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第15話

 その震えが何処から来ているのかということは深く考えなかった。 「そうなんですか――そう言えばさっきお仕事の打ち合わせって言ってましたけど、蒼矢さんBird Entertainmentのお仕事されるんですか?」 「そうだよ。Bird Entertainmentの仕事は今までも受けたことあるよ。今度新しく開発されるゲームのキャラクターデザインとイラストの仕事を依頼されたんだ」  月城蒼矢はフリーのイラストレーターで実は結構有名だ。その有名人がこんなど田舎に住居を構えているとは誰も思うまい。ちなみに彼の実家は鎌倉に古くからある名家だ。何でも実家は弟が継ぐらしく、自分は自由にさせて貰っているらしい。あの頃はそんなことも知らなかったけど。 (僕は蒼矢さんの作品にも憧れている。本当は前にBird Entertainmentの仕事をしていることも知ってる。でも蒼矢さんには余り興味ない振りをしなければ) 「昔は結構ゲームの相手させられてたけど、今はやらないの?」  そうだった。  陽翔や行帆が余りゲームの相手をしてくれなくて、僕とゲームをするのは専ら蒼矢だった。 (蒼兄ちゃん……昔から優しいとこあったよな)  昔を思い出すと『蒼兄ちゃん』って呼びたくなる。でも口には出来ない。 「今は全然やってないですね」  兄が亡くなってから僕は好きだったゲームをしなくなった。 (『あの年』兄から僕への誕生日プレゼントは、ゲームソフトに決まっていた……)  しかし、その日兄が持っていたリュックの中にも、部屋の何処にも僕へのプレゼントは発見されなかった。当時売れ切れ続出で手に入りにくいソフトだったから実は入手出来ていなかったのか。  そうではないと僕は思っている。 『歩、誕生日楽しみにしてて』  誕生日の数日前行帆は満面の笑顔で言った。あれは目的の物が手に入った顔だと、その時僕は思い僕も内心『やった!』とガッツポーズをしたのを覚えている。  だからすごく不思議だったのだ。  そして僕はそれ以来ゲームはしていない。スマホを持つようになって周りでスマホゲームが流行っても。 (あ……もうこんな時間……)  ヘッドボードの上にある時計は六時を過ぎていた。夕食時だが風緑がめちゃくちゃ混むことはそんなにはないが。 「僕そろそろ仕事に戻らないと」  ベッドから足を下ろそうとしたら「待った」という声が掛かった。 「えっ」 「今日はもう上がっていいって陽翔が。だからあゆはゆっくり休んでな」 「え……でも……」  そういうわけには、と思ったがもう一度鳥飼と顔を合わせるのは何となく嫌な感じがした。 「じゃあ、お言葉に甘えてそうさせて貰います。蒼矢さんは戻ってくださいね」
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