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第29話

 大人たちはそれぞれアルコールを手にしていた。  風緑は午後五時からアルコールも提供していて、陽翔がカクテルを作る。  僕と祈はオレンジジュース。祈はまだ誕生日前だし、僕は今日で二十歳だが特に飲みたいとは思わない。ジュースで充分だ。 「では……歩の二十歳の誕生日を祝して」  陽翔が音頭を取った。 (二十歳とか言わなくてもいいのに……)  ちくんと胸が痛んだ。  わざわざこんな会を開いてくれたけど、やっぱり誕生日は心から祝えない。  特にこの『二十歳』という年は。 (陽ちゃんも……蒼矢さんも。本当はそう思ってるに違いないんだ……)  ちらっと蒼矢を見ると目が合ってしまった。  優しく微笑まれる。その目には愛しみが込められているような気がした。 (そんな目で見ないで。僕は兄ちゃんじゃないんだから) 「乾杯!」  カチンカチンとグラスを合わせる音が遠くに聞こえた。 「歩?」 「あゆ?」  物思いに沈んでいた僕は完全に出遅れた。気がつくと四つのグラスが目の前に。そして同じような不思議そうな顔が四つ並んでいた。 「ありがとう、みんな」  無理矢理、でも自然に見えるように笑顔を作った。  カチンカチンカチンカチン。空中に並んだグラスに自分のグラスを順番に合わせていく。  僕がそうしたことで漸く会が始まる。皆一斉に最初の一口をつけた。  僕も。 「ぶっっこれなにっ? ジュースじゃないよねっ」  思わずぷはっと吐き出しそうになって、なんとか飲み込み陽翔をキッと睨んだ。 「あ、それ。オレンジ・フィズっていうカクテル。アルコール分少なめにしておいたから」 「そんなっ勝手にっ」 「大丈夫、大丈夫」 「おおーっ、歩。いいじゃん、飲める年齢になったんだから、少しくらい」  祈にも言われ、ちびちび飲み始めた。  その後も度数低めでカクテルを作られ、ゆっくり飲んでいた。  初めは全員で固まって飲んだり食べたりしていたが、次第にバラけていきその相手も入れ替わる。祈は意外に社交的で全員に回っていた。特に蒼矢には興味があるらしい。 (何話してるんたろう……)  カウンター席に座ってそれを眺めていた。足元がふわふわしてきて立っていられなくなったのだ。 (これが酔うってことなのかな)  初めての体験だった。 「歩〜大丈夫?」  祈が心配してジュース片手に隣の席に座った。 「うん。大丈夫だよ――蒼矢さんと何話してたの?」  凄く気になっていた感は出さず軽い口調で訊いてみた。 「いろいろだよ。仕事のこととか、あとはそう、歩の子どもの頃のことなんか。すごくやんちゃだったって」  くすくす楽しそうに笑う。 「今とはだいぶ印象違うな〜」 「えっ。蒼矢さんいったい何話したんだよ」  蒼矢を振り返る。また目が合ってしまい、慌てて祈のほうに顔を向けた。

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