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第21話

「歩……どう? 元気でやってる?」  久しぶりの母親の声が耳に届く。何処か遠慮がちな。いつから母は僕に対してこんなふうに遠慮がちな話し方をするようになったのか。 「元気だよ」 「陽翔くんと乃々花さんとは上手くやってる?」 「うん。二人には良くして貰ってる」 「そう」  なかなか本題に入らない。言いたいことはそんなことじゃないだろうに。 「三十日、一緒にお墓参り行くよ」  早く電話を終わらせてしまいたくてこっちから話を振った。  昨年の命日は入学して新生活のごたごたを言い訳に行かなかった。実は夏休みも冬休みも帰っておらず、流石にいろいろ言いたいこともあるのだろう。 「うん。わかった」  だからわざわざ連絡して来たのだろうに。実際に話してみるばやはり遠慮が出てしまうのか、何も言って来ない。そう言うところが僕を苛つかせる。 「じゃあ、三十日に」  少し険のある言い方で話を終わらせ、電話を切ろうとした。 「歩」  切る直前で名前を呼ばれた。 「…………」  切らずに黙っている。 「……お誕生日のお祝いもしよう」  その声が苦しそうに聞こえるのは僕の気のせいか。 (なんで、今更)    兄が亡くなった年、僕の誕生日が祝われなかったことは仕方がない。その日お祝いの料理もケーキもテーブルにセットされていた。勿論兄もその席に参加の予定だった。  その日は平日で僕は小学校に行った。夕方帰って来ると兄は出掛けていていなかった。家族の予定が書かれているホワイト・ボードには兄の予定は書かれていなかった。  でも、こんなメッセージが残されていた。 『歩、お誕生日おめでとう! 夜楽しみにしてて』  夜には帰って来ると言うことなのだろう。  しかし、七時になっても八時になっても兄は帰って来ず、連絡も来ないし連絡しても何の反応もないのだ。  兄の性格や生活環境を考えても何の連絡もなしに遅くなる、帰って来ないというのは考えられないのだ。しかも家族のアニバーサリーとなればいつも率先して計画したり参加したりする。  そんな兄だ。  当然両親も心配する。いつも帰りの遅い父親も僕の誕生日のお祝いの為に早く帰って来ていた。実に家族仲は良いのだ。  八時を過ぎたところでとりあえず母親は僕に「歩はご飯を食べなさい」と言った。お祝いを言って貰える雰囲気でもなかった。両親はその間考えられる限りのつてを頼って兄の居所を探した。  僕は食後眠くなってしまい先に自分の部屋に戻った。  翌朝早くに電話が鳴った。  両親は一晩寝ずに食事の並べられたままのテーブルを前に座っていた。  その電話は隣接している市の山中で兄の遺体が発見されたという、警察からの連絡だった。    
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