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第37話
* *
六月の新緑の季節。
朝まで降っていた雨も止み、世界は洗われたように美しかった。
古都鎌倉。観光地の喧騒を抜け住宅地も抜け緑深い静かな景色が広がる。今目に映るものは全て月城家の土地だった。
月城家が鎌倉でも古くからある由緒正しい家柄だということは子どもの頃ちらっと耳に入ってきていた。しかし当時の僕には意味もよくわかっていなかったし、蒼矢と遊ぶのには彼が何者かなど何の関係もないことだったので興味もなかった。
蒼矢が運転する車の助手席に乗り、さっき門らしき場所を通り抜けたけどまだ車で走っている。
(わぁ〜すご〜。これが蒼矢さんの実家かぁ〜と言ってもまだ建物見えないけど?)
やがて緑の中に荘厳華麗な洋館が見えてきた。
月城家が名家であることを今日始めて実感した。
何故僕が蒼矢の実家に行くことになったのか。
それは週の半ばのことだった。いつものようにカウンター席にいた蒼矢が言った。
「あゆ、今度の日曜暇?」
「暇じゃないですよ。バイト昼間からあります」
最近お誘いも多く、その度に最初は冷たい口調で切り返す。
「あ、いいよ。バイト休んで」
「陽ちゃん」
そして理解ある陽翔。もともと居候させて貰っていて申し訳ないと思っている僕の気持ちを汲んでのバイト扱いだ。いつでも休んでいいと思ってくれている。それに最近蒼矢が僕を誘うことを何故か喜んでいるふしがある。
「お休みくれるって」
蒼矢がにこにこ笑っているのを僕は渋い顔で見ていた。
「鎌倉の家に来ない?」
「鎌倉……って蒼矢さんの実家?」
子ども頃は僕の家か陽翔の家で会っていた。蒼矢の実家に誘われたのは当然初めてだった。
「そう」
「あ、もしかしてあれか?」
蒼矢が言う前に陽翔がすかさず言った。蒼矢が頷く。
「あれ? あれとは?」
「蒼矢のじーちゃんの誕生日会。月城家の広い庭で行われる豪勢なガーデン・パーティー」
「ガーデン・パーティー?!」
驚いてつい声がでかくなる。僕はぶんぶんと頭を横に振った。
「そんなとこに行けないよ〜蒼矢さんのお祖父さんにだって面識ないのに」
「大丈夫大丈夫。一人くらい紛れてても全然わからないし、美味しいもの食べに行くと思って来てくれればいいから。だからおいで」
(蒼矢さん〜そんな軽く〜)
僕が困って答えられないでいると、
「そうそう、僕も学生の頃何回かお邪魔してたから、平気。美味しいもの食べに行っておいで」
蒼矢に輪をかけて軽く陽翔が言った。
「え〜陽ちゃん〜〜」
そんなこんなで僕は今ここに来ている。
蒼矢が立体駐車場に車を停めた。個人の家に立体駐車場とは。しかも今たくさん停まっている車を見ればピカピカの高級車ばかりだった。
それだけで僕は尻込みをした。
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