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第18話

「ああ歩が小学生の時に亡くなったっていうお兄さん。なるほど……お兄さんは鳥飼さんと何か関係あるのかな?」 「鳥飼さんと?――昔僕の従兄や蒼矢さん、それから兄と四人でいるところは何回か見たことある。あとお通夜には来てた。従兄たちを通じて知り合ったくらいじゃないのかなー」  祈は「ふうん」と納得がいかないように鼻を鳴らした。 「そろそろ行こうか、次の講義始まる」 「あ、うん」  祈が何故そんなことを言いだしたのかまだ話を聞きたいが、タイムリミットだった。  学食内を横切りながら。 「講義受けるくらいなら平気かと思うんだけど」 「うん?」  何処か思い詰めたような表情だ。 「余り鳥飼さんに近づき過ぎないほうがいいと思う」  祈は何を心配しているのだろう。  勿論そんなつもりはないし、特別講師とただの受講生以上に近づくことなんてないと思う。 「なんで?」 「――さっき鳥飼さんと話してる時、めちゃ怒ってた」 「怒って? 誰が?」  あそこには三人しかいなかった。いったい誰が怒っていたというのか。 「歩のお兄さんかも知れない人」 「兄ちゃん?!」 『人成らざる者』を見る力が僕以上に強く、本人も時々人じゃないんじゃないかと思えてしまう、祈。兄の霊を見たとしても可笑しくはないのかも知れない。 (でも……それって成仏できてないってことだろうか……) 「兄ちゃんの霊……かも知れないってことだよね? 今も傍にいるの?」 「うん……傍っていうか……歩の中?」 (僕の……中……?)  言葉としてはわかる、でも理解が出来ない。僕の中にいるってどういうことだろう。 「さっき……すごく怒ってて……その波動がおれに伝わってきて、めちゃ痛かった」 「そ……なんだ……ごめん?」  理解は及ばないがとりあえず謝ってみる。  「歩が悪いわけじゃない……それに……お兄さんの特徴あるって言っても、本当にお兄さんかどうかはおれには判断出来ないよ」  祈が苦笑する。 「そっか……」 「でも、鳥飼さんには何か関係してると思う。だから、気をつけて」  僕があの人に会う度ぴりぴりと痛むような感覚がしたのはそのせいかも知れない。 「……わかった」  C棟絵画科の校舎に入る。階段を上がり二階へ。 「じゃあ、おれこっちだから」 「うん、また」  僕の講義は三階だ。階段を上がろうとして。 「――邪魔しないで」  ふいに僕の口から『また』自分の意識の外からの声が出る。口にする度その事実を思い出すけど、いつもすぐに忘れてしまい何の違和感もなくなってしまう。  祈にも聞こえていたのかも知れない。  背中に彼の視線を感じるような気がした。
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