26 / 100
第26話
嘘くさい貼りついたような笑みだ。言ってることも上辺だけ。そう感じる。でも母は彼の言ってることを鵜呑みにして涙ぐんだ。
「行帆のことを思い出してくださってありがとうございます。あの子もきっと喜んでいます」
(兄ちゃんは喜んでなんかいるものか)
何故かそう思った。
「お花たくさんになったわね」
命日はいつも花がたくさん生けられる。元々ある花筒では足りず、土に差し込めるものをこの日だけは用意する。兄が愛されていた証拠だ。今年は思いがけない来訪者に昨年以上に華やいだ。
鳥飼はそのまま去らず僕らが手を合わせている間もずっと脇で見ていた。そして一緒に緩やかな坂を下って行く。彼が蒼矢や両親と会話を交わしているのを後ろから眺めていた。
(痛い……)
ずっとピリピリ全身が痛い。
(早くどっか行け)
常にはない暴力的な感情が渦巻いていた。
「え……っと。鳥飼さん? 今日はありがとうございました」
駐車場に着くと母は鳥飼に深く頭を下げた。
「いえ」
「また来てやってください」
それから母は僕のほうを向く。
「うち寄って行くんでしょ」
そう遠慮がちに訊いてきた。いつ言おうかずっと考えていたのかも知れない。
「うん」
「蒼矢くんも今日はうちのほうにもいらっしゃいね」
逆に蒼矢には明るい笑顔を向ける。
「はい。じゃあお言葉に甘えて」
「私たち先に行くわね」
両親が自分たちの車に向かおうとした時。
「あの私もご仏壇にもお線香を上げさせて貰ってもいいでしょうか?」
予期せずに登場した男は、また思いも寄らないことを言った。
「ええ――」
当然母は「いいですよ」と言うに決まっている。
「だめっっ……」
僕は怒鳴るようにしてそれを阻止する。急に大声を出したので皆驚いた顔で僕を見ていた。
「……っです」
慌ててそう付け加えた。
(平常心、平常心)
そう心の中で唱えていたが。
「花邑くん? 私が行くのは駄目かい?」
鳥飼がそう言ったことに何故か酷く苛立ちを覚え、攻撃的な気持ちになった。
「この先は家族だけにしてください。部外者は遠慮して」
自分でもかなりきつい物言いだと思った。
「歩?」
そんな息子を母は訝しんているようだ。
鳥飼は一瞬眉間に皺を寄せたが、他の誰にも気づかれないうちに元の嘘くさい笑みに戻った。
「そうだね。私に配慮が足りなかったよ。済まないね」
「…………」
僕は何も答えなかった。
「ではまた講義の時に」
「すみません……」
やっと小声で謝罪した。
「失礼します」と両親に会釈をし、「じゃあ、蒼矢また」と蒼矢に向かって軽く手を上げる。彼は自分の車に向かって行った。
「歩、どうしたの? あんなきつい言い方するなんて」
「なんでもない」
(自分でもわからないよ、そんなの。でもあの人に来て欲しくなかったんだ)
それ以上は母も何も言わなかった。
ともだちにシェアしよう!

