29 / 100
第29話
大人たちはそれぞれアルコールを手にしていた。
風緑は午後五時からアルコールも提供していて、陽翔がカクテルを作る。
僕と祈はオレンジジュース。祈はまだ誕生日前だし、僕は今日で二十歳だが特に飲みたいとは思わない。ジュースで充分だ。
「では……歩の二十歳の誕生日を祝して」
陽翔が音頭を取った。
(二十歳とか言わなくてもいいのに……)
ちくんと胸が痛んだ。
わざわざこんな会を開いてくれたけど、やっぱり誕生日は心から祝えない。
特にこの『二十歳』という年は。
(陽ちゃんも……蒼矢さんも。本当はそう思ってるに違いないんだ……)
ちらっと蒼矢を見ると目が合ってしまった。
優しく微笑まれる。その目には愛しみが込められているような気がした。
(そんな目で見ないで。僕は兄ちゃんじゃないんだから)
「乾杯!」
カチンカチンとグラスを合わせる音が遠くに聞こえた。
「歩?」
「あゆ?」
物思いに沈んでいた僕は完全に出遅れた。気がつくと四つのグラスが目の前に。そして同じような不思議そうな顔が四つ並んでいた。
「ありがとう、みんな」
無理矢理、でも自然に見えるように笑顔を作った。
カチンカチンカチンカチン。空中に並んだグラスに自分のグラスを順番に合わせていく。
僕がそうしたことで漸く会が始まる。皆一斉に最初の一口をつけた。
僕も。
「ぶっっこれなにっ? ジュースじゃないよねっ」
思わずぷはっと吐き出しそうになって、なんとか飲み込み陽翔をキッと睨んだ。
「あ、それ。オレンジ・フィズっていうカクテル。アルコール分少なめにしておいたから」
「そんなっ勝手にっ」
「大丈夫、大丈夫」
「おおーっ、歩。いいじゃん、飲める年齢になったんだから、少しくらい」
祈にも言われ、ちびちび飲み始めた。
その後も度数低めでカクテルを作られ、ゆっくり飲んでいた。
初めは全員で固まって飲んだり食べたりしていたが、次第にバラけていきその相手も入れ替わる。祈は意外に社交的で全員に回っていた。特に蒼矢には興味があるらしい。
(何話してるんたろう……)
カウンター席に座ってそれを眺めていた。足元がふわふわしてきて立っていられなくなったのだ。
(これが酔うってことなのかな)
初めての体験だった。
「歩〜大丈夫?」
祈が心配してジュース片手に隣の席に座った。
「うん。大丈夫だよ――蒼矢さんと何話してたの?」
凄く気になっていた感は出さず軽い口調で訊いてみた。
「いろいろだよ。仕事のこととか、あとはそう、歩の子どもの頃のことなんか。すごくやんちゃだったって」
くすくす楽しそうに笑う。
「今とはだいぶ印象違うな〜」
「えっ。蒼矢さんいったい何話したんだよ」
蒼矢を振り返る。また目が合ってしまい、慌てて祈のほうに顔を向けた。
ともだちにシェアしよう!

