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第43話

 僕の口から喘ぎ声のようなものが漏れる。正直僕にはこういう経験もないし、僕自身は悍ましさしか感じていないのでこれが喘ぎ声かどうかわからない。  Tシャツとその下のタンクトップもたくし上げられ、触ってもたいして楽しくもなさそうな乳首を摘み上げられる。痛いだけだし、嫌悪感しかないのに自分の口からはまた出したこともないような声が零れる。  兄にはこれが快感なのだろうか。  兄が行動する時は僕の意識はない、または水の中に沈んでいるような揺らいだ感覚になることが多い。 (なのに! 今に限って!)  何故こんなに鮮明に自分の感覚として捉えてしまうのか。すべて兄に明け渡して気を失ってしまいたいくらいだ。 (兄ちゃん、恨むよ〜)  それとも全部鮮明なことに何か意味があるというのだろうか。  鳥飼の唇は更に下に下りていき、さっき摘み上げていた乳首を舐め回しぎゅっと噛みつく。 「……っう」  鳥肌が立った。勿論快感からなどではない。その手はジーンズのファスナーを下げ大きく広げ、茂みの中に直に手を差し入れる。 「……なんだ、全然感じてないのか? それとも怯えているのか? ――蒼矢ともなのか?」  なんの反応も示さない、逆に怯えて縮こまっているそこに触れながら苛立たしげに言う。 (何言ってんだ。蒼矢さんと何かあるわけが……)   そこで僕は気がついた。 『全然感じていない』 (そうだ……誘うような素振りや喘ぎ声を漏らしているのに)  身体は全くの無反応だ。『兄』は快感など感じていないのではないだろうか。 (だとしてたら『演技』なのか……? でも何故そんなことを)  もしかしたら、今意識が鮮明な理由に繋がっているのではないかと思った。兄は僕に何かを知らせたいのではないだろうか。  鳥飼の手はいくら触ってもまったく反応を見せないそこを放置し、更に奥へ。誰も、自分でさえも触れたことのない場所に、ごつごつとした指を一本突き立てた。しかし窄んだそこはなかなかそれを受け入れず爪の先程度しか入っていない。 「痛いっやめっ」  そう言っているのは僕だ。  そして。 「僕のことなんて本当は好きじゃないくせに」  地獄の底から響くような暗い声は僕ではない。 「なにっ?」  鳥飼がその言葉を聞き止め力が分散すると僕の窄んだそこは彼の爪の先を押しだした。  僕の目の前で僕の両手は鳥飼の首に回っていく。 「あんたが真実好きなのは蒼矢だろ?」  そう言ったのと同時にぐぐっと指が彼の喉元に食い込んでいく。 「……んだと……っ」  鳥飼は苦しそうに声を上げる。 (なんだって?!)  驚いたのは僕も同じだった。 (鳥飼さんは、蒼矢さんを!?)  しかしそんなことを考えている場合ではなかった。僕の手は更に鳥飼の首を絞めていく。 (やめてよ! 兄ちゃん!)

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