28 / 100

第28話

* * 「歩……おめでとう……」  微かに声がして優しく頭を撫でられたような気がして――目が覚めた。  目が覚めると自分の部屋のベッドの上で、傍には誰もいなかった。 「夢……?」  のそっと半身を起こすと昨日のままの服だということに気づく。 「あれ? そう言えばいつの間に……っつつつ」  激しい頭痛が襲う。 (そういえば……)  昨夜のことを思い出す。  夕方六時に風緑はクローズして僕の誕生日を祝ってくれた。  陽翔、乃々花、それから蒼矢。  陽翔が「呼びたい人がいたら呼んでいいよ」と言うので祈を呼んだ。 「わ〜歩お誕生日おめでとう〜呼んでくれてありがと〜」  風緑の扉を潜るなり僕に抱きついてくる。  僕は祈の頭を撫でた。 「ありがとう祈。こんな歳になって誕生日会なんて恥ずかしいんだけど」 「何言ってんだ。幾つになってもやったっていいよー」  くすくすと笑い声が沸いたからか祈が僕から離れる。 「初めまして。神奈木祈です。桜守神社に住んでいます」  丁寧に挨拶をした。  陽翔と乃々花も自己紹介し、最後に蒼矢も挨拶した。 「イラストレーターの月城蒼矢さん! それで歩の従兄さんのお友だちで昔良く遊んでくれたお兄さん! 歩から良く聞いてます。本物に会えて光栄です〜」 「いのりっ」  突然何を言い出すのか。制するが既に遅し。 「え〜歩、蒼矢のこと良く話すの? 僕じゃなくて?」  陽翔から軽い不満。 「陽ちゃん、そんなことないよ」 「従兄さんの話もちゃんと聞いてますよ。でも蒼矢さんの話のほうが。噂通りのイケメンですね」 「そう? ありがとう。あゆが俺の話をしてくれてるなんて嬉しいなぁ」  ちらっと僕に視線を送る。本当に嬉しそうな顔をしているのでこっちが照れる。 「人気イラストレーターの月城蒼矢さんのことは芸術学部の人間にとっては興味深い話題ですよ。まさかこんな近くに住んでるなんて」  なぁと僕の顔を見る。 「Bird Entertainmentの社長サンとは先輩後輩の間柄ってのも、なんて言うか世の中狭いですね〜」  そう言ってから「あれ?」っと口の中で呟いた。  僕と蒼矢の顔を交互に見て「んん?」とまた唸る。 「きみ、なんか面白い子だね。桜守神社の神主さんの息子さん?」  蒼矢が可笑しそうに言った。  確かにと僕は思う。顔は日本人形みたいに綺麗で近寄りがたい感じがするが、口調がどうにもそれを裏切るやや残念な美人だ。 「いえ違います。叔父が神主でオレはK大学に通う為に居候させて貰ってるんです」 「あゆと一緒かー」 「ですね!」  勝手に二人で盛り上がっていたので、陽翔が痺れを切らした。 「はいはい。お話はまたあとにして、とりあえず歩の誕生日を祝して乾杯しよう」 「あ、そうですよね〜。月城さん前にしてテンション上がっちゃった。歩ごめんね」  またきゅっと抱きついてきた。  偶然祈の肩越しに蒼矢の顔が見えた。 (ん? なんか変な顔してる)  

ともだちにシェアしよう!