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第22話
警察の現場検証の結果、兄の死は事故死だと判断された。足を滑らせて崖下へ転落。持っていたリュックの中の免許証から自宅へ連絡が入ったのだ。
しかし、何故そこにいたのかは不明。
十年経とうとしている今でも。
兄が亡くなったというだけでとてつもない哀しみの中にいる両親は、それ以上突き詰めることは本意ではないのだ。
翌年の僕の誕生日。
勿論兄の命日に当たる。一周忌はその前の日曜日に済ませていた。
僕にだってわかっていたんだ。
僕の誕生日と兄の命日は結びついていて切っても切れないということを。
でも僕はまだ子どもだった。わかっているのに自分の誕生日を楽しみにしてしまっていた。
テーブルには誕生日祝いの料理、ケーキが並ぶ。僕は十一本のケーキの火を消し、両親からは祝いの言葉とプレゼントを貰った。
僕は嬉しい楽しい誕生日だ――そう思った。
楽しい席だから余計に感じる、一つ席が空いてしまっていることの哀しみを。僕は両親の目が揺らいでいるのを見てしまった。
そして、そこで僕は改めて気づくのだ。
僕の誕生日= 兄の死んだ日だと言うことを。
僕は自分でさえ自分の誕生日を心の底から祝えなくなってしまった。
翌年から中学三年間。やはり同じように誕生日の席は設けられたが、何処か顔に曇りが生じるようになってしまった。たぶん両親も気づいているだろう。そして、高校に入ってからは友人に祝って貰うと言って、当日家を空けるようになった。
僕が本当に自分を変えたのは十一歳の誕生日にそのことに気づいたあとだ。兄のようにいい子になる。両親に心配をかけないように。やんちゃな自分を封じた。でも一年のうちでこの日だけは、きっと少し二人を哀しませたかも知れない。
ずっと両親について墓参りもしていた。
しかし実家から離れた途端、今までいろいろ抱えてきたものに耐えきれなくなっていたのだと気づかされた。この一年何やかやと理由をつけて一度も家に戻らなかったのだ。
さすがに母親も僕の気持ちに気づいたのかも知れない。
今回の連絡は『お誕生日のお祝いをしよう』ということのほうをまず先に言いたかったのだとしたら。
(……僕の希望的観測かな……だとしても、やっぱ今更だ……)
「いいよ、別に。この歳で親となんてしないよ――それに陽ちゃんが用意してくれるっていうし。常連さんも来てくれるから」
涙ぐまないように殊更明るい声を出す。
母親がまた黙ったので僕は電話を切った。
* *
四月三十日。午前九時過ぎ。
風緑の前にぴかぴかのライトグレイの車が停まった。車には詳しくはないが高級感がある。
「おはよう、あゆ」
僕は約束の十分くらい前から風緑のポーチでうろうろしていた。前の道にすっとその車が現れ静かに停まると、運転席から蒼矢が降りて来る。
「おはようございます。蒼矢さん、今日はよろしくお願いします」
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