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第30話
祈がじっと僕を見つめていた。
「ん? なに?」
すごく何かを言いたそうにしている。肩が密着するくらいに接近してくる。
「あのさ……」
僕らにしか聞こえない音量で口を開く。
「うん?」
「もしかして……歩のお兄さんと月城さんて……」
どくんと胸が跳ねた。その先の言葉が想像できて。
「恋人同士だった……とか?」
酔いも回って頭がぐるぐるする。
「どうして……そう思うの?」
「月城さんとご挨拶した時に歩のほうに顔向けたら、歩の中の人から得も言われないような愛おしそうな波動感じたんだ。思わず何度も見返しちゃうくらい。あれって『愛』だよね」
呆然と祈の顔を見た。すぐには言葉はでなかった。祈は僕が警戒してると思ったのかも知れない。
「あ、言いたくなければ言わなくてもいいよ」
ぱっと両の掌を広げた。その行動になんの意味があるのかはまるでわからない。何の意味もない可能性も高い。
「ただオレそういうことには偏見はないから。安心して……」
祈にそう言われればそうだなと思う。まだ一年のつき合いだけど、それ程の信頼関係はあると思っている。
僕はほっと息をついた。
「……うん……そう。でも本人たちから直接聞いたわけでもないんだ。それからそれを陽翔たちが知っているのかどうかもわからない」
「了解。このことは口外しない。ちなみに、鳥飼さんの話を月城さんにした時はめちゃ負の感情が見えた」
「え?」
「オレが思うに。お兄さん・鳥飼さんの間だけでなく、それに月城さんが加わっていると思う」
それを聞いて首を傾げた。
「どういうこと?」
「そうだなー。例えば三角関係だったとか?」
「ええーっ」
つい大声を出して仰け反ってしまった。後ろを振り返って確認したが、向こうも騒いでいたのでたぶん聞こえてはいないだろう。
気を取り直してもう一度祈と身体を寄せ合った。
「まさかでしょ」
「あ、だから、例えばの話だって。だけど三人の間に何かあるのは間違いと思うなぁ〜」
「ん〜」
僕は想像した。
三角関係というのは三角にならなきゃいけない筈だ。行帆、或いは蒼矢の心が離れて……とでもならなきゃいけないけど、それはありえないのような気がする。あとは鳥飼がどちらかに横恋慕をして何か仕かけたか。
(そっちのほうが可能性高いなぁ)
そんなことを考えていていると。
「……歩もだよね……」
という呟きが耳に入ってきた。
「え? 僕が何?」
しかし祈は何事もなかったような顔をしていた。
「何が?」
「なんか今……」
(僕の聞き間違い?)
祈が知らん顔をしてジュースを飲んでいるので、僕は聞き間違いか空耳だということにしておいた。
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