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第42話

(何故この人は僕に執着するのか)  ずっとイライラと歩き回る彼を見ていた。 (兄ちゃんと違って僕には何もない。ごく普通の大学生だ)  四月に出会ってからたったニか月で。こんなに縛りつけられような要素は何処にもないはず。  いつも上辺だけの言葉や嘘くさい笑顔を浮かべる鳥飼がこんなにも感情を顕にするなんて。 (それとも……鳥飼さんには僕が『兄』にでも見えるのかな)  彼がぴたっと僕の前で止まった。僕を見る目は血走っている。 「きみも……蒼矢のほうがいいんだな」 (蒼矢さん? 蒼矢さんが関係あるの?)  最初に二人が一緒にいた日以降もニ、三度風緑で見かけている。二人は仲の良い先輩後輩に見えた。 (でも違う? ひょっとして蒼矢さんのことを妬んでるのかな?)  彼は『きみも』と言った。この『きみ』は恐らく兄だろう。やはり鳥飼は兄のことを想っていたのかも知れない。しかし兄には既に蒼矢がいた。 (それで?)  それでどうだというんだろう。 (彼は兄ちゃんのことが好きで……でも兄ちゃんには既に蒼矢さんという恋人がいて……)   単なる想像だけど、それが止まらない。 (まさか……兄ちゃんの死に、鳥飼さんが関係してるとか?)  最悪のことを考えてぶるぶるっと頭を振る。 (いやいや、まさか、いくらなんでも) 「何考えてるんだ、蒼矢のことか?」  毒を含んだ言葉が間近で聞こえてふと見るとすぐ傍に鳥飼の顔が迫っていた。しかも僕の腕は何故か彼の肩に回されている。どう考えても自分からやっているようにしか見えない。  僕がぼうっと考えている間に状況が変わっていた。 (うわっなに? どういうこと? 兄ちゃん!? また兄ちゃんなのかっ) 「違いますよ、蒼矢さんのことなんか考えてません。僕は蒼矢さんより貴方のほうが……」  またしても勝手に口が開く。 (兄ちゃん! 何言ってくれちゃってんの) 「そうか?」  どう見ても信用していないと顔だ。 「だったら、いいよな? 今まではぐらかされていたけど今日は許さない」  そう言うと唇に噛みついてきた。 (いつっ)  痛いなんて言っている間もなく唇を塞がれ合間を開かれ舌が入り込んでくる。 (やめてっ気持ち悪いっ)  自分の気持ちとは裏腹に身体は相手に応えているようだ。入り込んできた舌を自ら絡める。上に着ていたパーカーは彼の手で脱がされ、床に落とされると僕はベッドの上に押し倒された。  鳥飼の唇は僕の唇から離れ、首筋、鎖骨に下りていく。跡をつけるように強く吸いついてくる。  僕の腕は彼の背に回されていた。  

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