だった。そう言えば小さい頃『見えた』時に熱を出したこともあったっけ。 (もしかしたら、あの男に感じる何かが作用して……でも、あの人いったい何なんだろう。なんであんなふうに感じるんだ……) 「そうか? また倒れることがあるようだったら一回病院で診てもらえよ?」  少し距離を取った自分に嫌な顔もせずに心配そうに言った。 「はい」 「ん〜」  何か言いたそうに見詰められている。 「なんですか?」 「いや、昔はもっと懐いてくれてたよなって思って。『蒼兄ちゃん』とか呼んでくれて。言葉遣いなんかも……再会したらなんか距離あるっていうか」 (……蒼兄ちゃん……ちょっと寂しそう)  いつも揶揄うように話し掛けてくる蒼矢がそんなふうに思っていたことにきゅんと胸が鳴る。  でも仕方ない。そうしてるのだ。彼が言うように距離を置いているのだ。  これ以上近づき過ぎないように。  これ以上好きにならないように――これは結局は失敗に終わっている。今もまた少し好きが増えた。  でもこれは一生伝えることはない。 「何言ってるんですか。僕ももう子どもじゃないんだし。最後に会ってから何年も経っててあの頃とは同じにはいきませんよ」  殊更明るい声音で言う。 「『僕』ねぇ……昔は『おれ』って言ってたよね。それにもっとやんちゃな感じだった」  今日の蒼矢はいろいろ突っ込み過ぎだと思った。再会してから一年間そんなことを考えていたのだろうか。今まで言えずにいたのだろうか。 (そうだよ……僕は自分を変えたんだ。兄ちゃんが亡くなってから……両親を心配させないように)  でもそんなことは蒼矢には言えない。 「もうっ蒼矢さん、僕何歳だと思ってるんですかぁ――あ、そう言えば」  もうこの話は切り上げたかった。昔の話が出たついでのようにさっき思い出したことを言ってみる。 「僕さっき思い出したんですけど、あの鳥飼さん、たまに三人のなかにいましたよね。蒼矢さんと、陽ちゃんと……兄が一緒にいる時。あと兄の通夜の席にも。顔は全然覚えてなくてすぐにわからなかったんですが。四人、仲良かったんですか?」 「ああ……鳥飼さんは俺らの一つ上で、高校からの先輩なんだ。その繋がりで『ゆき』とも会ったことあるけど、数回だけだと思ったよ?」 『数回だけ』その言葉を聞いた時僕の身体が僕の意識とは関係なくびくっと震えた。
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