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第39話

 ガーデン・パーティーの喧騒を背に感じながら荘厳華麗な建物に近づいて行く。  重厚かつ繊細な彫り物を施してある扉を見ただけでも中の豪華さが想像できる。 (ここが蒼矢さんの家……)  広い玄関ホールを通り抜け階段を上がり二階の渡り廊下を渡る。建物はニ棟(ふたむね)あるのだろうか。全貌がわからない。 (ひろ……っ。まだ着かないのかな)  トレイは割りとずっしりとしていて腕がぷるぷるしてきた。  また階段を上がり、少し廊下を歩くとやっと部屋に到着したらしい。蒼矢は片手で軽々トレイを持ってドア開けた。 「どうぞ」  中は想像以上に広かった。まだ桜の森にある今の彼の家のほうが普通サイズのような気がする。そうは言ってもそこに一人で住んでいるわけだから、やっぱり『一人にしては広いんじゃないですか?』としか思えないのだけれど。 (これが蒼矢さんの部屋……)  初めて来たのだ。  それなのになんだか酷く懐かしい気がした。 (これは……もしかして……兄ちゃんの記憶……?)  そうだ。兄が生きていた頃は蒼矢はまだ桜の森には住んでいなかった。来たことがあると言えばこの鎌倉の家のはず。 「どうした? 中入って?」 「あ、はい」  僕が入ると蒼矢はまた片手でドアを閉め、窓際にあるニ、三人程度で使えそうなテーブルの上にトレイを置いた。僕もそれに習う。  窓は開いていてレースのカーテンが揺れている。  テーブルの傍にはオレンジジュースとアイスティー、それから水の入ったピッチャーが置かれたワゴンがあった。別ルートでもあるのだろうか。先程給仕の人に頼んだ飲み物は既に部屋に運ばれていて、窓を開けたのもその人かも知れない。  僕は部屋の中を見渡した。  広い部屋には余り家具のない印象だった。一人で使うには広めのベッドと、今トレイを置いたテーブルセット。中央にソファーセット、それから壁面に作業用なのか机が置かれていた。勿論これがもし僕の部屋に全部あったらきゅうきゅうだろうから、やはり部屋の広さの割りにはということだろう。  ベッドの横にまた扉があり『あそこはウォークインクローゼットなのだ』と中を見てもいないのにわかってしまった。 (これも兄ちゃんの記憶だろうか……)  そう言えばこの家に近づくに連れて『ドス黒い』ものになっていった兄が浄化されていくような感覚がしていたのだ。  突然、ぶぁぁっと切なさのようなもので溢れ返る。 「……蒼くん……」  また僕の口から自分の意志とは関係なく言葉が漏れた。 「……どうした、あゆ? なんで泣いてるの?」 「え……」  そう言われて気づいた。僕の左目から涙が流れて頬を濡らしていた。僕は慌てて涙を拭った。 「なんでもないです、ちょっと目が痛くて。何か入ったかな」  不自然な理由だろうか。蒼矢が訝しげに僕を見つめている。  

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