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第24話

 ゴールデンウィーク真っ只中の海岸線で渋滞に嵌るのは当然だろう。この道を通ると決めた時からわかってはいたのだ。  天気もいいし海を見ながら行くのも快いだろう。そう決めたのは蒼矢だが、僕もそれに賛成した。少しでも遅く着きたいという考えが働いたからかも知れない。 「蒼矢さんは気にしないでください――ほんとに海気持ちいいし」 「うん。あゆがそう言うなら」  車内には静かな音楽が流れる。時々蒼矢が話しかけてきて、それに僕が答える。そんな穏やかな時間が流れる。  車はやがて海岸から離れ、霊園のある山側に向かう。流れはだいぶスムーズになった。 「あゆ」 「はい?」  今までと違う少し緊張感のある声音だった。 (どうしたんだろう)  名を呼んだだけでなかなかあとが続かない。 「どうしました? 蒼矢さん」 「あーえっと……」 「……?」  珍しくはっきりしない蒼矢を不思議に思う。  話し出すまで何回か口を開けては閉じていた。僕はゆっくり待った。もう少しで霊園に着くというその時。 「あゆ、五日前くらいに……T駅前で鳥飼さんと会ってた?」  それは思ってもいない話だった。 「え……鳥飼さん? 何の話?」 「会ってないのか……」 「会ってるわけないじゃないですか。蒼矢さんには先輩かも知れないけど、僕と鳥飼さんはただの講師と受講生ですよ。それもまだ授業数回受けただけの。あ、風緑で一回会いましたが」 (その前に桜の木の下で会ってたか)  それは偶然のことだし、見かけたってだけで話したわけでもないから言わなくてもいい。 「でもなんでですか?」 「あ、うん。良く似た二人を見かけたものだから。違うならいいんだ。気にしないでくれ」  あからさまにほっとした様子だった。 「ふうん、似た人間って案外いるものですね」 (そうだ、僕じゃない……そんなはずない……)  そう思うのに心の奥底にとろりと流れるようなこの不安はなんだろう。  講義中にぼんやりしていつの間にか鳥飼の使用している部屋の前に来ていた――。 (まさか……だよね)  滑るように霊園の駐車場に入りその一箇所に流れるようなバックで駐車する。 「ありがとうございます。お疲れ様でした」 「どういたしまして」  そう言い合って外に出る。蒼矢は後部座席のドアを開け用意してあった花を手にした。 (ああ……僕は花すら用意しなかった)  本当に酷い弟だと後ろめたい気持ちになる。  駐車場の外れに立っている人男女が見えた。  僕の両親だ。会うのは一年以上振り。  急いで駆け寄ることはしない。普通の速度で近づいて行く。蒼矢は僕の後ろを歩いていた。 「一年振りね。元気そうで良かったわ」  母親が言う。二人ともわざとのようににこにこ笑っていた。 「それ」  ――それって嫌味?  つい口を滑らせてしまいそうになる。そんなつもりはないってわかっている。自分の後ろめたさで懐疑心を生んでしまう。

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