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第33話
『三人の間に何かあるのには間違いない』
祈が言ったことを思い出す。
それを今僕の口から勝手に出てきた言葉が裏付けているような気がした。
鳥飼と僕の中にいる兄(仮) の間には蒼矢に知られたくない何かがある。
そして、どうやら鳥飼への悪意がある。
兄(仮)はいったい何をしようとしているのか。
「きみは本当に不思議だな」
「普段はごく普通の、どちらかといえば余り強気ではない男の子なのに。今みたいに酷く強気で挑発するような言動を取る。そんな時のきみは何故かすごく綺麗に見えるよ……きみのお兄さんよりもね」
(うわぁ〜)
一瞬鳥肌が立った。
(綺麗とか僕への褒め言葉じゃないよ。僕は綺麗なんがじゃない、綺麗なのは兄ちゃんだ)
そうだ、と僕は思った。
(兄ちゃんだってこんな強気なところはなかった。柔らかくて優しい人だった。僕の中にいるのは兄ちゃんの姿を模した何者か……とか。まさか、悪霊!?)
「歩くん? 歩くん?」
「あ、はいっ」
名前を呼ばれて思考中断。
「どうしたの? なんか化け物にでもあったような顔をしてるよ」
顔に出ていたらしい。慌てて笑顔を見せる。
「いえ、なんでも〜」
「なんかまた雰囲気変わった」
「そ、そんなことー」
たぶんこの男は僕ではない僕のほうに興味があるのに違いない。
自分の意志とは別のところでの言動の後に素に戻って取り繕うのに、体力気力を使いいつもどっと疲れてしまう。
車は桜の森公園の前に停められた。
「本当にここでいいのかい? 風緑の前まで送るのに」
「いいんです。ここで。少し歩きたい気分なので」
シートベルトを外しながら僕は言う。しかし、今はまた僕ではない僕だ。こんな時の声音には何処か冷たい氷のような響きがある。
僕自身は。
(冗談じゃないよ〜風緑の前に停まって陽ちゃんにでも見られて蒼矢さんにも知られたりしたら〜)
そんな弱気な気持ちでいっぱいだった。
「そう? じゃあ、また連絡する」
「ええ」
ドアを開けようとして肩を掴まれた。
「なんです?」
「本当は帰したくない」
(え? 待って? 何この展開)
と思っている間に頬に手を当てられ、顔が近づいてきて。
(待って待って待ってー)
唇を押し当てられた。
僕の身体はそれを許した。しかも初めてではないような気さえする。更に唇を割って舌が入り込んできて、僕の舌は勝手にそれに応えた。
(気持ち悪い)
全意識を放棄して気を失ってしまいたいくらいだ。
鳥飼の手が僕の胸の辺りを這い周り始めてから、やっと僕の手が動いてそれをやんわり押さえた。
「こんなとこで……誰が見ているかもわからないのに」
我ながら悪女のような微笑みをしている、そう感じた。
「そうだな。また次の楽しみに取っておこう」
ぞわっと背筋に怖気が走った。
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