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第25話
「母さんたちも……」
やっとそれだけを言うと母は優しく微笑んでくれた。その微笑みも辛い。
「蒼矢くんも。毎年ありがとう」
母が僕の後ろにいる蒼矢に深く頭を下げる。父もその隣で会釈した。
「顔を見るのは本当に久しぶりね、元気にしてた? ふふ急に大人になった子どもを見るような気分だわ」
母はすごく嬉しそうだ。
実際に彼らが蒼矢の顔を見るのは一周忌以来だろう。母が二人の関係に気づいていたかどうかはわからない。陽翔も含め仲が良く、家にも当時良く来ていたのでそれで一周忌にも呼んだのかも知れない。
それ以降は蒼矢は僕らに会わないようにしていたのか、墓参りでは一度もかち合ったことがなかった。それでも僕らは蒼矢が来てくれていることを感じていた。
「お二人もお元気そうで良かったです」
「じゃあ、行きましょうか」
両親が先に立って歩き、蒼矢と僕はその後を並んで歩いた。
「陽翔も来てくれたみたいだな」
歩きながら父が言う。
「乃々花さんと家の前にいるのを見かけたわ」
陽翔は母方の従兄で、陽翔の実家は僕の家の道を挟んで斜め前にある。
「そうなんだ」
両親が話しかけてくるのに相槌は打つが自分から何も話すことがない。僕も蒼矢も黙ったまま歩いて行く。蒼矢はいったい何を思っているのだろう。
駐車場から墓地への門を潜り抜け、水道の傍に置いてある水桶と柄杓を借りる。
霊園は緑豊かでそこかしこに季節の花々が咲いている。今はハナミズキやツツジなどがとても美しい季節だ。緩い坂が続き霊園内は広々としていた。
兄の墓が見えてきた。
「あら」
母の不思議そうな声。
歩いているうちにだんだん視線が下っていた僕はその声で顔を上げた。
「誰かしら。行帆のお墓の前に人が」
ゆっくり坂を上がりながら近づいて行く。
「鳥飼さん……」
最初にその人物の名を呼んだのは蒼矢だった。
僕もその顔を認めた。
(なんで、鳥飼さんが)
ビリビリと背筋に電流が走り、キンと頭に痛みが走る。鳥飼と会うと必ず何かしらの反応を起こすが、こんなに激しい反応は初めてじゃないだろうか。
(なんで、貴方がここに来るんだ)
心の奥底から燃え上がるような怒り。これはいったい誰の感情なのか。
『お兄さんかも知れない人』『歩の中にいる?』
祈の言葉を思い出す。
(もし仮に本当に兄ちゃんが僕の中にいたとして……何故こんなに怒っているのか……鳥飼さんに何か……)
「行帆の知り合いの方かしら。ありがとうございます」
母の声で思考は停止した。
「蒼矢くんや風見くんが高校・大学の後輩で、その関係で行帆くんとも面識がありました」
「そうでしたか」
「最近母校で講義を受け持つことになり、弟くんは私の講義を受講してくれて……そんな縁でお参りさせて頂こうと思いました」
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